表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/33

10

 ベッドに横たわり、遮光ケースをシーリングライトにかざしてみる。

 薄っすらと、中に入ったカプセルが見えた。

 右手に一つ、左手に一つ。今、僕の手元にはディープブルーが二つある。不思議な気分だ。こうしてみると、見た目が全く同じなのに、効果を及ぼす対象は全く違うなんて。

 古閑さんが学校に来なくなって、一週間が過ぎた。担任の先生の話では、体調を壊して療養中とのことだったけど、直前にあんなことがあったばかりだから、いささか以上に信じられない。とはいえ僕は古賀さんの連絡先を知らないので、確認のしようもなかった。

 思っていたよりも長い間、ディープブルーを預かることになってしまったので、うっかり取り違えないように僕の物には小さな青いシールを貼った。これでいつでも、古閑さんに返すことができる。返す準備は、できている。


「古賀さん、いつ学校に来るのかな」


 一週間という期間は、決して短くない。この一週間で秋の文化祭の出し物は決まったし、席替えもあったし、茶髪君は三回先生に怒鳴られた。

 時間は流れる、季節は移ろう。僕たちの誕生日は、刻一刻と近づいている。

 なぜ古賀さんは、学校に来なくなったのだろうか。友達と喧嘩しただけで、不登校になったりするものなのだろうか。友達がいない僕には、まったく分からない感覚だ。

 顔を合わせ辛いから? 学校に来たら、居場所がなくなっているかもしれないから?

 あるいは――


『あれは、あんたが……あんたのっ……!』


 古賀さんの目を思い出す。これまでだって、決して好意的な目線を向けられていたわけではなかったけれど、あの時の目は、見たことがない程に敵意に満ちていた。

 敵意……いや、怒りだろうか。怒りと、憎しみと、ほんの少しの、寂しさ。そんなものが、まぜこぜになって、まるでマーブルみたいに溶け切らずに凝固して、あの瞳を形作っていたように思う。だとしたら、


「僕のせい、なのか」


 あの時、彼女を止めたから。

 それが気に障ったのだろうか。

 分からない。分からないんだ。自分という存在が、誰かに影響を与えた経験がなさすぎて、何が正しいのか、なにが正解なのか。

 ただ、僕が分かっていることといえば。

 いつの間にか握りしめていた手の中で、遮光ケースがかちゃりと鳴った。


「これは、僕の手元にあるべきものじゃない」


 それだけは、分かるんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ