#4
「今、なんか言った?」
「ううん。なんでもない」
私が言ったことはお母さんに聞かれていた。
本当はなんでもないわけじゃない。
私は今、人語を話すクマのぬいぐるみから生きるか死ぬかという人生の究極の選択を突きつけられているのだから――。
「何か困ったら、お母さんに言うのよ?」
「分かった」
お母さんがいるから心強いけど、例の件は私自身で決めなければならないこと。
そんなことは分かっているから、そのように答えるしかなく、私はコップに2杯分の烏龍茶を注ぎ、リビングに向かった。
†
お母さんとともにリビングで食卓を囲む。
ちなみにお父さんはまだ帰ってきてないから、おそらく残業かな。
物心がついた頃から夕食時にお父さんがいないからもう慣れている。
私は部活に入っていないし、今から進路のことは話したくから、特に話題はこれといってない。
静かな空間にテレビのニュースが孤独に流れている。
『現在、中高生を中心に「ネットいじめ」が――』
「最近、「ネットいじめ」が増えているみたいだけど、大丈夫なの?」
「い、今のところは大丈夫」
「ならいいね。いつターゲットになるか分からないから気をつけなさいよ?」
「うん」
唐突にもニュースで「ネットいじめ」の話題が耳に入ってきた。
私はそれを聞いてご飯を喉に詰まらせる。
個人的にはその話に関しては触れてほしくなかったが、これが現実なのだから仕方がない。
「もう……」
「お母さん、ごめんね」
「落ち着いた?」
「う、うん」
もし、私が人語を話すクマのぬいぐるみの指示に従って死の契約を結ぶとしたら、家族と過ごす時間は徐々に短くなっていき、お母さんが作ってくれた温かくておいしいご飯が食べられなくなると思うとなんだか悲しくなる。
まずはどちらの選択肢を選ぶか今日中に決めなくちゃ。
そのぬいぐるみが「早く、早く!」と騒がれないうちに――。
2018/12/31 本投稿




