表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い絵師と魔術団長のまったりおうちごはん  作者: 未来屋 環


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/14

11. お出かけに向けて -落とし卵のお味噌汁とともに-

 そしてレオニーダさんがお味噌汁を飲もうとしたところで動きを止める。

 どうしたのだろうとお(わん)の中を覗き込むと、ふよふよと落とし卵が割られずに(ただよ)っていた。


 ――もしかして、割るタイミング迷ってる……?


 気持ちはわかる。

 半熟卵の黄身をいつ割るかはとても重要な問題だ。

 私は好きなものを取っておくタイプなので、半分程食べ進めたら割ることにしている。


「レオニーダさん、それ、そろそろ割ってもいいかも知れません」

「む?」


 眉を(ひそ)めてこちらを見るレオニーダさんに、私は笑みを抑えることができない。

 私は自分のお味噌汁の中の落とし卵を箸でまっぷたつにしてから、レオニーダさんにお椀を向けた。


「ほら、こんな感じで黄身が溶け出しておいしそうでしょ」

「……確かに」


 レオニーダさんも慣れない手付きながら落とし卵を割る。

 すると、とろりとしたオレンジがお味噌汁の中の白身と豆腐を鮮やかに彩っていった。

 ふふ、我ながらおいしそうである。


 レオニーダさんがずず、とお味噌汁を(すす)って、む、と(うな)った。


「いかがですか?」

「……うん、うまい」


 やった。

 レオニーダさんのその言葉に背中を押されて、私もすす、とお味噌汁を啜る。

 口内に流れ込むお味噌汁の味を追いかけてきたのは、濃厚な黄身の味。


「ふふ、おいしい」

「……うん」


 ふたりで会話を交わすでもなく、穏やかな雰囲気の中でお味噌汁を飲む。

 気付けば、脳裡(のうり)をかすめた憂鬱な記憶は薄れていた。



 ***



 そしてその日から半月程が経過した今朝、私はひとりキッチンに立っている。


「――よし、頑張るか」


 誰に言うでもなくそう自分を鼓舞(こぶ)してから、私は料理に取り掛かった。



 発端(ほったん)は私が相談した外出の件だ。

 あのあと訪れた最初の週末、レオニーダさんは私に言った。


「森の中に入る件だが、私が護衛に就くから一緒に行くことでいいか」

「……え」


 驚きのあまり声を上げた私に、レオニーダさんは続ける。


「この森一帯を結界で覆うことも考えたが、こちらに何の危害も加えていない動物にまで干渉するのはやり過ぎだと言われてな。10日後に休みをもらったから、朝から森の中を一通り見て回ろう」

「えっ、レオニーダさんが一緒に来てくれるんですか?」


 彼は当然のような顔で(うなず)いた。


「そうだ」

「えぇ……」


 いや、申し訳なさ過ぎるんですけど……!?


 そもそも森一帯を結界で覆うってそんな大々的なことをやろうとしてくれたのも驚きだし、しかも誰かに止められてるし。

 その上お休み取るって――えっこれ業務扱いじゃないってこと?


 確かに森の中には行ってみたいが自分のわがままにレオニーダさんを巻き込み過ぎた。

 私は反省しつつ口を開く。


「レオニーダさんすみません、私が変なことを言ったせいで……さすがにご迷惑をかけてしまっているのでこの話はなかったことに」

「……迷惑?」


 レオニーダさんが驚いたように繰り返した。


「はい、だって仕事ならまだしもプライベートですよね。普段お忙しいでしょうし、貴重なお休みを私のために()いてもらうのは申し訳なさ過ぎます」

「なんだ、そんなことか。それなら気にしなくていい。休みなどもらってもやることはないし、ここ何年も私はずっと王宮に詰めている状態だ」


 ――なんという社畜……!

 いや、この場合会社じゃないから、国畜(こくちく)……?


「それに、君にはいつも世話になっている。他の勇者と違って大した要求もしてこないし、私も気がかりだったんだ。だから、もし嫌ではないなら一緒に行かないか」


 レオニーダさんがまっすぐな眼差(まなざ)しで私を見つめる。

 その真剣な表情を見て、私が反論できるはずもない。


「……お気遣(きづか)いありがとうございます、それでは是非」


 そう頭を下げたあとレオニーダさんの顔を見ると、心なしか(まと)っている雰囲気がやわらかく感じられた。



 ――そんな経緯での今日、である。

 貴重なお休みを使ってくれたレオニーダさんに少しでも恩返しがしたい。

 そう、彼に喜んでもらえるように、私はお弁当を作ることにしたのだ。


 材料も限られている中、私の料理スキルで作れるメニューはそんなに多くない。

 それでも感謝の気持ちを伝えたくて、私はいそいそと料理に取り掛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
主人公の「わたし」が素敵すぎて‥‥。(*´Д`*)
これはいわゆるランデブーというやつでは!? (わくわく) すみません朝ドラネタで。 他の勇者いるんですよね。魔王討伐されてるのに。 本当に何してるのか、どんな人なのか気になるっ! 町の様子も気にな…
というか、他の勇者って何を要求してたんだろう? 豪華な食事や宝飾品、美男美女って感じかね? ああ、後レベルを上げたいとか言うヤツがいそうだ( ´艸`)! そういえばレオニーダさん、半生卵に抵抗がないん…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ