#8
【作者より】
後書き欄で次回は11月24日と書きましたが、更新できずにすみませんでした。
彼女は嘘をついていない。
それを見た私は彼女が話していたことは真実なのではないかと――。
「彼女をこれ以上追いかけるのは止めにしておきましょう……」
私はその場から踵を返そうとしたが、これでは何のために追ってきたのかが分からない。
マタニティハラスメントが実際に起きているのはこの病院だけではなく、他の職種でも起こりえるものなのだから。
「でも、あと少しだけにしておきますか……」
わずか数分で戻るわけにはいかないと判断した私はあと1時間だけ見守ることにした。
†
今日は午前だけの勤務というだけでもあって、わたしの心底では肉体的には楽だけど、精神的に少し辛い。
だって、わたしがナースステーションにきて早々に「なんでいるの?」と後ろの方で言われた時は少しショックだったなぁ……。
私はそのことを忘れるかのように赤ちゃんの様子を見て回る。
「この赤ちゃんの心拍の乱れがありますが……先生、少し診てくれませんか?」
ある赤ちゃんに繋がれているモニターからピーピーと赤いランプとともに、けたましく鳴り響いた。
わたしはたまたま近くで処置をしていた先生に報告する。
「はいはーい。ちょっと待っててねー」
「分かりました」
そして、少し経ったあと、先生は聴診器を耳にかけ、その赤ちゃんの処置を始めた。
「うーん……少しの間は経過観察だったんだけどね……」
「もしかして、緊急手術になりそうですか?」
「うん。そうなると思う」
「……っつ……」
「つわりかな?」
「は、はい……」
「今は辛い時期だと思うから、椅子に腰かけながらでもいいからね」
「すみません」
わたしは患者さんの家族のために置いてある丸椅子を手にした途端、その椅子は一瞬にして視界から消える。
丸椅子は例の看護師達が取り上げたのだ。
「1人だけ休憩するの?」
「ズルくない?」
「それにこの椅子は家族面会用って書いてあるよね?」
「その文字が見えないわけ?」
わたしに向かって言いたい放題言ってくる彼女らに向かって先生が「止めなさい」と普段とは違う口調で言う。
「さっきから見てるけど、君達は妊婦さんに向かって言いたい放題言うのはどうかと思うけど?」
「「…………」」
「もし、君達が妊婦になった時に同じようなことを言われたりしたら嫌でしょ?」
「はい……」
「確かにそうですが……」
「私も……」
「そうだよね? ならば、その椅子を渡してあげて」
先生のお説教のようなものを受けていた看護師達はしぶしぶとその椅子をわたしに手渡した。
わたしは「ありがとうございます」と彼女らから椅子を受け取り、ゆっくり腰かける。
「先生、先ほどはありがとうございます」
「いや、いいんだよ。僕は妻が妊娠していた頃に感じたことを言っただけだからさ」
例の看護師達はナースステーションの隅で何かを話しているようだ。
そこからわたし達がいるところまでの距離がかなり離れているから、どのような話をしているのかは分からない。
まぁ、おそらくそれはわたしのことだと思うけれど――――。
2017/12/09 本投稿




