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第六十六話

「遅くなってすまなかった、成田。()を回してくれ」


 打倒した『新世代』を背に決着を告げる。成田は変わらず電撃で複数の『新世代』達を押し留めたまま膠着状態を維持していた。だが、逆に言えば成田の異能は決め手にならない──少なくとも『新世代』が相手では──という証左でもある。


 視線だけで離れた相手に電撃を与えられるのは間違いなく強力だが、一瞬しか発現できていない。あれでは私や真田に通用しても、肉体を強化できる『新世代』達には致命的なダメージを与えるのは難しい。異能は強力だが万能ではないとモノローグして(わかって)いながらその事に気づかず、その上『飛燕爪』を出し惜しみして一人倒すのですら手間取ったのだ。成田に罵詈雑言を浴びせられたとしても仕方がない。


「──は? てめえ、いったい何勘違いしてんだ?」


 そう覚悟していた私に返ってきたのは、混じり気のない疑問。いや、最後の方には皮肉めいたものが見え隠れしていたが、総括すればやはり疑問だったのだろう。──()()()がこの程度相手にてこずるとでも思ったのか、と。


「おまえが『新世代(連中)』を相手に勝てないとは思わない。だが──」


 今も油断なく放っている紫電は『新世代』の()()を焦がすだけで、次の瞬間には何事もなかったのようにまっさらな皮膚が下からせり上がっている。結果としては足止めになっているものの、それは下手に攻め込むより多少なりとも消耗させた方がいいという向こうの都合であって、必ずしも突破できない理由にはなりえない。


 成田の攻撃は儚く咲いては散る花火のよう。生身ならともかく、異能で肉の壁を作り出せる『新世代』とは最悪の相性だ。もっとも、直接電撃を当てるなら話は別だが──


「(──生徒会室での体ごなしを見る限り素人と大差がない。あれでは近接戦闘は無理だ)」


「舐めた想像しただろ、今。……まぁ、いいや。そろそろ潮時だろうし──」


 心底呆れたと言わんばかりの溜息を吐き、右手をかざす、その掌には『新世代』を足止めしてきた電撃。ただ今までと違うのは、花火に例えた一瞬のきらめきではなく、断続的から連続へと変わり、やがてその光は棒状へと形作られていく。


「──『電熱の短槍(プラズマ・シャフト)』」


 生み出し、凝縮させた雷にそう名付けると、長柄の武器にするような構えをとる──などという事はなく──成田の格闘の練度を考えると武器の扱いに長けているとは思えない──穂先にあたる部分を適当な『新世代』に向けて、かざした右手を軽く振り下ろす。腕の動きだけで放たれた雷は、その力感のない投擲に反して弾かれるように飛翔し、対象の二の腕あたりに命中する。


 圧倒的な速さの前にかわす事も防ぐ事も出来ず、光が生み出す熱に焼かれて絶叫し、体を痙攣させる『新世代』。異能で増量した肉体のおかげでどうにか生きているが、なまじ頑丈さと生命力を底上げした分、結果的に余計な苦しみを味わう事になっている。その惨憺たる有様はいっそ、頭か心臓に打ち込まれて即死した方が救いがあったかもしれない、そう思わせるには充分なほど。


 しかもタチが悪いことにあえて生かしたのでも無駄に苦しめようとしたのでもなく、単に狙いが合わなかっただけに過ぎない。成田の一番近くにいた私は、あ、逸れた、という呟きを耳にしたからだ。


 さすがに他の『新世代』も同類のそんな苦悶の姿を見せられて戦意を保てるわけもなく、表向き包囲の形は違いないが、いつ攻めるかではなく、いかに攻めずに済むかへと変化している。


「遠くが無理なら近くで集中してから撃っちまえばいいんだよ」


「それができるなら、なぜもっと早くやらなかった?」


「は? なんであたしだけ疲れなきゃいけねぇんだよ。てめえもそれなりに働けよ」


「何もしないというつもりはないが、手早く片付けた方が平井を追えたんじゃないのか?」


「そりゃ、無理だ──こんな雑魚はともかく後ろに厄介そうなのが居るからな」


 もはや完全に戦意喪失した『新世代』には目もくれず、一点を睨む成田。その方向には彼らを率いていた月ケ丘清臣がいる。だがしかし──


「残念ながら私はただの一研究員、戦闘力は皆無だ。黒幕を早々に片付けたいというのなら止めはしないがね」


 謙遜も皮肉もないただの事実として肩をすくめてみせる月ケ丘清臣。たしかにその立ち振る舞いからは戦える者のそれには程遠い。先ほどのような異質な気配も──


「とぼけんなよ。あたしは、その後ろの奴に言ってんだ──いつまで隠れてやがる、とっとと降りてこいや」


 そう、異質な気配の主は『新世代』達でも月ケ丘清臣でもなく別にいる──月ケ丘清臣の余裕と成田の発言でようやくその事に気づいた私は、成田の言葉に誘われさらに後方、対面の最後列席まで視線を伸ばす。

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