#3
「たかがクマのぬいぐるみなのに、契約云々をしようってどこぞの魔法少女ネタみたいな話だね」
「そうかな?」
さすがに人語をしゃべるクマのぬいぐるみはどこかのおもちゃ屋さんに行かないと手に入らないだろうと思う。
それどころか現実にそのような漫画やアニメがあったかもしれないが、私は見たことがない。
私はその件についてはそもそも興味がない。
そのようなことは置いといて……実は私、本当は死にたくないんだよ。
それがたとえ私の意志の塊や死の契約だとしても――。
「なんか嫌になりそう。こんなことに私が巻き込まれるなんて」
「仕方ないよ。君は選ばれちゃったんだから」
「諦めることしか方法がないのか……」
「そうだよ?」
誰がどのようにして私を選んだのかは分からない。
それが神様なのか否かすらも――。
おそらく私はそういう運命なんだと仕方ないといろいろと諦めていた。
「それでどうするの?」
「えっ?」
「契約だよ? するのかしないのかハッキリしてほしいな」
「ちょっと、いくらなんでも早すぎるよ!」
人語をしゃべるクマのぬいぐるみに出会ってからまだ1時間すら経っていないのに、そのようなことを言われても……。
私はすぐにその答えを出すことができなかった。
「考える時間がほしいというわけだね?」
「そう! 見ず知らずの人に話しかけられたら、断るかどうか考えたりするよ!」
「ごめんね、ごめんね。できれば今日中に答えを求めてほしいな」
「今日中……? 明日だと遅いの?」
「うん」
「うー……分かった」
一応、ぬいぐるみから「今日中」という名の時間制限を与えられたが、私はそれまでにきちんと答えを見つけ出せるのかが不安である。
契約するのならば、それなりの覚悟をしなければならない。
もしかしたら、拒否権はないかもしれないから――。
†
あのあと、いろいろ考えてみたけど、だんだん頭が痛くなってきてしまったやさきに、キッチンで夕食の準備をしていたお母さんに呼ばれ、1階のリビングに向かった。
「どうしたの? 浮かない顔をして」
「別にどうもしないけど」
私がそこにきた途端、お母さんは今の私の表情を見て驚いている。
よく私が思っていることを察することができるなぁ……と感心しながら、コップに烏龍茶を注ぎ、一気に飲み干した。
「なら、よかったわ。あなたはもうすぐ2年生だものね。そろそろ進路のことを考えないと」
「うん、そうだね」
そういえば、私のお母さんは近くの中学校でスクールカウンセラーをしている。
私が高校受験で悩んでいた頃はお母さんによく相談してたっけな。
まぁ、今となってはよくも悪くも結果オーライとしておこう。
私が今、「ネットいじめ」に遭っていることを話したら、お母さんはどんな気持ちになるのだろう。
お母さんはもちろん、いつも遅い時間に仕事から帰ってくるお父さんも絶対に悲しむと思う。
「人生って難しい……」
私は空になったコップを眺めながら、そっと呟いた。
2018/11/24 本投稿




