#13
「授業を始めますよー」
「「はーい!」」
チャイムが鳴る少し前に家庭科室に白衣と三角巾姿の先生が駆けつけ、僕達は返事をした。
学級委員が「起立!」と号令をかけ、「お願いします!」と言ったあと、先生は1人ずつ出席を取っていく――。
「うん、全員いるね。今日は「簡単な朝ご飯」をテーマにみんなで話し合ったものを作ってもらいます。全部の班で包丁を使うみたいだから気をつけてね」
「「はーい!」」
「「分かりました!」」
僕達は素直に返事をし、先生の「では、始めてください!」の号令(?)で僕以外のクラスメイトは一斉に冷蔵庫に群がった。
調理実習の材料はその当日の朝、家庭科室の冷蔵庫に入れておくことができる。
自分で持ってきた材料を誰かに頼んで持ってきてもらえば効率いいのにと思いながら、僕は調理器具を出したり、石鹸や食器洗い洗剤などの準備をしていた。
「必要な調理器具が揃ってる!」
「本当だ!」
「僕が使う前に全部洗っておいたよ」
「めっちゃ助かったよ!」
「「ありがとう!」」
先ほどまで冷蔵庫前で自分で持ってきた材料を取りに行っていた、同じ班の女子達が話しかけてくる。
普段は誰にも声すらかけられない僕だから、くすぐったいくらい嬉しかったが、周囲の男子の視線は背筋が凍りつくほど冷たい。
それでも、僕は彼らに――。
†
僕はニヤニヤしながら包丁の刃を綺麗だなぁと思いながら見ていたら、女子に「どうしたの?」と訊かれた。
「どうもしないよ?」
僕は彼女に冷静を装っていつも通りに接する。
さっきは包丁の刃を見ていたから、僕のことをやばい人間だと思われているかもしれない。
「なんかずっと包丁ばかり見てるからさ……」
「ごめんね?」
「包丁は危ないし……」
「気をつけなきゃね」
「……はい……」
僕と女子達が話している時に1人の男子が「お、おい!?」と僕の方を指を指している。
それに気がついた僕は後ろを振り振り向くと彼が真の姿で立っていた。
「なんだなんだ?」
「「なんだなんだ?」じゃないよ!」
僕が望んでいないタイミングで姿を現した彼は鈍感すぎる!
それに、彼を見たクラスメイトはかなり引いているようだ。
その光景をよそに、僕は近くに置いてある包丁をニヤニヤしながら研磨している。
「まぁ、ここからは少年次第だからよ」
「うん」
そうなのだ。
ここからは彼から言われた通り、僕に課せられた時間――。
僕は自分の最期のために、やるべきことはきっちりやらなければならない。
ただでさえ、人外の姿が見え、怯えているクラスメイトに対して僕はこう言い放った。
「僕はみんなが嫌いだ! 大嫌いだ!」と――。
今まで僕が辛い思いをしてきた分、今度はみんなを辛い思いをさせてやろうと思う。
時が止まりかけた家庭科室で、僕は包丁の刃をちらつかせながら、彼らの前に立った。
それで僕の気が済むまで――。
2017/02/18 本投稿




