#6
ふぅ……ようやく契約が結べたよ。
あ、みなさまこんばんは。
ボクは人語を話すクマのぬいぐるみです。
もうすでに知ってるよね?
今回の依頼主の女子高生はぐっすり眠っているよ。
あとは段取りを組まないといけないからボクも大変なんだ。
「……うんしょ……」
ボクは勝手に彼女の部屋の本棚から下りて、机に上ることができたんだから元の位置に戻れるはずだけど、残念ながら部屋が暗くなっているからよく見えないだ……。
そう思っていたら、彼女がごろんと寝返りをした。
「……んー……」
もうすぐ彼女の命が終わろうとしているのに平和だなぁ……。
ボクは疲れてしまったので、元の位置に戻るのは諦めて彼女の頭元で休むことにした。
みなさまおやすみなさーい。
†
私はスマートフォンの目覚まし機能で目を覚ますと、知らないうちにクマのぬいぐるみが私の頭元で横になっていた。
しかも、ちゃっかり布団まで被っている。
「ちょっと、いつの間に!?」
「ごめんなさい...…寒くて……」
「確かに寒いね……私こそ、気がつかなくてごめんね」
言われてみれば、いくら3月下旬とはいえ、今日はいつもよりちょっと寒い。
私はぬいぐるみをうつ伏せにし、パジャマから私服に着替える。
「……く……苦しい……」
「ごめんごめん」
クマのぬいぐるみは「寒い」って言っているからタンスからハンドタオルを引っ張り出して背中にかけた。
「あったかーい! ありがとう!」
「じゃあ、私は朝ごはんを食べてくるから待ってて」
「はーい」
平和で穏やかな日常が終わってしまうのは時間との問題になるけど、ちょっと寂しいな。
その日まではお母さんの温かいご飯の味をしっかり噛み締めたいと思っている。
†
彼女は部屋を出て、朝ごはんを食べに行っちゃった。
でもボクは話したりや動いたりすることはできるけど、飲んだり食べることだけはできないからこうしてぼんやりと待つしかないんだよね……。
これからの段取りを組みたかったけど、彼女の朝ごはんが終わったあとにでも切り出してみよう。
2025/10/05 本投稿




