表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い絵師と魔術団長のまったりおうちごはん  作者: 未来屋 環


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/14

7. 久々の料理タイム

 次にレオニーダさんがやってきたのは、それから3日後だった。


 あいかわらずの轟音を響かせて竜のルーファスが着地する。

 一度体験しているので今回は慌てなかったが、それでも急に来られると心臓に悪い。

 私はコンロの火を止めると、玄関に向かった。


 迷わずドアを開けると、そこには目を見開くレオニーダさんが立っている。

 ノックをする前にいきなりドアが開いたので驚いたようだ。

 珍しい表情が見られたので、少しだけラッキーな気分。


「こんばんは、レオニーダさん。今日はどんなご用事ですか?」


 にっこり笑ってみせると、レオニーダさんがすっと冷静な表情に戻る。


「今日は仕事だ。君の描いた絵を取りに来た」

「え」


 思いがけない言葉に今度は私がびっくりしてしまった。


「どうした、進捗(しんちょく)が思わしくないのか」

「いや、そんなことはないですけど」


 あちらの世界では仕事を終えたあと必死で描く時間を捻出(ねんしゅつ)していたが、今はそもそも絵を描くことそのものが仕事のようなものだ。

 プロのイラストレーターを夢見る私にとってはこの上ない環境である。


「わざわざ魔術団長のレオニーダさんが取りにくると思ってなかったので……てっきり伝書竜(でんしょりゅう)かなんかで送るのかと」

「伝書竜? 何だそれは」

伝書鳩(でんしょばと)の竜バージョンです……っていうか伝書鳩が通じませんよね。竜が絵を王宮まで届けてくれるサービスとかがあるのかと思ってました」

「それは無理だ。風圧で絵が吹き飛ぶ」


 でしょうね。

 だとしても、王国の重役が何故わざわざこんな街外れに。

 しかもプロでもない私が描いた絵を取りに来てくれたというのだから驚きだ。


「王様が君の絵を楽しみにしているんだ。私がルーファスに乗って来るのが一番早い」

「えっ、王様本当に私の絵を喜んでくださっているんですか?」

「当然だろう」


 正直なところ、異世界を知るためとはいえ、私に絵を描いてほしいというのは建前かと思っていた。

 いや、実際はレオニーダさんが気を(つか)ってそう言ってくれているだけかも知れない。


 ――それでも


「……ふふふ、ありがとうございます」


 思わず笑みがこぼれる。

 絵を描いても描いてもリアクションをもらえることが少ない底辺絵描きの私にとって、それはこの上ない(よろこ)びだった。



 ――ぐぅ


 

 瞬間、私のおなかが音を立てて鳴る。

 はっと我に返ると、目の前のレオニーダさんが少しだけ気まずそうな顔をしていた。


「……聞こえました?」

「……すまない、食事時に来るものではないな」


 なんだか気を遣わせてしまったようだ。

 確かに今日はずっと作業に没頭(ぼっとう)していて、これから夕食をぱっぱと作ろうとしていた。

 あまり引き留めるのもあれだし、早く絵を取ってこよう。


 そして作業部屋の方に歩き出した瞬間



 ――ぐぅぅ



 背後からかわいらしい音が響く。


 ――ん?


 まさかと思いつつ振り返ると、そこにはこちらを決して見ようとしないレオニーダさんが立っていた。


「……今日はずっと仕事で食事を取る時間がなくて」


 ぼそぼそと(つぶや)く声。


 ――え、言い訳?

 その意外な一面に、思わず吹き出しそうになってこらえる。

 ここで笑ってしまったら、彼はいたたまれなくてたまらないだろう。


 そして――私は名案を思い付いた。


「レオニーダさん、王宮に戻るまでまだ時間ありますか?」



 ***



 ごはんを鍋で炊けるようになっておいて良かった――この時程それを強く感じたことはない。


 このオール精霊住宅にない家電品、それは電子レンジ、ポット、そして炊飯器だ。

 大昔の調理実習の記憶をたぐり寄せつつ何度かトライアンドエラーを繰り返した結果、無事におかゆ級でも生米級でもないごはんを作り出すことに成功した。


 多めに作ってあとで食べようと考えるずぼらさのお蔭で、十分な量のごはんがある。

 ねぎをさくさくさくと小口切り。

 玉子はふたり分なのでふたつにしておこう。


 フライパンに油を熱してからねぎを投入した。

 じゅわあという賑やかな音と香ばしい香り。

 キッチンの温度が少しだけ上がったような気さえする。


 続いてよくかき混ぜた溶き卵を投入。

 じわじわと固まり始めたところで、今度はごはんを加えてざっくりと炒め合わせる。

 味付けは自信がないので、粉末のスープの素にお醤油を少し、そして塩胡椒(しおこしょう)をざくざくとかけた。


「できた!」


 出来上がった料理をふたつのお皿に取り分け、座っているレオニーダさんの前にことりと置く。

 ふわりと食欲を刺激する香りがお皿から立ち昇った。

 自分で言うのもなんだけれど、レシピもなく作った割にはおいしそうにできたと思う。


「……これは?」


 スプーンを持ってテーブルに戻ると、レオニーダさんは皿を凝視(ぎょうし)していた。

 あれ、似たような料理ってこっちの世界になかったっけ。

 お米自体は王宮で出された食事にも使われていたけれど、こういう形で食べたことないんだろうか。


「これですか? すごく久々に料理したんで微妙に不安ですけど……でも、きっとおいしいと思います」


 そう言って胸を張ると、レオニーダさんの視線が私を向く。


「超シンプル玉子炒飯(ちゃーはん)です。せっかくですし一緒に食べましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わあああ!!! 私のお腹も鳴りそうです(^-^;
ここまで読ませていただきました。レオニーダさん、若くして団長にまで上り詰めたのは、力だけでなく、人柄やまっすぐな性格もきっとその背景にあるのでしょうね。 玉子炒飯、シンプルに美味しそうですね。続きも…
はぅわ〜! レオニーダさんかわいい〜(*˘︶˘*).。.:*♡
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ