表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い絵師と魔術団長のまったりおうちごはん  作者: 未来屋 環


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/14

6. はじめてのコーヒー

「……昼は仕事が立て込んでいた。ろくに挨拶もせずすまなかった」


 いきなり現れたレオニーダさんはそう言った。


 私たちの間には、コーヒーに満たされたマグカップがふたつ(たたず)んでいる。

 こちらの世界の人々も飲むものなのかどうかはわからなかったが、お客さんに何も出さないのも気が引けた。

 しかし(すす)める()もなくレオニーダさんが話し始めたので、私は黙って続きを(うなが)す。


「そもそも――何の関係もないアカリ殿を我々の都合でこの世界に召喚してしまったことについても、申し訳ないと思っている」

「でも、それはレオニーダさんのせいじゃ……」

「いや、長く続く風習を魔術大臣の立場にいながら結局断ち切れずにいる。これは私の責任だ」


 レオニーダさんと私の目が合った。

 その表情は(かた)いけれど、王宮で見せていたような刺々(とげとげ)しさは身を(ひそ)めている。


「たとえ世界を守るためとはいえ、神の御業(みわざ)であることを理由に無関係の人間を巻き込むのはおかしい。他国のように自分たちの力で対応すべきだと私は考えている」


 そこまでの道程(みちのり)は遠いかも知れないが――そうレオニーダさんは続けた。


「少なくとも、アカリ殿はきちんと元の世界に帰す。それまでは不便をかけるが、安心して過ごしてほしい――私が言いたかったのはそれだけだ」

「……それだけを言うために、わざわざここまで来たんですか?」

「王宮にいては誰が聞いているかわからん。それに――これは重要な話だ」


 真剣な顔でこちらを見るレオニーダさん。

 そのまっすぐな眼差(まなざ)しを見て、私は気付いた。


 ――あぁ、このひとは本当にまっすぐなんだ。


 確かに才覚にも恵まれたのかも知れない。

 だからこそ若くしてその重要なポジションを務めているのだろう。

 それでも、力だけではなく――きっとそのまっすぐな人柄こそが、彼を魔術団長たらしめているのだ。


「……レオニーダさんのお気持ち、よくわかりました。お気遣(きづか)いありがとうございます」


 気付けばそう口走っていた。

 目の前のレオニーダさんが私の言葉を待つ。


「どのくらいの期間ここにいるのかわかりませんが、私も精一杯自分にできることを頑張るので――どうかよろしくお願いします」


 レオニーダさんが力強く(うなず)いた。


「こちらこそ、よろしく頼む」


 そして立ち上がろうとするので、私は慌てて「ちょっと待って!」と彼を引き留める。


「お忙しいとは思いますがせっかくいらっしゃったので、せめてお茶くらい飲んでいってください」

「……お茶?」


 怪訝(けげん)そうな顔でレオニーダさんが目の前のマグカップに視線を落とした。


「……この黒い液体が?」

「あ、えっと――正確にはお茶じゃなくてコーヒーといいます。ちょっと苦いですが、おいしいのでよろしければ」


 レオニーダさんがじっとマグカップを見つめる。

 ……毒だと思っているのかも知れない。

 確かに飲んだことがなければ、この黒さちょっと怖いかも。


「……すみません、やっぱ無理しなくていいで」

「わかった、いただこう」


 言い終わる前に一気飲みしようとするのを「待って!」と慌てて制止する。


「あの、さっきも言った通りちょっと苦いので、まず少しだけ味見してみてください」

「……わかった」


 レオニーダさんが一口コーヒーを(すす)り――そして眉間(みけん)のシワが一気に深くなった。

 ……ダメだったか。


「すみません、苦かったですよね。ちょっとお待ちを」


 冷蔵庫から牛乳を取り出してどぼどぼとマグカップに入れたあと、まだ開いていなかった砂糖の袋を破り、多めに放り込む。

 軽く混ぜるとマイルドな色になったミルクコーヒーが生まれた。


「はい、どうぞ」

「……何を入れたんだ?」

「牛乳とお砂糖です」

「……まぁいい、わかった」


 どこまでが通じていてどこまでが通じていないのかはよくわからないが、それでも果敢(かかん)にチャレンジしようとするレオニーダさん。

 こちらに歩み寄ろうとしてくれていることが伝わってきて、なんだか嬉しい。


 レオニーダさんが恐る恐るといった形でマグカップを口に付け、そして一口ごくりと飲み込んで――その動きを止めた。

 ……これは、どっちだろう。

 やがてレオニーダさんは、手元のマグカップをじっと見つめる。


 そして――もう一度今度はためらわずに、ごくり、と飲んだ。


 ――いけた。


「お味はいかがですか?」


 念のため尋ねてみると、レオニーダさんが真面目な顔でこちらを見る。


「……うまい」


 私はほっと胸をなで下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
良かった! コーヒーを美味しいとおっしゃっていただいて♪
ああ、よかった。。 こちらの人の体質に合わなければ「毒」になってしまうかもしれない‥‥とハラハラしながら読みました。 味の問題だけでよかったです。。。(^^;)
この異文化交流して萌える感じは何だろう(*´ω`) 楽しませて頂きました(*´ω`) ごちそうさまでした(*´ω`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ