神の名の裏の冒涜
その夜。
サウレは言われた通り、誰にも見つからぬよう教会の前へと。
月は闇と雲に隠れ、風で周りの木々が騒めいている。
昼間の風景とはまるで違った。
ここだけ現実と切り離されたように……。
「早かったのかしら……でも、この時間なら人に見つかることも……」
周りを見渡してみるが、闇と石造りが広がる光景ばかり。
多少生えている木々は今尚怪しく揺れていた。
「……戦乙女様、いらっしゃらないのですか?」
声は虚しく響いた。
誰もいないのか。
そう思うと、彼女は少し怖くなった。
こんな暗い場所で独りぼっちなど、考えるだけで身の毛がよだつ。
一歩後退りし、一端ここを離れようとした。
――――そのとき。
「つっかま~えたぁあッ!!」
「ん゛んッ!?」
突然後ろから口を覆われ羽交い絞めにされた。
凄まじい膂力で教会内部まで引きずられ、逆らうことが出来ない。
扉は閉められ、聖母像の前に放り投げられる。
「キャアッ!」
乱暴に投げ出され床に膝まづく形に。
痛みをこらえながら、その張本人を見る。
……見知らぬ少年だった。
だが、戦乙女のように神々しく威厳ある姿は、とても街の暴漢とは思えない。
「あなたは、もしや……」
「そう、勇者様だよ。ユーリナの言った通り、スッゲー美人じゃん」
そういうや服を脱ぎ始めるヴェニン。
目の前の少年の行動に思わず戦慄し肩を震わせた。
「な、なにを……ッ。ここは神聖な場所ですよッ!」
「だからいいんだろうが……」
一通り服を脱ぎ終えたヴェニンの次の行動。
例えわかっていたとしても、身体が恐怖で動かない。
気づいたときには、サウレに欲望のままに飛び掛かるヴェニンの姿が。
サウレの泣き叫ぶ声が教会内に響いた。
服を裂かれ、ロングスカートが腰元まで捲り上げられる。
こちらの必死の抵抗など、ヴェニンからすれば羽虫が止まった程度のものだ。
いや、それが奴の興奮を呼ぶ。
ヴェニンの腰の動きに合わせるように、露わになった女肉が猥らに揺れた。
涙ながらの悲鳴と絶叫は、快楽と屈辱からなる嬌声とよがり声に変わり、理性と良心が蒸発しそうになる。
「ヒャハハハッ!」
どんな手を使ってでも欲しい女は手に入れる。
例え自らに加護を与えた神に背いても。
神が己の蛮行を見たとて、その加護を今更無しにすることは出来ない。
自分がいなければ、誰が戦争を止められる?
自分がいなければ、誰が凶悪な魔物を駆逐するのか?
そう、結局神ですら自分を止められないッ!
権力と力を手にしたまだ未熟な少年は、この世全てを掌握している気分だった。
実際にこの国の王も大臣も皆、この勇者という存在に平伏している。
全ては思いのまま、力を振るいつつ、女をひとり、またひとりと平らげるのだ。
これが彼が欲しい楽園。
気に入らない奴は殺し、自分を讃え、歯向かわぬ者のみがいる世界。
「ハハハ、たまらねぇッ! どうだ、これが俺の力だッ! あ゛ぁ゛ッ!? 幸せだろう? 幸せって言えぇッ!!」
自分より年上の美女を性欲のままにかっ喰らう。
ヴェニンにとって至福の時間だ。
神聖たるこの教会で、男と女の肌が重なりぶつかり合う瞬間がたまらない。
そして、どれほどの時間が過ぎたか。
完全に全力を出し切った勇者は、息を切らしながらも服を着始める。
この最高の時間に、彼はこの上ない満足感を得た。
「う……うぅ……」
ユーリナに騙され、神の力と権力を悪用したこの男に純潔を穢さた。
――――よりにもよって神聖なる聖母像の前でだ。
「さぁて、そろそろ奴等が来るかな。ヒヒヒ、恨むならテメェの運命とクソ義兄を恨めよ? アイツが悪いんだ。この俺に生意気な態度を取りまくるからよぉ」
その言葉にサウレはゆっくりと上体を起こす。
ようやく反応を示したかとヴェニンがニヤリと笑んだ。
睨んでくるか、罵詈雑言を投げかけてくるか。
それはそれで面白い。
サウレが黒髪を揺らしながらゆっくり振り向く。
「……可哀想な人」
ヴェニンの予想から大きく外れた反応だった。
怒りの表情を見せているかと思えばそうでもない。
表情は能面のように無表情に近いが、それは……。
「アナタを生んだ御両親、そして力をお与えになられた神は……アナタになに1つ、大切なことを学ばせなかったのですね」
「……、……なに?」
――――憐みだ。
怒りでも悲しみでもない。
本心から目の前の男を、無様だと思う目をしている。
「アナタから見れば、周りがアナタを尊敬しているように見える。でも、本当は違う。尊敬されているのは神の加護による力であって……アナタ自身の人格じゃない」
「は? テメェなにを言って……」
「誰もアナタを愛してなんかいない。力への敬意はあっても……、誰もアナタを見てなんかいない。アナタが殺してきた敵も、アナタがこれまでに抱いた女性も! 力がなければただの人。そう、アナタは神様から貰った力に身を隠してる……虚栄だらけの男の子です」
「やめろ……」
「神がアナタに力をお与えになったのは、きっと適正かなにかでしょうが……。まさか神も勇者として選んだ赤ん坊が、まさかこんな人間に育つとは思いもよらなんだでしょう。……可哀想、アナタは……」
「やめろぉおッ!」
サウレの強い意志を秘めた眼光が、ヴェニンの心を射抜く。
彼女はこの身を穢されようとも、決して気高き魂までは渡さなかった。
ヴェニンにとっては初めてのタイプの女性だろう。
そして、彼にとっても残酷なことを、普段物静かな口が告げた。
「――――……力と虚栄にしがみ付いているだけの、ただの少年よ。世界と責任から目を背け続けている哀れな哀れな男の子」
この言葉にヴェニンの脳内でなにかが切れた。
気づいたときには再びサウレに飛び掛かり、その顔を思いっきり殴っていた。
血を吐き、床に倒れ悶絶するサウレ。
あまりの激痛に気絶してしまいそうだ。
「この、クソアマァ……ッ!!」
怒号が虚しく響く。
今宵の蛮行を裁く者はいない。
ただ静かに聖母像が彼を睨みつけるように鎮座している。
「いいか教えてやる! テメェはこれから娼館に売り飛ばされんだよ……。へへへ、こういう女は高く売れる。たっぷり遊べるほどの額だ。そこで、たっぷり薄汚い男共のご奉仕をしてやるこったッ!!」
そう言ってサウレを乱暴に担ぐや外に出る。
外では、娼館の使いらしき男が何人かいて馬車に乗って待っていた。
「おう、コイツだ」
「いつもどーも勇者様。……ほほぉコイツァ上玉だ! いいんですかい?」
「あぁ、十分楽しんだからな」
「……へっへっへ、いつもすみませんね勇者様。流石女集めのプロ! 俺達とは手際が違わぁ」
「いいから、早く行け。金は後日取りに行く。そして、わかってるとは思うが」
「へへぇ、ご安心を。こちらの情報操作は任しといてくだせぇ」
そう言って、サウレを馬車に乗せると足早に去っていった。
馬車の中には囚われた若い娘達が暗い面持ちで乗っている。
それをほくそ笑みながら見送り、ヴェニンは次の行動へと移った。
「さぁて……次はルシフの屋敷だな。……皆殺しにした後、たっぷりの油で屋敷ごと焼いてやるッ!!」
既にユーリナに準備はさせた。
屋敷の近くに剣と油等の物品を揃えさせてある。
「さぁ、ルシフ。テメェとりあえず気に入らねぇから……人生の奈落に堕ちてもらうぜ? ハーッハッハッハッハッ!!」




