#15
私は支度を終えた彼女の車に乗り、勤務している病院へ向かっている。
彼女が運転している時は話しかけずにそれに集中させることが今の私にできること――。
駐車場に到着し、彼女は車を止め、「ねぇ」と私に言ってきた。
「さっき、わたしが頭を掻いたらって言ったけど、朝から姿を現していいよ。だけど、復讐を始める時は頭を掻くから」
「それでいいのですか?」
「うん。その方がいろいろと面倒じゃないでしょ?」
私にとっては思いがけないその言葉。
確かに彼女のタイミングを合わせて周囲には見えない私が姿を現すのは難しいものである。
それだったら、もう姿を現してしまえという彼女なりの考えだ。
「ええ。あなたがそう言うのならば、私はそれに従います」
さて、ここからは私の時間だ――。
†
「あれ? この人はこの病院の医師?」
「……さぁ……」
「あいつはテロリストか?」
「いくらなんでも違うだろう。白衣を着てるし……」
私はナースステーション付近でタイミングを測っているが、出だしから彼女の同僚に怪しまれるハメになっている。
医師と言われるのならば嬉しいが、完全にテロリストはないだろう。
それはそうだ。
私は彼女の指示に従って自分の姿を現しているのだから、怪しまれても仕方ない。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「では、本日の申し送りを始めます」
「「お願いします」」
朝の申し送りが始まろうとした時、彼女は何気なさ装って頭を掻く。
私は彼女がマタニティハラスメントを受ける原因を作った張本人達に向けて、事前に画用紙などの工作用具を使用して作った医療用メスを投げつけた。
「メ、メス!?」
「誰よ!? こんなところにメスを投げつけたのは!」
「漫画やファンタジーの世界じゃないんだから!」
張本人達はそれを見て怯えている。
確かに医療用メスが飛んでくることは現実にはあり得ない。
そのようなことを普通にやってのけようとしている私がいた。
「なんで医療用メスが飛んでくるのよ!?」
「これは失礼。こちらは工作用具で作ったレプリカです。私は本物のメスを投げさせていただいても構いませんよ?」
私が姿を現した時、彼女はナースステーションの隅に避難していたので、無事ではあったが、無駄に怒られているような気がする。
しかし、私が先ほど飛ばしたのは自分で作ったレプリカの医療用メス。
この際、私は本物の医療用メスを投げつけ、例の張本人達を殺めてしまっても可能なのだ。
彼女は「もしかして……」呟く。
「ええ。私は彼女らにメスを入れに参りました」
張本人達に人差し指を指しながらニヤリと笑う私。
「ちょっとあんた! 見た目はよさそうだけど、罪な考えを持ってるね」
「そうよ」
「それはどうも」
「本当はテロリストなんでしょ?」
「いいえ。私は医師免許を剥奪された者ですが、何か?」
「「………………」」
「それでは始めさせていただきますね?」
彼女らが黙りかけたタイミングを見計らい、私は両手に1本ずつ本物の医療用メスを構え、そう言った。
2018/01/06 本投稿




