#6
「あなたのその表情を待っていましたよ?」
わたしのわなわなした表情を見て愉しそう笑う彼。
それはまるで人を嘲笑うかのような表情だ。
「おやおや。冷や汗をかいていますよ?」
「あなたが突然、言い出すんだもん。普通に驚くし、心臓によろしくない!」
本人には言わなかったが、おまけに動揺もしていた。
わたしはリビングからティッシュで汗をふき取る。
今まで冷や汗をかいていたので、鳥肌が少し立っているのだ。
「何が「意外だと思っていたでしょう?」じゃない! それを一番最初に言ってくれていたら、すぐに警察に訴えられたのに!」
「そのことに関してはすみませんでした。それは重要ですか?」
「とにかく重要な話だよ! 無資格医だったらテレビとかで報道されるレベルなんだから!」
彼はすっとぼけたような口ぶりで訊いてくる。
わたしはなんで、彼は医師免許を剥奪されたのに、そのような情報に関しては無知なのかが知りたいところ。
ちなみに、わたしが勤めている病院でもかなり前ではあるが、「医療ミスによる医師免許剥奪」ということがテレビで報道され、今までとほぼ同じ水準の信頼度を取り戻すまでに何年、何10年ものの時間がかかったという話を聞いたことがある。
おそらく無知であろう彼にわたしは説明した。
「なるほど」
「……っつ……」
「またつわりですか?」
「そうだけと……」
「本日はお仕事ですか?」
「ご、午前中だけ……」
彼と話している間に本日初のつわりが起きてしまった。
わたしはソファーに腰かけ、それが落ち着くまで待つ。
本当はゆっくり朝ご飯を作って食べたい気分ではあったが、彼と話していたら、朝ご飯を作る時間が取れなそうだ。
「最低でも朝ご飯だけは作らないと……」
つわりが落ち着き、わたしはトースターで食パンを2枚焼き、マーガリンをつけて、彼に1枚あげた。
残りの1枚はラップに包み、わたしの鞄の中に入れる。
慌ただしく準備を終え、わたしは車に乗り込み出勤した。
†
「さて、私も行きましょうか」
彼女が家から出て行ったあと、私はもらったトーストを食し、彼女が勤務している病院へ向かおうと支度を始める。
なぜ、私と彼女はまだ契約に至っていないのに、病院に行くのかって?
それは彼女の職場で「マタニティハラスメント」にあっているのかが気になるところであり、要は現場検証というわけで――。
彼女の仕事が終わりそうなタイミングを見計らって、サッと家に戻ってきてしまえばいい。
「あとは彼女にバレないようにしなければなりませんね……」
突然、私が病院にやってきて、彼女にバレてしまったら契約云々どころではなくなってしまうから――――。
2017/11/04 本投稿
2017/11/13 次回更新時刻の変更(本来は、2017/11/17 4時頃予約更新にて更新予定だったため)
※ Next 2017/11/18 0時頃更新予定。




