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(ゆび、わ?)


グラエルが懐から取り出したものを見て、理央はぱちりと目を瞬いた。

日の光を反射して輝く華奢な銀色のソレは、紛れもなく女性用の指輪だ。それと彼の我が儘と、何の関係があるのだろうと理央は視線を指輪からグラエルへ戻すと、彼はどこか苦しそうに笑んで指輪を差し出した。


「これを、貰ってほしい」

「え……?」

「貴女の指に合うか、自信がないんだけど――」

「や、ちょ、ちょっと待ってください。

こんな高価そうなもの、いただけませんっ」


思いもよらないことに言葉を失っていると、左手をとられ指輪を少し強引に渡されそうになり、慌てて手を引っ込めた。

一体どうしたというのだろう。ノマライトに居た頃されたこういった贈り物は全て突き返したし、この間だって未だに増え続けている色んな人からの貢ぎ物について愚痴を零したばかりだ。理央がこういうものを単純に喜べない性質なのは、グラエルが一番よく分かっていそうなものなのに。


(それに、指輪なんて)



理央が躊躇する理由は他にもある。

こちらの世界ではどうか知らないが、理央の育った世界では数あるアクセサリーの中でも指輪は特別な意味を持つことが多い。それが左手薬指に填めるものでなくとも、友人相手に指輪を贈るような人は中々いないはずだ。

その慣習は彼に教えたことがあっただろうかと理央が混乱しながら記憶を探っていると、グラエルは指輪を差し出したまま口を開く。


「貴女の世界でも、指輪は特別なものなのだろう?

俺の国でも親しい身内や友人、それに恋人が戦地に赴く時には相手の無事を祈って指輪を贈る風習がある」

「は、はあ……でも」

「受け取って。故郷に帰る時には外して捨ててくれても構わない。

――でも、それまでは身につけていてほしい」

「……どうして」


――どうしてそこまで?

喉まで出かかった言葉はしかし、口にだすことはなかった。

それは聞いてはいけないことだと直感が教える。暴いてはいけない、暴いてしまえばもう戻れなくなると。

理央はしばしグラエルと見つめ合った。熱っぽい金色の瞳は、飽きることなく理央を映している。



言葉より雄弁なその表情は理央の心をざわめかせる。


気付いては、いけない。


自分がソレを受け入れることは絶対に有り得ないと分かりきっている。知ってしまえば、自分も彼も傷付けるだけ。


だから、


「……ありがとう、ございます」


彼の手の中できらきらと輝くそれだけを、理央は受け取った。

グラエルから理央の手へと渡った指輪をじっと見つめる。はめ込まれた蜜色の石がまるで理央を見つめ返しているようだった。


「陛下の瞳と、同じ色ですね」

「指輪以外でもそうなんだが、ノマライトでは相手を見守るという願いをこめて、自分の瞳と同じ色の石を贈るんだ」


御守りのようなものなのか。どこかホッとしているようにも聞こえるグラエルの声を聞きながら、理央は左手の中指に指輪を填めた。

彼が心配していたサイズは、ぴったりだった。


「大切にします」


蜜色の部分を指でなぞってから、理央は顔を上げた。


自分は上手く笑えているだろうか。


想いを受け入れることは出来ずとも、せめてこの喜びだけは彼に伝わればいい。そう、願った。

グラエルとは割とあっさり。もっとがっつりした感じでも良かったかなーとも思わなくもないですが。


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