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愛がふたりを分かつまで……

 青天の霹靂、などと比喩すればいいのだろうか?


 勇者ヴェニンとユーリナとの会合、そしてあの腕試し。


 その日から彼女の表情が一変した。

 王の認可の元、ヴェニンはこの王国を拠点に動くことになって以来、ユーリナと関わることが多くなったのだ。

 ルシフを呼び出すよりも、彼を呼び出したり彼と共に行動をすることが多くなった。

 

 ……それはいい。

 彼女の境遇からして、同じような存在に出会えたこと。

 ましてや自分よりも強い同い年の異性が現れたのなら、興味を持つこともあるだろう。


 ――――だが。


(ユーリナ……あんなにも笑むのを見るのは、久しぶりだ。しかし……それは私に向けられたものではない)


 ――――嫉妬、嫉妬、三度みたび嫉妬ッ!


 あの愛の言葉はなんだったのだ?

 君は私の愛がわからないのか?

  

 私よりも、その男をとるのか?



 中庭で勇者ヴェニンと話し合う彼女を見ながらそう心をよぎったが、彼はそれをゆっくりと拭い去った。

 

「なにをしている……しっかりするんだルシフッ! お前が彼女を信じてやれないでどうするんだッ!」


 強く自分に言い聞かせた。

 そうだ、信じよう……。

 ガラにもないこの強烈な感情を仕舞い込み、仕事に徹する。


 しかし、奴と彼女が話すのを見るだけで。

 ……嗚呼、神よ。

 私の心が地獄の釜そのものとなってしまいそうなのです……。




 親衛隊としての仕事は夜も続く。

 皆が寝静まったあとでも彼は淡々と仕事を続けた。

 彼女の身辺の安全管理。

 彼女の居室前の見張り等。


 交代の時間になり、同僚と変わる。

 城内の月明りが照らす廊下を歩いていると、またしても奴に出会ってしまった。


「あ、アンタ……ルシフ、だっけ? よく会うなぁ」


「……そうですね」


 淡白に答えるルシフをケラケラと笑いながらも関わり続ける。


「つれねぇなぁ? あ、そうだ……俺、ユーリナに部屋に呼ばれてんだけどさ……」

 

 その言葉に一瞬目が大きく開く。

 

 ――――なぜこの男を入れる?


 殺気が滲み出た。

 腰に備えてある剣で、今この場で滅多刺しにしたい、と。

 それが顔に出てしまっていたのか、ヴェニンにとって大変不愉快な気分にさせてしまった。


「……チッ、嫌だねぇ。別に、ちょっと話したりするだけだよ。それ以外はなんもねぇって!」


「……本当でしょうな?」


「ホントだって、……あ、ユーリナはアンタのことも話してたぜ?」


 だから貴様が馴れ馴れしく彼女の名を呼ぶなと……。

 そう思いながらも、咳払いをし耳を傾ける。

 自分のことを話していたとなると、その内容が気になるのが人情というものだ。


「……アンタが今までずっとついてきてくれたこととか、一緒に苦難を乗り越えてきてくれたこととかさ……」


 この言葉を聞いた瞬間、彼の心はいくらかは救われた。

 それと同時に、ユーリナへの愛情が高まっていく。

 信じてよかった、と。


「やれやれ……途端に嬉しそうにしやがって……もう行くぜ?」


 そう言ってさっさと行ってしまったが、ルシフはこの胸から込み上げる喜びを抑えるのに必死で気にもならなかった。

 あの男に取られてしまうのではないかと肝を冷やしたが、間違いない。


 ――――彼女はまだ、自分を愛していたのだ!


 月光が祝福の光にさえ見える。

 これほどまでに清々しい気分で廊下を歩くのは久方ぶりだ。

 外へ出て風に当たることにしたルシフは、城壁へと足を運び、街の様子をその目で見渡した。

 人々が暮らすこの街の中に、人間の営みがある。

 それは愛で紡がれ後世へと引き継がれていくのだ。

 そして、いずれ自分も……。


 胸の高鳴りはずっと止むことはなかった。





「あぁ……言ってたよ? ルシフ、アンタのことを……そして、"家族"のこともな。ふ~ん、義理の妹かぁ」


 ユーリナの居室へ向かっていたヴェニンはしたり顔で先ほどの会話を思い出していた。

 そしてポツリと呟く。

 

 このとき、ルシフはおろか、王も臣下も、そして彼を勇者と崇める民草達も知らなかった。

 勇者ヴェニンという男、大の女好きである。


 そして、欲しいと思った女はどんな手を使っても手に入れるという恐ろしい性を持っているということを。


 ユーリナはその毒牙にかかった。

 腕試しの頃からか。

 否、例えあれがなかったとしても、いずれは……。


 ユーリナは自分より強く自由な男に、支配されることに大きな喜びを覚えていた。

 否、開花させた。

 あのルシフとの日常が嘘のように、彼女の瞳はヴェニンへの劣情で燃え上がる。 


 それをいいことに、ヴェニンは策を考えていた。

 その為には、今彼が最も気に入っている女ユーリナの力が必要だ。

 ルシフの知らぬ間に、彼女はもうヴェニンに対し神に値するほどの崇拝の心を持っていた。

 崇拝は妄信的な欲情に。

 ユーリナを虜にしたヴェニンの浮かべる笑みは、最早悪魔そのものであった。


「……なぁ、ユーリナ」


「なによヴェニン、改まって……?」


「あのルシフって騎士のさ、義理の妹居るじゃん?」


「……えぇ、いるわね。でもそれがどうかした?」


「……、……君の力が必要だ」


 居室に入るなり酌み交わされる密談。

 互いに身体を寄せ合い腕を背中に回す。

 そして、そっと彼女にあることを頼み込む。

 ルシフの大事な家族を手籠めにする為に。


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[一言] 人型ゴミは死ね
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