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七月の報告

「もしもし、春海です」

「おー、春海君! 今月も元気そうでなによりだ。なんやかんや言いながら、毎月ちゃんと報告の電話をしてくれる君を、私はとても可愛く思ってるよ。それで、今月はどうだった。何か変わったことはあったかな?」

「……時折、ディープブルーの存在を忘れそうになります」

「ほう」

「もし今ポケットの中にある薬が、古閑さんのものではなくて、僕自身のものだったとしたら。僕はそのうち、ポケットティッシュでもツッコむみたいにぞんざいに扱って、僕の中で存在が希釈されて、薄まっていって、やがて忘れ去っていたんじゃないかって思います。それくらい、僕の日常の中に溶け込んでいるんです」

「続けたまえ」

「時々、考えるんです。僕はあなたに無理を言って、こうしてルールを破ってまでディープブルーを手に入れました。でも……そこに、意味はあったんでしょうか? 今回は本当に偶然、僕と古閑さんをつなぐ、そのきっかけになったわけですけど。もし、彼女と出会っていなければ……彼女との一件がなければ。僕の中でこの薬は、どういう存在になっていたんでしょうか」

「……」

「もう八月です。誕生日が近い。あなたと約束した期限も、もうすぐ果たされます。その時僕は、自分の薬とどう向き合うのか、まだ結論が出ていません。なんか、とりとめのない話ですみません。だけど今月で定期報告も終わりですし、ひとまず、お礼を言わせてください。今までありがとうございました」

「待て待て待て待て、待ちたまえ。今君、そのまま電話を切ろうとしただろう」

「はい、お礼も言い終わったので」

「まったく君は……本当に大人を信用していないんだね。いやそういう大人に出会ってこなかったというべきか」

「どういう意味ですか?」

「君は言ったね。『そこに、意味はあったんでしょうか?』と。子供に質問されたら、答えを返す。それが大人の責務だよ」

「はぁ」

「さて、なんだったか。そうだ、ディープブルーを手にした意味、だったな。そうだな、一つ大事なことを教えてあげよう。何かの行為に意味があったかどうか、なんて、つまらないことを考えるのはやめなさい。それは損得勘定だけで世間を歩き回る、薄汚い大人の考えることだ。君のような、若く、柔軟で、美しい青色の少年が考えるようなことではないよ」

「……僕はウーロン茶みたいな色をしてるらしいですよ。同級生によると」

「何を言ってるのかよく分からないが、春海君ね。君はもっと素直になりなさい。ディープブルーは、君と古閑さんをつなぐきっかけになった。それでいいじゃないか。偶然とか必然とか、そんなことをうじうじと考えなくていい。ありのままを受け止めて、その後で行動しなさい。

後手後手に回ったっていい。泥臭くたって構わない。そうやって人は、少しずつ経験を積んで、大人になっていくのさ」

「大人、ですか」

「おっと、少々説教臭くなってしまったね。君の熱にあてられて、つい私も力が入ってしまったよ」

「別に平熱ですけど」

「さて、これで君たちの誕生日までにもらえる報告は最後になるわけだが……」

「君たちのって……これ、古閑さんともしてるんですか。月例報告」

「当然だ。逆になんで君だけとしてると思うんだ」

「それは……そうですね」

「気になるかい? 古賀さんと私が、どんな会話を交わしたか」

「いえ、別に」

「くく、かわいくない子だ。まぁいい、とにかくだ。これ以後も、何かあればいつでも連絡してくれたまえ。なに、遠慮することはない。困ったことがあった時、助けて欲しい時、いつでもいい。どこにいようが何をしていようが、私は必ず君たちの力になると約束するよ。なんたって私は、空気の読める女だからね」


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