13. そしてある一日へ -お弁当とともに-
それからも私は色々なものを見ることができた。
まるで創り上げられた芸術作品のような複雑な形の葉、下から上に向かって流れていく滝、半分にちぎった瞬間増殖していくきのこなど――私がいた世界では見たことのないものばかりだ。
その内、何種類かの動物にも出逢うことができた。
私がつい「本当に動物いないですね」と洩らしたところ、レオニーダさんが「少し緩めるか」と呟く。
しばらくして彼らはやってきた。
どうやらレオニーダさんの魔法力が強く、怖がって近付いてこなかったらしい。
まったく同じ種類ではないが、それこそリスやうさぎのような小動物や、大きな翼をもつ鳥なども見付かり、私は夢中で筆を走らせた。
そして――ふと、太陽の位置がだいぶ動いていることに気付く。
え、今何時?
「あぁ、だいぶ前に昼を回ったな」
何事もないようにレオニーダさんが言うので、私は慌てて謝った。
「すみません、夢中になってしまって――おなか空きましたよね?」
「仕事で昼を抜くことも多いから大丈夫だ。それより君は? 一応携帯食料は持ってきたが」
なんと、お昼のお気遣いまで頂いていたとは。
「ありがとうございます。ただ、私お弁当を作ってきたので――よろしければ一緒に食べませんか?」
「――弁当?」
レオニーダさんが目を丸くする。
ずっと運んでくれていたこの鞄の中身にまで思いが至っていなかったようだ。
「はい、ふたり分作ってきたので是非!」
そして今、私たちは並んで見晴らしの良い丘の上で座っている。
森を抜けたところにこんな素敵な場所があるなんて思わなかった。
私はレオニーダさんが運んでくれた鞄の中からお弁当を取り出して広げる。
それらをレオニーダさんは物珍しそうな表情で見ていた。
「お待たせしました。それでは」
そう言って私が手を合わせると、レオニーダさんも自然と手を合わせる。
なんだかそれが嬉しくて、思わず笑みがこぼれた。
「「いただきます」」
最初にレオニーダさんに手渡したのはおにぎりだ。
わかめごはんのものとまいたけごはんのもの、2パターン用意しておいた。
味が薄いのでは……と心配だったわかめごはんを、私も一口。
うん、塩気が利いていてセーフ。
ごまを散らしたのも良かったのかも。
「今日は色が付いているんだな」
そう言われてレオニーダさんを見ると、まいたけごはんのおにぎりを食べてくれている。
こちらは炊き上がったごはんにだしと醤油を混ぜ合わせていた。
「はい、混ぜごはんにしています。いかがですか?」
「……うまい」
そう言いながらあっという間におにぎりが口の中へと消える。
その様子にほっと一息。
まいたけの歯応えが良いポイントになっていると思う。
「おかずもどうぞ」
そう言ってお箸と一緒に差し出すと、レオニーダさんは慣れた手つきでおかずを食べ始める。
私もその様子を見ながらいただく。
ゆでピーマンとツナの和え物、しゃきしゃきしていていい感じ。
豚の生姜焼き、噛み締めるとじわりと肉のうまみがあふれる。
こんにゃく煮、きちんと味が染みていて良かった。
玉子焼き、ちょっとだけ砂糖を多めに入れたけれどお口に合うだろうか。
「君が作るものはどれもうまい」
そう言いながらレオニーダさんはすっかりとお弁当を平らげてくれる。
毎度ながら気持ちの良い食べっぷりに、なんだか私の心も満たされた。
「食後のデザートもどうぞ」
差し出したのは、切っておいたりんごとオレンジ。
りんごをしゃくりとかじると、蜜がじゅわりとあふれる。
レオニーダさんの魔法のお蔭でいつでもおいしいりんごにありつけてありがたい限りだ。
オレンジも酸っぱ過ぎず、爽やかな酸味が心地良い。
一通り食べ終えたところでレオニーダさんに視線を移すと、手を合わせてこちらを見ている。
もしかして――待ってる?
そんな様子を微笑ましく思いつつ、私も慌てて手を合わせた。
「「ごちそうさまでした」」
***
「それじゃあ、また週末に」
家に戻ったあと、一通り食材を魔法で用意してくれたレオニーダさんはそう言って帰って行った。
――そうか、今日は特別に来てくれたから、また明後日も逢えるんだ。
だとしたら魔法で再現してくれた焼き鮭弁当のおかず、いつもは傷むのが心配だから自分で早めに食べてしまっていたけれど、週末レオニーダさんにもお出ししよう。
お魚料理は出したことなかったし。
お味噌汁も結構好きなんだよね。
それなら、豚汁なんて絶対はまるはず。
そんなことを考えながら――ふと気付く。
誰かのためにごはんを作るのって、こんなに楽しいんだ。
『……うまい』
脳裡に真面目な顔でおにぎりを頬張るレオニーダさんの顔が浮かぶ。
そして思わず口角が上がったところで――はっと我に返った。
「やばいやばい、忘れない内に今日見たもの描き残さなくちゃ!」
レオニーダさんの気遣いを無駄にしてはいけない。
私は作業部屋にこもるため、コーヒー用のお湯を沸かし始めた。




