#14
旦那は朝早くから出勤してしまい、彼はいつの間にか帰ってきて、ソファーベットで眠りについていた。
「見かけによらず、可愛らしい寝顔……」
今はわたしにしか見えない彼の寝顔。
わたしがその寝顔をスマートフォンとかで撮ってしまうとおそらく人物は写らず、ソファーベットしか写らないだろう。
「もう。こんなところで寝ていると風邪引くよ」
わたしは彼に言ったけど、すやすやと寝息を立てていて全く起きる気配がないため、そこに引っかけておいた大きなブランケットをかけた。
†
日々が流れるのは早いもので、ついにわたしが死ぬ日がきてしまった。
わたしは目覚ましが鳴る前に身体を起こしてパジャマから私服に着替える。
「さて、朝ご飯を作らなきゃ」
エプロンを着け、キッチンに立った時、彼から「おはようございます」と声をかけられた。
「おはよう」
「今日が本番ですね?」
「そうだね」
「例の復讐は私が遂行させていただきます。その時に何か合図を出してくれると助かるのですが……」
最初は挨拶だけで勝手にあの話に持ちかけられてしまう。
「合図ね……」
合図と言われると何があるだろう。
手を振る、手を挙げる、ペンを持つ、頭を掻く……などと仕草だけでもたくさんあるのだ。
それを考えるのにも時間がかかるため、わたしは思ったものを適当に選ぶ。
「じゃあ、わたしが頭を掻いたらでいい?」
「いいですよ。その時に私は姿を現します」
「お待ちしています」
「はい」
復讐開始の合図が決まったところでわたしは朝ご飯の準備を始める。
今日はご飯と鮭、酢の物、豆腐とワカメの味噌汁というシンプルな和食。
「「いただきます」」
珍しく2人で食べる最初で最後の朝ご飯。
しかし、わたしにとっては何もかもが最後なのだ。
わたしは過去のことを思い出しながら無言で箸を進めていく。
「はぁ……もう私の人生は最期なんだよね……」
「そうですね。遺書などの準備は?」
「してあるわよ?」
「そうでしたか」
わたしが呟いた時には皿や茶碗の中は空になっていた。
もちろん彼も同じようにきれいに食べ終えている。
わずか30歳で余命を宣告され、遺書を準備する。
旦那が育児で困らないように必要なベビー用品を買い揃えたし……。
他にももっとやりたいことがあったけど、後悔はしていない。
わたしはそう思いながら、後片付けをし、最後の出勤の準備を始めた。
2018/01/03 本投稿




