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188話 フォローも楽じゃない

 日が昇る。

 いよいよ大会当日だ。

 今日は魔人たちの血沸き肉躍る戦いが見られるんだな。そう思うと自分が大会に出るわけでもないのにソワソワと気が逸ってしまって、睡眠時間がいつもの半分の三十分になってしまった。

 終始ソワソワしながら身支度を済ませた俺は、事前に言われていた起床時間丁度にフィーリアを起こしてやる。


「おはようフィーリア、よく眠れたか?」

「んん……っ。……? ああ、ゆーりさん。おはよーございますー……」


 体を揺すると、フィーリアは寝ぼけ眼で上半身を起こす。

 そしてとろんとした目で俺を見つめ、再び目を閉じた。


「むにゃむにゃ……もうちょっと寝させてください……あと六時間……」

「強欲すぎるだろ」


 もう少し謙虚な要求をしろ。

 再び寝転がったフィーリアのかけ布団を問答無用で剥ぎ取る。

「ああー」と間延びした声を上げて腕をバタバタさせるフィーリア。


「うーん、ユーリさんのえっちぃ……」

「風評被害も極まりないな」


 そんな会話でようやく観念したのか、のそりと起き上がり外出の準備を始める。

 やれやれ、何とかロリロリたちとの集合時刻には間に合いそうだな。




 集合場所である王宮の前へと到着すれば、すでにそこには四人が待ち構えていた。

 ロリロリ、ガルガドル、アドワゼル、秘書であるマリーの四人だ。

 俺たちは一緒に闘技場へと向かう手はずになっていた。


「お待たせしてすみません」

「いや、約束の時間にはまだあと十分ある。我らも丁度今来たところだしな」

「そう言っていただけるとありがたいです……」


 ぺこぺこと頭を下げるフィーリアには、先ほどまでのフニャフニャ感は全く見受けられない。

 その変わり身の早さは大したものだ。あとはもう少し朝に強くなってくれるといいのだが……まあ朝のフィーリアと普段のフィーリアのギャップを見るのも楽しくはあるし、別にいいか。


 フィーリアから目を離すと、ぴょんぴょんとせわしなく動き続けている金髪の幼女が目に入る。ロリロリだ。

 ふんす、ふんす、と息を荒くし目を輝かせ、見たところかなり興奮しているみたいだな。まるで俺みたいだ。親近感がわくぜ。


「二人も来たし早く行こ! ロリロリは昨日からずっと楽しみだった! 逸る気持ちが抑えられない!」

「奇遇だなロリロリ。俺もそうだぞ」

「じゃあロリロリはユーリとおそろいだな! ロリロリ知ってるぞ! こういうのペアルックって言うんだ!」


 言わないと思うぞ。

 ガルガドル、お前の娘が言葉を間違って覚えてるみたいだぞ。教えてあげた方がいいんじゃないのか?

 ……ガルガドル? どうした、そんな熱意に燃えたような瞳をして。


「よし決めた、我が国の辞典のペアルックの意味を書き換える! 早速見識者を集めねば!」


 駄目だこいつ。早く誰か何とかしろ。


「国王様、それは純度百パーセントの職権乱用です」

「そうよあなた、そんなことしちゃ駄目じゃない」


 と思ったら、マリーとアドワゼルが止めてくれた。

 この二人がガルガドルのフォロー役なんだな。手慣れた感じといい、役割分担がしっかりできてるみたいだ。


「……すまん」

「父上はおっちょこちょい! もうちょっと考えて発言しような?」

「……うん」


 ロリロリに無造作に頭を撫でられ、すっかり当初の勢いを失うガルガドル。

 国王ともあろうものが娘に諭されてるのを見るのはなんとも言えない気分になるな。


「ごめんなさいね、親ばかで。さあ、そろそろ行きましょう」


 そう言ってアドワゼルが地竜車の方をチラリと見る。

 王族専用の地竜車らしく、豪華絢爛な装飾が施されている。そして地竜車の前方にはこれまた立派な黒い角が二本生えていた。

 見るものを威圧するような堂々たる雰囲気の地竜車だ。

 ちなみに中は二列になっていて、前後で三人ずつ、合計六人が座れるようになっているみたいだ。


「私とガルガドルとロリロリが前の席、マリーはお二人と一緒に後ろ。これでいいかしら?」

「うんっ! ロリロリ二人の間に座る! ほら、座ろ座ろ!」

「ハッハッハッ、そう急ぐなロリロリ。地竜車は逃げんぞ?」


 ロリロリが手を引いて、家族三人が前の席に座った。

 それに少し遅れて俺たちが地竜車に乗り込む。マリーは一番最後に乗り込み、ドアを音もなく閉めてくれた。

 席は俺が真ん中で、左にフィーリア、右にマリーだ。


 そして地竜車が走り出す。

 闘技場までは徒歩で三十分ほど。この地竜車なら十分ほどでつくということだ。

 ……十分か。ただ黙って乗り込んでいるにしては長い時間だな。


「マリー、だったよな?」


 俺は隣に座るマリーに話しかけてみることにした。

 マリーは少しだけ眉を上に動かすと、すぐに元の顔に戻ってこっちを見てくる。


「はい、私はマリーです。何か御用でしょうか」

「いや、特に用があるわけじゃないんだがな。そういえば面と向かって話してたことねえな、と思っただけだ」

「たしかにそうですね」


 考えてみればここ数日かなり顔を見る機会は多かったのに、あまりしゃべった記憶がない。今日でこの国も最後なんだし、少しくらい話をしてみてもいいだろう。


「秘書というのは大変じゃないか? 人のフォローをする仕事だろ?」

「まあ、大変かと言われればその通りなんですが……でも楽しいです。やりがいのある仕事ですよ」


 マリーは前に座るガルガドルたちの方を見た。

 ガルガドルたちは三人での会話に夢中で、マリーの視線には気づいていないようだ。

 マリーの瞳に徐々に尊敬の色が滲みだす。


「ガルガドル様とアドワゼル様は本当に素晴らしい方々でいらっしゃいます。お二方とも人の心を掴む特別な才能を持った方です。私のようなごく普通の魔人が、そういう特別な方の補佐が出来るというのは誇らしいことです」

「なるほど、そういう考え方もあるのか。ありがとな、参考になった」

「私のつたない考えがユーリ様の一助になったなら幸いです」


 マリーは腰をひねって体をこちらに向け、軽く礼をした。

 人の補助をすることに喜びを見出す。俺の中には全くなかった考えだ。

 だからといって俺の考えが変わるわけではないが、それでもそういう考え方があるということを知れたのは俺の今後を考えても大きなプラスだろう。

 マリーと話せてよかった。

 そう思っていると、左隣のフィーリアが会話に入ってきた。

 どうやらフィーリアもまた、今のマリーの言葉に感銘を受けたようだ。


「すみません、勝手にお話聞かせてもらってたんですけど、マリーさんってすごく素敵な考え方の人なんですねっ。私、マリーさんのような女性に憧れます。私の理想と言ってもいいかもしれません」

「本当ですか? フィーリア様のような素晴らしい方にそんな風に言っていただけるとは、恐悦至極にございます」

「ほらユーリさん、聞きました? 恐悦至極とか私言ったことないですよ。はぁ~、素敵です……」


 どうしたフィーリア、なんかマリーのファンみたいだぞ。


「マリーさん、サインくれませんか?」


 ファンじゃねえか!


「さ、サイン……? わ、わかりました、差し上げます」

「やりましたよユーリさん、見てください。マリーさんのサインですっ」


 マリーから貰ったサインを自慢げに俺に見せてくるフィーリア。

 急に変なことを頼むなよな、マリーが戸惑ってるじゃねえか。

 ……こういう時、マリーが俺の立場だったらフィーリアの暴走を止められたんだろうか。地竜車に乗る前にガルガドルの暴走を一言で止めたのを考えると、これも止められてたかもしれんな。

 すまんなマリー、俺のフォロー役としての腕が拙いばかりにお前にサインを書かせる羽目になってしまって。


「やっぱりマリーはすごいな。普段からフィーリアのフォローをしている身としては、フォロー役の大切さを今まさに感じているところだ」

「お褒めいただきありがとうございます」

「ちょ、ちょっと待ってくださいユーリさんっ。たしかに今は少しはしゃぎすぎてしまいましたけど、普段は私がユーリさんのフォロー役ですよ? そうですよね!?」


 何を言ってるんだフィーリア。

 フィーリアが暴走して、俺が諫める。それが俺たちのいつものパターンじゃないか。しかしフィーリアの表情はふざけて言っているとも思えない。むしろ真剣そのものだ。

 おかしいな、記憶喪失にでもなったのか?

 なら思い出させてやるとするか。


「今日の朝」

「……え? なんですか突然?」

「今日の朝はどうだった? 俺はお前を精一杯フォローしたつもりでいたんだが」

「ぐっ、そ、それは……!」


 フィーリアの顔が急速にこわばる。

 うんうん、思い出したようだな。俺がお前を起こしてやったことを。

 このように俺は毎日お前をフォローしているんだ。思い出したか、フィーリアよ。

 フィーリアはぐぐぐ、と唇を噛み逆転の一手を探しているようだが、そんなものは存在しない。やがてフィーリアは力を落として(こうべ)を垂れた。


「……起こしてくれて、ありがとうございました」

「ああ、苦しゅうない。これからもちゃんとフォローしてやるから安心しろよ?」

「……くぅぅ、悔しいけど言い返せない……っ!」

「まあでも、しっかりお礼が言えたのは偉いぞ? よしよし」

「ユーリさんに子ども扱いされてる……! こんな日が来るなんて……!」


 なぜかフィーリアがひどくショックを受けている。いつものことなのに、おかしなやつだ。

 不思議に思いながら頭を撫でる。


「……うぇへへ」


 頭を撫でていると機嫌が良くなるのもいつものことだ。


「お二人は本当に仲が良ろしいですね。それはとても素敵なことです。そんな相手に出会えた幸運を大切にしてくださいね」

「っ!」


 俺たちの様子を見ていたマリーがそんな言葉をこぼすと、フィーリアはピクンと肩を跳ねさせてマリーの方に体を寄せた。

 必然フィーリアの体は俺の体に触れ合い、甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 フィーリアはそれを気にも留めずに、マリーに見えるように手を挙げた。一体どうしたってんだ。


「あ、あの、マリーさんっ! 一つだけ質問良いですか!」

「はい、どうぞ?」

「ファンクラブとかありますか!? あるなら入りたいんですけど!」

「メキメキのめりこんでんじゃねえか」


 一度憧れたら一直線……コイツ新興宗教とかにのめりこむタイプだな。

 気を付けて目を光らせてないと。まったく、これだからフィーリアのフォローは大変だぜ。

秘書の人名前なくてかわいそうだったので名前付けちゃいました。

次回は10月10日に投稿します!


新作を投稿しました!

気が向いたら読んでもらえると嬉しいです!


◆タイトル◆

『潜在魔力0だと思っていたら、実は10000だったみたいです』


◆あらすじ◆

レウス・アルガルフォンの【潜在魔力】は0000であり、魔法の素養と呼ぶべきものは皆無だった。

魔法の才能がないとわかっても一流の冒険者になる夢を諦めず、毎日努力する日々。

そんなレウスは、ある日ひょんなことからファイアーボールの魔道書を手に入れる。

ヤケクソでファイアーボールを唱えてみると、明らかに異常な威力のファイアーボールが発射される。


「……え。なに、今の……?」


驚く彼のステータスには<ファイアーボールLV10>の文字が。

そして彼は気づく。【潜在魔力】は実は0なのではなく、10000だったということを――

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