#11
「ちょっと、さっき話してた死の契約ってなんなのよ!? ねぇ、ねぇ!」
わたしは両手を彼の両肩を掴んで前後に揺さぶりながら問いかけた。
一方、彼は黙ったまま涼しい顔をして前後に揺さぶられている。
「そ、それはですね……あなたはお腹の中にいる赤ちゃんを生んだあと、死んでもらいます。そのための契約です」
「この子はわたしと旦那の子よ!? 誰にも渡さない!」
「確かに他の人に渡したくないという気持ちは私にも分かります。たとえそうだとしても、あなたは私とその契約を交わしたのは変わりありません」
確かに私と彼が契約を交わしたのは分かっているよ?
でも、私が陣痛が始まったらお腹の赤ちゃんはどうするのよ?
わたしと赤ちゃんの絡みもあるし、これからどうなるかは分からない。
「ところで、わたしの赤ちゃんは誰が取るのよ?」
「あなたのお腹にいる赤ちゃんは私が取り上げるので、大丈夫ですよ」
「本当?」
「なので、安心して出産に臨んでください」
彼がこう言っているが、わたしは安心することができない。
なぜならば、彼は医師免許を剥奪された無資格医なのだから――。
わたしと旦那の中ではじめてできる赤ちゃんには未来がある。
大変な思いをしながら、出産し、親としてはもちろんのこと、医師と看護師として働きながら生活を送っていかなければならないのだ。
わたしの育休はそれなりにあるが、子供を預かってくれる保育所がすぐに見つかるかは分からないため、それなりに焦りがある。
「……………………」
「まだ不安ですか?」
「ちょっと質問したいことが……」
「はい。なんでしょう?」
「まずは1つ目。もし、途中でわたしの気が変わったりして契約をキャンセルすることは?」
「それはできません」
「そうなのか……」
「ええ」
「じゃあ、2つ目! わたしがマタニティハラスメントにあっていることを事前に知って、あなたは私に近づいてきたの?」
「ふふっ。もしかしたら、そうかもしれませんね」
彼は不適な笑みを浮かべながら、実に愉しそうに私の質問に答えるのであった。
2017/12/30 本投稿
※ Next 2016/12/31 更新時刻は未定。




