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エピローグ:ユーリナ

 城内の居室で狂った怒号が響き渡る。


「ヴェニン! ヴェニンはどこ!? 赤ちゃんが……私達の子がぁ……!!」


「戦乙女様、落ち着いて下さい!」


 ベッド上でメイドや召使達に抑えられながら、鬼のような形相でもがくユーリナ。

 かつての勇猛さや美しさはなくなり、あの日以来ずっと乱心する日々が続いた。


「……あ、あぁ、聞こえる。あの音色が……嘘、嘘、イヤ、嫌ァ! 止めて、誰かこの音色を止めてぇえ!!」


 顔が一気に青ざめ、耳を塞ぐように髪を引っ張り始める。

 凄まじい膂力によってブチブチと音を立て、千切れる髪。

 顔も首も腕も掻きむしり、生々しい傷が目立つ彼女は、もう正気ではなかった。


「戦乙女様、お止め下さい!」


「誰か……、誰か薬を!」


 聴こえぬはずの音色に怯え、いなくなった愛する者達を必死に呼んだ。

 夜になればルシフの幻に許しを乞い、泣いて、嗤い、そしてまた暴れだす。

 医者や魔術師達が全力を尽くしたが、手遅れだ。



 ――――身体は弱り、頭は病んで、心が腐る。


 

 人間の成れの果ての恐ろしさを体現するほどに、ユーリナは完全に変わり果てた。

 そして、ユーリナの狂気はついに臨界点をむかえる。


 ある日を境に、ユーリナは沈黙し、人形のように大人しくなった。

 外界全てを遮断し、虚ろな瞳はもう何者もとらえていない。

 今までの狂行はピタリと止まり、声も出さなくなった

 周りの者は、一時期は治ったものだと胸を撫で下ろしていたが、次第に不気味に映っていく。



 彼女が夜な夜なヴァイオリンで、妙な調べを弾き始めたのだ。

 曲としてはあまりに不完全、ヴァイオリンで弾ける音階を越えている部分があるせいか、不協和音にしか聴こえない。


 だが、彼女は取り憑かれたかのように朝日が差し込むその時間まで延々と弾き続け、また夜になれば朝までと、そんな日々がずっと続いた。


 誰もが思った。

 戦乙女ユーリナは悪魔に取り憑かれたのだと。


 



 そして、運命の日。

 夜明け前、親衛隊の1人が異変に気づく。


 ブチブチと弦の切れる音。

 しかし、演奏は尚激しさを増し続けられる。

 1本、また1本と切れていく弦などお構いなしに奏でられる旋律に、親衛隊の1人がそっと覗いてみようとした直後。



 ピタリと演奏が止んだ。


 そして、大きな音を立てて割れる窓ガラス。

 恐らくバルコニーの方。


 親衛隊の1人が扉を開き、中を見たがユーリナの姿はない。

 バルコニーの窓は割れ、カーテンが風で揺れていた。

 



 バルコニーの下には血濡れで倒れるユーリナの無惨な姿があった。

 首の骨は折れ、頭からは夥しい血が流れ出ている。


 手には演奏に使っていたヴァイオリン。

 ほとんどの弦はバラバラだったが、G線のみが綺麗に残っていた。



 かつての戦乙女としての栄華とは完全に程遠い、憐れな最期だった。


 あの調べはなんだったのか。

 なぜ命を断ったのか。

 なぜ急にヴァイオリンを弾いたのだろう。

 

 

 謎が深まり、様々な憶測が飛び交う。

 



 後数百年たった時代においても、この謎は明らかにされていない。

 


 

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