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報復と慟哭を司る魔女「アルマンド」

 ――――魔女。

 名は聞いたことがある。

 魔術師の中でも異端に異端を重ね上げ辿り着いた境地に立つ者の総称。

 異端狩り、即ち魔女狩りで全て死んだとは思っていたが……。


「ハッ、異端狩りでは火炙りやギロチン、吊るし首、魔術による処刑、その他色んな方法が用いられた。だが残念。オレ達はそんなんじゃ死なねぇんだよ。オレも1回だけヘマやって細胞の一片まで消し炭にされたが……ホラ、こうして生きてるッ! まぁ異端狩りが始まったのはまだオレが半人前のときだ。処刑された9割9分は無実でただの人間だよ。……今のアンタみてぇにな」


 飄々と喋るアルマンド。

 ふざけた態度ではあるが、その風貌から放たれる異様な圧に冷や汗が出た。


 そしてなにより、この女は全てを見抜いている。

 見抜いた上で、こうして自分の前に姿を現したのだ。


「そうだ、私は無実だ。……屋敷を焼き、そして召使やサウレを殺したのは……恐らく勇者だッ!」


 思わず拳を固く握る。

 溢れ出る激情が再び、憎しみの心を蘇らせた。

 

「勇者だけじゃあねぇぞ。アンタが愛した戦乙女も絡んでる」


「……なに!?」


「あの女はとっくの昔に勇者の言いなりさ。身も心も完全にな」


 突きつけられる現実に心が激しく傷んだ。

 なぜこうなってしまったのだろう?

 自分は彼女と、そして義妹サウレと生きていたかっただけなのだ。

 例え乱世が続くとも、手を取り合い、支え合い、そういった普通の人としての営みの中で暮らしたかった。

 ただ、それだけだったのに。


「……傷口抉るようで悪いが言わせてもらうぜ? ――この世に『絶対裏切られない愛』なんてものは存在しない。どれだけ万全を尽くしても、やられちまったときは一瞬さ。……愛は裏切りまでは保障しないもんだ」


「な、なにぃ!? それでは……それでは私の、彼女への愛はどうなる!? 義妹への愛は……ッ!」


「そう……だからこそ、世界は『報復』と『慟哭』に満ちている。……オレはな、そういう膿の中でもがいてる奴にちょっかいだしたりすんのが楽しいんだよ」


 目の前の女への感情が憎悪と軽蔑に変わる。

 魔女アルマンドは、今の自分を見て楽しんでいるのだ。

 なんたる不愉快な奴ッ!


 思わず怒鳴ろうとした直後、アルマンドはそれを予測していたのか両手で制止をかける。


「誤解されちゃあ困るぜ? 確かにオレは苦しんでる奴を見ては喜ぶクズだ。邪魔だってするし更に貶めたりもする……。だがな、オレは"面白そう"と思ったら、とことんまで尽くしたくなるスッゲーいい女でもあるんだ」


「な、なにがいいたい」


「おいおい、こんなナイスバディな褐色美人がここまで言ってんのにわかんねぇのか? ――――協力してやるって言ってんだ。オーケイ?」

 

 思わず目を見開き、目の前の女を凝視する。

 魔女、即ち教えから背いた恐ろしい存在。


 その魔女が、気まぐれかなにかかはわからないが、"このルシフに協力する"と言ったのだ。


「そんなジロジロ見ないでくれよぉ、ストリップやってんじゃねぇんだぜ?」


「む……す、すまん」


 軽く咳払いをし、決意を新たにする。

 親衛隊にして騎士ルシフはここで死んだ。


 悪鬼羅刹が如きこの憤怒を以て、――復讐を果たす。


 だが、その前にどうしても叶えたい願いがあった。


「義妹……サフレを、生き返らせてはくれないか?」


「……なんだって?」


「生き返らせて、どこか安全な場所へと連れていってほしい。お前の魔術でどうにかならないのか?」


「……()()()()()()()()()()()()()()って、随分哲学的な難問だな。流石のオレもガチで悩むわ」


 ルシフにとっては驚愕の知らせだ。

 ――――サウレが生きているッ!

 すでに亡き者にされたかと思って悲観にくれていたが……。


「サウレはどこにいる!?」


 だが、アルマンドの口から気怠げな否定の言葉が出た。


「教えない」


「なぜ!?」


「言ったらつまらんだろうが! 囚われの姫君を探すのは騎士の役目だ、チョイ役のオレがなんでも解決してやるなんぞ、興醒めにもほどがある」


 コイツを本当に協力者にしてもいいのだろうか?

 言動からは自分本位しか頭に無いようにすら感じる。

 いや、実際自分が楽しければそれでいいという崩れ者なのだろうが。


「……だがまぁ、ヒントくらいは教えてやる。アンタの義妹を罠に引っ掛けたのは戦乙女で、義妹をさらったのはあの勇者だ。それは間違いない」


 嗚呼、ユーリナ、あの男の快楽の為に自分を裏切り、悪道へと堕ちたか……。

 そしてヴェニン。

 自分からユーリナを盗るだけに飽き足らず、今度は義妹にまで……ッ!


「許せない……私は、彼等を許さない」


「……」


 ルシフの怒りを、アルマンドは心地よく受け止めていた。

 それと同時にあることを懸念する。



 ――――この男に、かつて愛した女へ復讐する気概はあるか。



 

 そこがまた、彼女にとっては一番見所がありそうな局面であった。

 彼がいかなる決断を下すのか、是非とも間近で見てみたい。


 もしも、その女への復讐のみを断念するようなことあらば。




 その場で、そっ首叩き落としてやる、と――――。

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