#6
「私が「復讐しようと決意した時」にしか姿を現さない、って言ってたけど、本当に普通は私にしか見えない存在というわけで捉えていいんだよね?」
お嬢様は僕に問いかけた。
それに対して僕は「左様でございます」と平然を装って答える。
「じゃあ、それまではあなたはこっそりと視察だね」
「そうですね。普段のお嬢様の仕事ぶりを拝見できますので、とても楽しみです」
「えー。見ても楽しくないよー。逆に萎えてくるだけだと思うー」
「そうですかね……」
「疑ってる?」
「疑うに決まっていますよ」
確かに僕は今のところは彼女の職場に視察どころか脚を踏み込んでもいない。
「逆に萎えてくるだけ」?
お嬢様は簡単に言っているが、果たして本当なのだろうか。
そんなの僕は知らないから、止めてほしい。
「労働基準法を違反する部署は私が今いる部署だけなの。あなたがこっそり視察した時に分かると思うけど」
「その際はよく拝見してみますね」
「視察するなら……今日は金曜日だから来週の月曜日はどうかな?」
「月曜日ですね? よろしいですよ」
彼女の職場は本人の口から何度も言っているとおり、「ブラック企業」。
その様子を自分の目でよく見てくることが大切なのかもしれないと僕は感じた。
†
そして、2日間の連休を経て、お嬢様と周りには見えないようにしている僕は彼女の職場に脚を踏み込んだ。
そこで僕が見たのは疲労でやつれた表情を浮かべている同僚達の姿。
お嬢様が言っていたことは本当だった。
「これはこれは他の部署とは表情が見るからに違いますね……」
「そうでしょう?」
「やはり、本当でした。疑ってしまい大変申し訳ございません」
「いいよ。職場の現状を知ってもらえるだけでも私は嬉しいし」
「そうですね」
「肝心なのは定時後の残業だよ」
「承知しております」
†
そして、時が流れ……。
定時の時間を終え、少し休憩時間を挟み、残業に入った。
僕はお嬢様のところから離れ、周囲の人間にバレないように入口に向かう。
「やはり、かなりの差があるようだな……」
ほとんどの部署の電気が消灯されており、社員はもちろん退社していた。
そのような中で、お嬢様達は黙々とひたすら仕事をこなしている。
「本当にブラックだな」
その部署は本当に「ブラック企業」に等しい。
最終的に彼女らが仕事を終えた時刻は23時を軽く回っていた。
僕は最初に「スーパーが閉まっちゃって……」とお嬢様が言っていたことを思い出す。
そうだよなー。
それが続くと、なかなか買い物とかに行けないからな。
「ねぇ、早速だけど……」
「えぇ」
「復讐は明日でもいい?」
彼女から「復讐したい」という申し出があった。
僕は「えぇ。僕は構いませんが」と答える。
それはそうだろうな思う。
僕自身、今日だけでもこれは裁きようがあると感じたから。
これは執事としてではなく殺人鬼として――――。
2017/03/30 本投稿
※ Next 2017/03/30 4時頃予約更新にて更新予定。




