#3
「ほう。私に事情を話してもらえないでしょうか?」
彼はわたしにその話をしてほしいと求めてきた。
まさか、こんなに早い段階で話すなんて思っていなかったから――――。
本当は言いづらいけど、話さないわけにはいかない。
わたしは「……分かった……」と答え、重い口をゆっくり動かした。
「わたしは新人の頃からNICUに配属されてずっとそこにいるんだけど、妊娠してはじめてお腹に子供ができた時は旦那と一緒に喜んだ」
「ええ。ちょっと失礼」
わたしが次のことを話し始めようとすると、彼は白衣の左ポケットからメモ帳と筆記用具を取り出す。
「続きをどうぞ」
「あっ、えっと……わたしのお腹はもちろん、子供はお腹で徐々に大きくなるし……夜勤ができなくなってきて、師長や主任に相談して肉体的に負担にならない作業や日勤だけの勤務に切り替えてもらったりしてたの」
「はい」
「そうしたら、ほとんどの看護師は理解してくれた……だけど……」
彼はわたしの話を聞きながら、メモを取っていく。
しかし、彼も少しずつ引っかかってきたのか分からないけど、筆の速度を徐々に落としていった。
そして、「だけど……?」と完全に筆を止め、わたしに視線を向け、問いかける。
「彼女らの一部は通常業務をやらせようとするし、「1人だけ楽してる」とか言って……精神的に参っちゃって……」
「それは酷いですね」
「だから、悩んでいるのよ……」
私が溜め息をついた時、彼は再び筆を走らせ、最後の一文を一気に書き終えた。
「話は以上でよろしいですか?」
「は、はい」
「分かりました。ならば、私からあなたに答えてもらいたい質問があります」
「質問?」
「ええ。私と契約を結びませんか?」
「契約? 私は嫌よ!」
突然「契約しませんか?」と言われてもなんと答えたらいいのか分からない。
だから、わたしは彼に対して拒否反応を示してしまった。
「仕方ないですね……猶予を与えましょう」
「えっ!?」
「明日の22時頃まで猶予を与えます。それまでに答えが出なかった場合は……」
明日の22時までに答えを出さないとならないんだ……。
私はその続きが知りたくて、「はい?」と反応する。
「あなたは無条件で「私と契約する」。それでいいですか?」
「分かりました。それまでに答えを出しますから」
その時の彼の表情。
実は彼にはわたしが見えないところでは裏がありそうな気がする。
それより、わたしは明日までに急いでその質問の答えを出さなくちゃ!
※ 次回更新分より毎週土曜日(金曜日深夜)0時頃更新予定です。
2017/10/03 本投稿




