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魔法? そんなことより筋肉だ!  作者: どらねこ
6章 王都の日常?編
101/196

101話 耄碌婆は良い婆

 そして時は過ぎ、任命式当日。

 俺とフィーリア、そしてアシュリーの三人は任命式の会場であるホテルまでやってきた。

 俺は会場となるホテルを見上げる。

 王都で一般的な、奇抜とも言える建物とは違い、正道で目立っている。

 格調高い……というやつだろうか、よくわからんが。


「中々いい趣味してるじゃないか、気に入った」

「何様ですか」

「あたしはもっと派手なほうが好きだなー」


 再会して以降、アシュリーは二、三日に一回のペースで俺達の宿にやってきた。

 フィーリアはどれだけ好かれてるんだって話だ。

 その好意の一パーセントでいいから俺に向けてはくれないものか。

 しかも、今日の式典も中に入れないのにわざわざ会場まで付いてきている。

 その時間でトレーニングでもした方が良いんじゃないかと思わないでもない。


「あたしはここまでね。ユーリ、問題おこしてフィーリア姉を困らせるんじゃないわよ?」

「言われなくても分かってる。俺はジェントルマッスルだぞ」


 それに加えてインテリマッスルなんだ、大丈夫に決まってるだろう。


「お願いですから、せめて式の最中だけは年相応の振る舞いをしてくださいね?」

「普段からしてるだろうに」

「本当にそう思ってるんですか? ……うわ、本当に思ってますね。うーん、すごいです」


 フィーリアは俺の心を覗いたらしい。


「だって本当の事だろ」

「そうだといいですね!」


 なんだそのわざとらしい万遍の笑みは。

 そうだといいですねじゃなくて、実際そうなんだ。







 会場に入ると、見覚えのある婆さん――つまり、ギルド長である――と目があった。

 理由は明白だ、明らかに雰囲気が他の人間と違うからである。

 全体的に落ち着いた雰囲気ではあるが、常に戦いに身を置いてきたものだけが持つ殺伐とした雰囲気がわずかに漏れ出ていた。

 ギルド長が発する存在感は他を霞ませる程のものだ。


 ギルド長は俺達に気が付いたのか、近づいてきた。

 身長は俺の腰ほどだ。随分小さい。


「ようこそ王都へ。儂がギルド長じゃ。直接会うのは久しぶりじゃね」

「いえ、初めてですね」

「はて、そうだったかのぉ?」


 小首を傾げるギルド長。耄碌してんじゃねえか。

 いや、決めつけるのは良くないな。確認してみよう。


「昨日の晩飯はなんだったんですか?」

「お前のはらわたじゃ、小童(こわっぱ)が」


 急に眼光がギラリと光り、俺の目を下から覗き込む。

 その余りの鋭さに俺の体は即座に戦闘状態へと移行した。

 視線を浴びた体が喜びの声を上げる。

 筋肉がはち切れんばかりに膨張し、戦闘開始を今か今かと待ちわびている。


 しかし急に膨れ上がったギルド長の威圧感は、これまた急に収縮した。


「……なーんての。ほっほっほっ。すまんすまん、お主がなかなかやれそうで、ちょいと遊びすぎてしもうたわ。戦う気はないわい」

「そのまま続けてもいいんだぜ?」


 俺は嬉しい気持ちで一杯になっていた。

 強い、こいつは強いぞ!

 式典なんかどうでも良いから戦いてえ!


「ユーリさん、これから任命式なんですよ!?」

「ほっほっ、こんな老いぼれと遊んでも楽しくなかろう。それにしても、老いぼれた婆のちょっとした挑発にこれほどの反応を返してくるとは、また問題児のようじゃなぁ。……フィーリア、といったかの。お主はまともなままでいてくれよ」

「はい、当然です」

「Sランクなんてな、頭のネジが吹き飛んどるような馬鹿ばっかじゃ。そういうわけで常識のあるSランクは貴重だからの、儂としてもうれしいわい」

「おい、俺もまともだぞ」

「小童、ちょいと黙っておれ」


 なんでだ。


「ありがとうございます」

「感謝できるなんて、いい子じゃな。儂涙出そう」

「年をとると涙もろくなると言うからな」

「殺すぞ小童。……レディに年の話は厳禁じゃ。覚えておきんさい」

「殺し合いか? やろうぜやろうぜ!」


 俺がそう言うと、ギルド長は何故か深いため息をついた。


「はぁ……こんなんばっかじゃ」

「心中お察しします」


 何の話をしている。

 戦わないのか? 戦いはどうなった?


「ユーリさん、落ち着いてくださいよー! 今から任命式ですって」

「あ、そうだったな。悪い、頭から飛んでた」

「今日の主目的ですよ? 忘れないでください」


 そうだった、Sランクになるために来たんだったよな。

 危ない危ない。






 任命式の開始が近づくにつれ、会場の緊張感が増していく。

 何をそんなに緊張しているんだ? どれだけ厳粛なものであったとしても所詮は式典、死ぬわけでもなかろうに。


 そしていよいよ任命式が始まった。


「それでは、これより任命式を始めさせていただきます。まずは――」


 任命式は滞りなく進行していく。

 どうやら任命式にはこの国の国王も参加しているようだ。

 それを守るように、騎士団による物々しい警備が敷かれていた。

 今回Sランクに昇格するのは俺とフィーリアの二人だけなのに、わざわざご苦労なことである。


「続きましてSランク任命へと移らせていただきます」


 ギルド長が俺の前に立つ。


「小童。貴様は死に急ぎそうな性格をしているようじゃから、連れの言うことに耳を貸すようにしなさい。そうすれば少しは長生きできるじゃろ」

「……わかりました」


 思ったよりまともなことを言われて驚いた。これが年の功か。

 ギルド長はフィーリアの前に移動する。


「エルフがSランクになるのはほんに久しぶりじゃ。……いや、初めてじゃったかいの? なんにせよ、珍しいことじゃ。奇異の目で見られることもあるかもしらん。そういう時は遠慮なく小童を頼りなさい。辛いことを分け合い、嬉しいことを共有できる。それこそが連れがいることの一番の利点じゃからな」

「はい、そのつもりです」


 そう答えたフィーリアの笑顔を見て、ギルド長も表情を一層柔らかくした。


「ほっほっ、余計なお節介じゃったかいの? 年を取るとついつい小言を言いたくなってしもうてかなわんね」

「いえ、とても参考になりました。ご忠言感謝します」

「所詮は婆の小言じゃ。お主たちに合った付き合い方をするのが一番じゃよ」


 婆さん、いいやつだな。






 任命式はそれから数十分ほどで終了した。


「よし、これで終わりじゃ。お主らは晴れてSランクとなった。これからもより一層励んでくれたもれ。それと、強制ではないがなるべく招集には応じてくれると嬉しいぞい」


 フィーリアがそれに答える。


「善処します」

「そうかそうか。よろしく頼む」


 続いて俺も。


「出来たらな」

「誰がシワシワ婆じゃ小童!」


 言ってねえ。

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