#5
私は彼の正体についてもやもやしながら、箸を進める。
彼のことだから真面目な能力とかが備わっていそうだと思った。
例えば、戦闘能力とかのようなごく普通の能力とか-―。
「……そ、そういえば……」
彼はふと何かを思い出したかのように口にした。
「えっ!?」
「僕はお嬢様に1つだけ言い忘れたことがあります」
「何?」
「僕の正体についてなのですが、実は僕、「殺人鬼」ですので……」
「は!? 殺人鬼?」
彼と出会ってからずっと気になっていたその正体……。
私は驚き、フォークを皿の上にガシャンと落としてしまった。
まさか、慇懃な執事のような彼が「殺人鬼」だったとは思ってなかったから――。
「ふふっ。随分と驚いていらっしゃいますね……」
彼は苦笑を浮かべている。
そして、どこか面白そうに笑い始めていた。
「そ……そりゃ、驚くよー」
「デスヨネ……新しいフォークをご用意しましょうか?」
「大丈夫」
「ただ、僕は普段はどちらかというと口が悪い方ですけどね。お嬢様に仕えている以上は素を晒すことができないことがネックですが」
あの執事くんが素を晒すとどうなるのかなぁ……少し興味があるけれど、私は「そうなんだ……まぁ、復讐ねー……」とぼやく。
彼は「お嬢様は早速、本題に入るのですね?」と先ほどと同様、愉しそうな表情を浮かべていた。
「べ、別にいいでしょう!?」
「どのような要望ですか? この僕がその要望にお応えいたしましょう」
「私はあの職場に対して、「復讐」というより、「裁判沙汰」にしたいの!」
「ええ。それは……?」
「定時でその時間までの給料はまだ分かるよ? 残業をたくさんやっても残業代があまり支払われないって「労働基準法」に絶対、絶対、ぜーったい違反してると思うの? それで…………」
私は彼に今までに溜まっていた仕事の鬱憤を晴らすかのように2、3分くらいはずっとしゃべっていた。
それにも関わらず、彼は黙り、頷きながらその話を聞いている。
「…………粗方はご承知いたしました。後日、その職場をこっそりと視察してもよろしいでしょうか? 口頭では簡単に済ませることができますが、実際にその様子をご覧にならないと分からないことはたくさんございますので…………」
「確かにそうだね。私の口からは簡単にじゃんじゃん言えるけど、実際に見てみないと分からないもんね……」
「左様でございます。僕はできる限りこっそりとその様子を……」
「って、周りからあなたの姿がバレバレじゃない!」
私は彼が話しているのにも関わらずに遮ると、「僕はお嬢様が「復讐しようと決意した時」にしか姿を現しません」と私の耳元で囁いた。
2017/03/25 本投稿
※ Next 2017/03/30 0時頃更新にて更新予定。




