#9
「思い出した……」
「そうですね。みなさまの業務の様子を僕がこっそりと視察し、労働局に定時時間が終わる前に連絡させていただきました」
「そうだったの!?」
「ええ。なので、今の時間から伺うように指示したのも僕ですから。労働局のみなさま、監査を始めてください」
「「はい!」」
僕はこれまでのことをお嬢様はもちろんのこと、彼女の同僚に説明した。
彼女の同僚は僕とはじめて会ったせいか少し唖然となっている。
一方のお嬢様は驚きを隠せないようだった。
†
労働局の人間がガサガサとこの部署の概要や修業概要などの資料を探し出し、ほぼ一字一句隅々まで読んでいる。
「こちらの部署のトップはどなたでしょうか?」
「まだチャイムが鳴っていませんので、こちらにはきてなさそうですね……」
「コレでは裁きたくても裁けませんね……」
僕は小刀をポケットから取り出し、近くにいた女性に問いかけた。
女性なので、小刀をちらつかせることはできないが……。
なぜ、「裁きたくても裁けない」と言ったのかというと僕は執事及び殺人鬼なので、依頼人のお嬢様の他に最低1人は殺さなければならないからあえてのこの部署のトップ。
「おはようございます!」
その時、修業開始時刻を告げるチャイムが鳴り、この部署のトップらしき男性がやってきた。
「あなたがこの部署のトップの方ですか?」
「はい、そうですが……」
「現在、労働局の方々が監査に入っていますが、いかがでしょうか?」
「お、おい! いつの間に!」
「ち、ちょっと、小刀は止めて!」
「お嬢様? 僕は殺人鬼ですので、遠慮容赦なく殺めさせていただきます」
お嬢様に止められたが、僕はそれ止めることはしない。
部署のトップが後ずさりする中でじりじりと近づいていく。
そのあいた間にも労働局の人間は監査を続けている。
おそらく残業代とかについて調べているのだろう。
「いろいろと粗が出てきているのですね……見ていて面白い。笑ってしまうほど面白い」
僕は一旦小刀をちらつかせることを止め、監査のメモを見た。
そこには引っかかる点が大量に書き記されていた。
「あなたはいずれ従業員を過労死で亡くなり、おそらく裁判沙汰になるでしょうね?」
「そ、そんなわけはない」
「しかし、みなさんは「休憩時間がまともに取れない」とか仰っていますよ?」
「………………」
「図星ですね」
そうこうしている間に監査が終わり、「最終的には先ほど言っていた裁判になりかねませんので、あらかじめご了承ください」と言い、労働局の人間は速やかに去った。
「さ、裁判までに少しでも改善しなければ……」
「頑張ってくださいね?」
「……はい……」
†
その日は私がこの部署に異動してきてからはじめて定時で退社した。
「執事くん、今までありがとう」
「こちらこそ、何も役に立てずすみませんでした。これでよろしかったですか?」
「うん。それでよかったの。もう悔いはないよ」
「これで僕達はお別れでよろしいですね?」
「はい」
執事くんは私に向かって小刀を突きつけた。
それ以降は私自身どうなったかは分からない――――――。
今回で第2章にあたる「case2」は完結です。
また、今回の更新を以て『現代の闇へと誘う者の鎮魂歌 ~死へのカウントダウンを決意した者の復讐劇~』は一旦完結済みに設定させていただきます。(仮完結です)
新たなシチュエーションが思い付き次第、更新再開する可能性もありますので、あらかじめご了承くださいませ。
また、改稿により話数の増減があるかもしれませんので、あしからず。
2017/04/07 本投稿




