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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
3章 王国学園・1年生編
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デスペナルティ

 騎士団は邪魔しない。邪魔出来ない。ワイズマンの介入が行われる都市内部では騎士団には拘束する権限が存在しない。それだけ都市内部ではワイズマンの力が強いという事を証明するのだが、それがなくても恐らく今の俺達に立ち向かおうという覚悟のある奴はいないだろう。何せ“宝石”級の戦闘屋が3人も揃って武装しているのだ―――それこそ同じレベルの戦闘屋を呼ばない限りどうしようもない。エメロードの騎士団の権限がどうなっているのかは解らない。だが俺達3人を止めようとするならそれこそ団員全員で命を懸ける必要さえあるだろう。


 だから俺達は街中を安心して歩けるし、話せる。


 少しずつ暮れて行く都市の道路、外灯の下に5人で集まりながら、確認する。


「一応確認しとく―――ぶっちゃけ、政治方面とかでの解決が困難で時間がかかりそうだから、俺はこの件をマフィアをスケープゴートにして乗り切っちゃえば良いと思ってる。だからこれからマフィア連中を襲撃して責任を被せられる奴を捕まえようと思う」


「相手がやった手を此方でやり返すんだ、これ以上ない皮肉な返しになるだろうな」


 ダンの言葉に頷く。敵がとった手はシンプルに仕立て上げた犯罪を押し付けるというものだ。だから此方も犯人を可能な人間に押し付けるというやり方でやり返す―――それも恐らくは手駒であるマフィアに投げつける事で相手の戦力も削れる。実に美味しい話だ、出来ればという前提が付くが。普通に考えるなら“加工物”であろうとも群れて武装した人間の集団というのは相当恐ろしいものだ。対応するのが中々難しい事であるのは間違いない。俺が“宝石”級の自力があるから軽視しがちだが、“加工物”級もあれば十分生物としては恐ろしいレベルに入るのだ。その大量集団を相手にする話をしているのだから、基準が狂った会話だと言えよう。


 だがこの件、マフィアをスケープゴートにするのは我ながら妙手だと思っている。連中はクスリの売りも、殺人も、強姦も、脅迫も何だってやる。あくまでもそれらがエメロードで行われないのはデメリットを見越しての事だろう。だが十分実行出来る脅威性というものが存在している。だからマフィアが貴族を殺した所で“ああ、連中ならやりかねない”と思うだろう。今回はそれを利用して汚名を押し付ける事にするのだ。


 その為には生贄が必要だ。俺達の代わりに罪を引き受ける奴が。誰でも良い、という訳じゃない。今回の件、そこら辺の末端を生贄にしてもインパクトが弱いだろう。


「ま、何にせよ生贄には責任を取れるレベル、現実味のあるレベルの奴が欲しいな」


「となるとエメロードスラム街のマフィアを取り仕切っているヴィンセントが良いだろう。奴がここのマフィアのトップだ」


 ダンが即座に補足してくる。そう言えばこいつはフランヴェイユ家に仕える使用人だからそこら辺の情報がある程度わかっているのだろうか? 探る様な視線を向ければ、ダンが目を閉じた。


「……シェリルお嬢様は、現在父と兄とは敵対関係にある。端的に言えば学園へ来たのは将来の為であり、お嬢様の動きを封じる為でもある。お嬢様は家での動きを理解していながらも対処できない立場にある」


「まあ、信用できるならそこらへんの立場はあまり興味御座らん。重要なのは此度の行動において有益な情報がどれだけ出せるかという事で御座る」


「なら心配する必要はない。連中の本拠は既に調べてある。我々の脅威となりうる戦力は存在しない―――行けば蹂躙だ」


「おぉ……自信満々っすね……。こう、戦力にならない自分は出来たらここから去りたいんすけど……」


「やったね、クルツ君! 何もせずにお嬢様が助かるね!」


「あああー! それ! それ言っちゃうんすか!? そう言っちゃうんすか!? でも自分、ぶっちゃけ足手まといなんすよね―――!」


「まあまあ、クルツ君。この3人がインフレし過ぎなので別段戦えても、状況的にあんまり変わらないです。強すぎて」


「そっかぁ」


 普通、“宝石”級の戦力を持つ者なんて早々会えない筈だ。この都市に数人いるというのは相当レアなケースであり、まず見かけない部類の事なのだ。そもそも大都に行った所で“宝石”がいる訳でもない。エスデルは人が集まりやすく、そして権威を示す為に最高戦力を連れてくる人間がいるという事で“宝石”が比較的に集まりやすいが、それでも同時に3人が相手になるという事態はかなりのレアケースだろう。


 それこそクラン規模の出動でもなければ。


 防衛や守護を生業とする者達、大都市におけるメインとも呼べるレベル帯は大体“金属”辺りだろう。そこから“宝石”の領域にまで伸ばすのは相当な苦労を必要とし、”宝石”級の戦力を保有するのはそれこそ大国家レベルの財力が必要となる。だから改めて、ここに3人揃って襲撃準備を完全に整えている状況はもう、テロとしか言えないものだった。


 なんというか、完全に交通事故とかそういう類の奴。まあ、喧嘩を売ってきたのはあちらだ。此方はそれを最大レベルで買って殴り返しに行くというだけの話だ。まあ、ここは素直に喧嘩を売った相手を間違えた事を嘆きながら成仏してほしい。


 成仏させる。物理的に。


 それはそれとして、必要だった情報はどうやらダンが抑えていたらしいので、下調べする必要も適当にそこら辺のスラムの住人から聞き出す必要もなくなった。拳を掌にパン、と音を響かせるように叩きつける。


「じゃ、時間をかける必要もないし今夜中に終わらせちゃおっか」


「そうで御座るなぁ、あまり帰りが遅いと心配されるで御座るからな」


「それ以前に怒られそうな気配もするがまあ、気にする事ではないな」


 ハリアとクルツは曖昧に笑って受け流している―――まあ、普通はこんな行動取ったりしないよね。だけど仕方がないじゃん。俺達強いんだし、それだけの力があるんだし、出来ちゃうんだし。だったらやるしかないじゃん。


 この世界は、結局のところ強い奴だけが報われる世界なんだから。


 リアの様な弱者を守る為には、


 悪い奴は、全員殺していかないと。


 じゃないとまた、どこから人狼が湧いてくるか解らないから。


 徹底的に殺さなきゃ。






 ダンが示した場所はスラム街東地区のとある場所だった。門へと続く大通りから外れて廃墟が作る影に潜む路地の先、土地が一段低くなる区画。そこに周囲の建物や廃墟に隠れる様にしてマフィアたちの本拠とでも呼ぶべき建造物があった。この立地は元からあった物じゃないな、と地形を見て判断する。魔法によって綺麗に断面が整えられて土地が下がっている。これはつまり、この場を作る為に魔法で土地を弄った証拠だ。だが道路や周辺から軽く見まわした程度では発見する事の出来ないこの場所は、知らなきゃ近づく事は出来ないだろう。


 そして同時に周辺を犬型のモンスターが徘徊している。ジャーマンシェパードやゴールデンレトリバーを思い出させるような巨体の上、非常に獰猛で鋭利な牙を生やしており、人間に食らいつけば一瞬で血肉を食い千切る事が出来るだろう。よく調教されている事もあって態々人間を監視に配備するよりも優秀で、凶悪だ。調教されて戦力として運用されるモンスターは、ある程度は見るものでもある。だがそれをマフィアが備えているというのは相当異常な戦力であり、防備としては十分すぎるものだろう。


 ―――俺がいなければ。


「くぅーん」


「はっはっはっは」


「わふーん」


「うわっ、すごっ……全部腹を見せて服従してる」


 クルツが呆れる様に、目の前で腹を見せて転がる番犬たちの姿を見た。この犬型モンスター共は全員、俺を察知した瞬間服従を判断し、目撃した瞬間頭を下げて近づいて、何もしませんと腹を見せてアピールしてきた。つまりどんなに調教されたモンスターであろうと、動物ジャンルに程近い生き物であれば俺に対しては無害であるという事だ。


「便利で御座るなぁ、エデン殿の体質は」


「だがこれで接近を察知される事もなく、警戒される事もなく接近できるな」


 態々犬を皆殺しにする必要もなくなった事実に俺もちょっとだけほっとしていた。まるで子犬に戻ったかのように腹を見せる猛獣の腹を撫でてやると、嬉しそうに鳴いてちょっとだけ道の上で転がる。そこがまた可愛いんだが、周囲からはちょっとドン引きされている様な気配を感じている。いや、だって、動物って基本的に俺に無害だし……。


 まあ、そんな訳でマフィアの本拠を守る番犬の無力化は秒で終わった。番犬たちは敵対しない様に言い含めて解放しつつ、敵の様子をうかがえる廃墟の高所から敵の姿を観察―――なんて事はしない。


 番犬たちを解放した瞬間ダン、俺、楓を先頭として躊躇なくマフィア達が本拠とする豪邸、その門の前に立った。塀と金属製の門によって閉ざされたその入り口の前には銃で武装した黒スーツ姿のマフィアが2人門番として立っており、その横には番犬となるモンスター達が大人しく座っている。その視線が俺達を捉えてから尻尾をぶんぶんと振りながら大人しく頭を下げたままにしている。とても偉いぞ。


「テメェら、ここがどこだか解ってて」


「うむ、無論で御座る」


 門番たちが言葉を終える前に楓が言葉を遮って刀を振るった。1人目の首が一瞬で切断され、門番の片割れが目を見開いた。


「なっ―――」


「黙れ」


 残り1人もダンが問答無用の拳を顔面に叩き込み、次の瞬間には頭を粉々に消し飛ばした。空を切る二つの音だけを残して静寂を取り戻したスラムの闇の中で、楓が切り落とした首を蹴り上げて手に掴んだ。そこに魔力が込められるのを見る。楓が俺、ダン、そして背後でハリアに隠れ守られるクルツ達を見た。


「では極東式の挨拶で宜しいか?」


「もう嫌な予感しかしないけど」


「やってみろ、今後の参考にさせて貰う」


「うむ、では!」


 楓が勢いよくマフィアの頭を振り上げ―――それを門へと向かって全力投球した。


「これが極東式の挨拶で御座る」


 込められた魔力と加速力によって頭が弾けながら門を粉砕し、脳味噌を飛び散らせながらその向こう側へと消えて行った。前庭、そこで何をしているのかはわからないが待機していたマフィア達は今、自分達の目の前で起きた事を一切理解する事が出来ずに動きを停止していた。だからその姿を見てうんうん、と楓は頷いた。


「失礼、主にかけられた泥を拭う故、紙の調達に参った」


「な、あ、え、あ……?」


 楓の言葉に誰もが混乱し、状況が混沌とする。だがその間に番犬たちは絶対に邪魔にならない様にさっさと逃げ出し、残されるのはマフィア達だけだ。銃で武装した彼らは目の前で門が破壊され、その向こう側に首を失った二つの死体を見て漸く自分たちが攻め込まれているのだと理解し、


「て、敵!? 嘘だろどこの命知らずがここに来るって―――」


 言葉を終わらせずに掌を握りしめた。


 黒い魔力の籠っていた掌は圧縮と同時に魔力を圧壊拡散、ターゲットされていた者に瞬時に同じような握りつぶす影響を与えた。白、ではなく黒。空間に対して放たれた固有魔法の応用にしてバリエーションの一つ、《にぎりつぶす》は空間を魔力で握りつぶした。結果として前庭にあった空間は瞬時に黒く塗りつぶされ、人も大地も装飾も、その全てが黒い結晶に染まった。


 黒、黒、黒、黒い結晶。有機物も無機物も関係なく侵食されて結晶化する。悲鳴を口にする事もなく、それが死である事を理解する前に目の前の光景が黒く染められて一瞬で終わる。結晶化によって空間のエーテルリソース、その占有率が一瞬で此方へと回ってくる。


 魔法戦とは空間リソースの奪い合いだとエドワードは言っていた。


 空間に対する使用済みの魔力とエーテル占有率が、魔法使いの戦いの勝敗へと繋がるのだ、と。


 巧い魔術師、魔法使い、魔導士は空間のエーテルを専有する。空間のエーテルを支配する事で相手に対して不利な属性を押し付ける事が可能となる他、相手の運用可能なリソースを元々保有していた魔力のみに制限する事が出来る―――つまり魔力の回復と、魔法行使を同時に妨害出来るようになる。


 結晶化によるフィールドの上書きは、これを効率的に行える手段でもある。即ち、魔法殺し。


 暴れれば暴れる程、魔法が使いづらく、俺が有利になる。


 そしてこの一手によってこの豪邸周辺の空間のエーテルを支配する事に成功した。これで相手の魔法を使った逃亡等を封じる事が出来る。後は隠し通路の類がないかどうかを警戒するぐらいだろう。


 まあ、それも気配で追える。


「そう言えばここのファミリーネームってなんだっけ?」


「あー、そう言えば何組か聞いていなかったで御座るな」


「知る必要はあるか? どうせ今日消えるんだ。覚える必要もないだろう」


 そうだな、と互いに呟いて頷き、軽く後ろを確認する。流石護衛に慣れているだけあって防戦に入るならハリアの心配は必要なさそうだ―――そもそも後ろへと通る攻撃なんてなさそうだが。


 無駄に見える事かもしれないが、ハリアとクルツがこの場にいる事には意味があるのだ。


 だからこの場には5人の従者全員が揃っている。ソフィアには従者がいないから彼女だけはちょっと申し訳なく思うし、良い方向に話が流れるのを祈っておくとして、


 左手をポケットに突っ込んで、大剣を生成し、肩に担いだ。


「久々の戦場、腕が鳴るで御座るな」


「状況開始……懐かしい血の香りか」


「それでは、ここからは(あく)の時間だ」


 今日、この日、この場所で。


 エメロードを悩ませるマフィア問題が終了する事を約束しよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 話し合いなんて野蛮な……ここは穏便に暴力で……
[一言] 怪しい流れになってきたでござる
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