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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
3章 王国学園・1年生編
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犯罪 Ⅳ

 スイーツを食べて糖分を補給するとやはり我ら女子、体に満ちるエネルギーというものは違ってくる。奢られたソフィアも笑顔になって別れた所で、改めて目的を果たす為にギルドへと向かう事にする。


「楓はどうする?」


「拙者はもう少々散策して回る事にするで御座る」


「そっか、それじゃあな」


「うむ、またで御座る」


 楓とスイーツと田舎娘のおかげで心は軽くなった。こんな事で一々メンタルにダメージを受ける俺の繊細さがそもそもの問題でもあるのだろうが、それはそれとして元々一般人だった身なんだから、何年経過しようとも性根というものは根本的にどうしようもないという事を理解している為、半ばあきらめている部分がある。


 それはさておき、


「行くか」


 他の2人と別れたところで俺もギルドへと向かう。とりあえず自分の中にある心残りを解消しておくのは重要な事だからだ。


 そうやって到着するギルドの中は、前来た時からほとんど姿が変わっていない。相変わらず人はそんなに多くはなく、昼間から仕事を求めて屯っている連中の姿がある。そしてその質は、決して高いとは言い切れない。やはり護衛や専門職が多く来ている分、冒険者は需要を奪われている感じがある。ただそれでも完全にギルドがなくなっていない辺り、僅かながら需要を……パイをキープしている感じがある。


 そしてギルドに入ると、カウンターの向こう側からあっ、という声がした。


「エデンさん、来てくれたんですね」


 軽く手を上げて受付嬢のエミリーに挨拶をしながら受付へと近づく。笑顔で此方を迎えてくれるエミリーは流石、受付嬢だけあって自分をどうやって可愛く見せるか、というのを理解している様に感じられる。ただ、まあ、同性なだけにどうしようもない。片手をポケットに突っ込んだ何時ものスタイルで受付まで近づくと、


「それでどうしました? もしかして仕事を探してます?」


「いや、仕事の方は適度に充実してるよ。それよりも知りたい事があって、それを探しに来た」


「はいはい! 調査の依頼ですか? それとも質問ですね? ギルドの資料室は空いているので調べたいものはご自由にどうぞ! ……ところで何に関してでしょうか?」


「マフィア」


「あー」


 そのシンプルな返答にエミリーは納得、という表情を見せて指で資料室への入り口を示してくれた。どうやらマフィア関連の情報は資料室の方に纏められているらしい。感謝するように軽く手を振ってから資料室の方へと向かう。特に鍵がかかっているという事もなく、扉を開ければその向こう側には地下へと続く階段があり、それを下がって行く先に新たな扉があった。



 そしてその先に広がっているのが資料室―――おいてあるのは棚、棚、棚、そして棚。どうやらこの支部は結構マメに資料を作成しては整頓して保存しているらしい。そうやって綺麗に資料を整えているスタンスは、正直好ましく思える。さて、と思いながら入口周辺を見渡せば小さなデスクと、その上に目録が置いてあった―――流石にエメロード学園の図書館の様な便利な魔導式ではないが、それでも手書きによって丁寧に作成されている目録なのは手に取ってみれば解る事だ。


「マフィア……マフィア……あった。複数の棚を取ってるのか」


 これは調べようと思うと結構時間を取りそうだなぁ、なんて事を考えながら目録をデスクの上へと戻し、棚へと向かう。数字によって細かく分類されている棚の内、複数の棚を取るマフィア用の資料棚はそれだけ事件や黒い噂、そして報告が絶えないという事の証拠でもあるのだろう。棚の前に到着したところでさて、と軽く声を零して棚を眺める。


「どこから手を出すかな……」


 軽く視線を巡らせてみれば、幾つかの資料―――報告書やファイルには付箋の様なカードが差し込まれているのが見える。その一つを取り出して確認してみれば、“基礎知識”等と書かれて区別されている。どうやら俺の悩みはこの資料室の先人によってありがたくも解決されていたらしい。学園の様な高級感はなくても、調べる人が使いやすいように意識されて整理されている事に感謝を心の中で告げながら基礎知識用の資料から手に取る。


 結晶で椅子を生成し、そこに足を組む様に座りながら資料を広げる。


「さーて、どんなもんかな」


 内容を全部読み込もうとすると相当時間がかかるだろうから、まずは軽く流し読みで済ませる。まずはマフィアの名前はギュスターヴ・ファミリーと呼ばれるらしく、その所属は現在エスデルを根城にしている大商人ギュスターヴがファミリーのボスとなっているらしい。表の顔は大商人として貴族や生活に取り入り、その裏では少しずつ影響力を国内に広げている、という事。


「ギュスターヴ……聞いたことのある名前だな」


 確か辺境の方でも支店が開かれる話があった気がする。その後の話がどうなったかは覚えていない……というか知らないが、少なくとも中央を根城に、そして辺境にまで支店を出せる大商会の主なのだろう。その説明だけで相当めんどくさい奴があのスラム街に関わっているんだな、というのが解ってしまった。


「金とコネがある人間がなんであんなもんをねぇ……」


 ぺらり、と頁をめくる。


 ギュスターヴの目的は不明。しかし大貴族数名と繋がりがある事が確認されている。本人がスラム街に訪れた形跡はなし。だがボスと呼ばれる存在を非常に恐れている姿は確認されている。或いはギュスターヴ商会のトップとは別に黒幕がいるのかもしれないが……その調査結果はまた別の報告書で語られる様だ。


「ふむ」


 マフィアの目的は不明だが、勢力拡大と資金の確保に関しては非常に勤勉と言える姿勢を見せている。エスデルのアンダーグラウンド組織における最大派閥とも言える。それでも解体されないのは明確にギュスターヴ商会が黒であるという証拠を掴めない、掴ませないからだと言われている。もし本当に黒であれば国によって殲滅されている所だろう。だがそれが成されていないのが答えだ。


「うーん……? 良く解らんな。とりあえず読み進めるか」


 エメロード周辺のスラム街は元々はスラム街ではなかった。エメロードには度重なる拡張計画が存在し、現在スラム街として展開している場所はそもそも整備区画として次回の拡張時に取り込む計画があった場所でもある。その土地を高値で抑えられた結果が今のスラム街の始まりだと言われている。


「つまり土地の売買に絡める人間が関わっている、と」


 そういう話となるとやはり、領主クラスかなぁ。あまり考えたくないけどここら近辺の土地を抑えている領主とマフィアがグルだった場合、あのスラム問題はもはやどうしようもない領域にある。俺が出来る事と言えばスラム側からの干渉に対して警戒する事だろうか? いや、もっと上の地位の人間がいる所で態々うちのお姫様を狙う様な理由はないだろう。狙うとしたら公爵令嬢や第5王子とかいう大物の方が……あぁ、いや、獲物が大きすぎると報復が怖いか。


「そんで土地が売却されてから拡張計画が白紙化、と。城壁周りの購入された土地に店舗や住居は出来ても拡張計画がなくなったから土地の利益を受けられなくなり次第に荒廃、スラム化が進んだっと」


 となると都市の拡張計画を握っている人物と、周辺の土地を握っている人物は別の人物という訳だ。そして恐らく派閥として敵対しているのだろう。エメロードに対する影響力が欲しくて土地を抑えたが、それに対抗するように拡張を拒否されてエメロードの一部として取り込まれる事を阻止された。その結果邪魔になった土地と建造物だけが残されてスラム化したと。政治闘争の気配をひしひしと感じる。


「この後に続くのは基本構成員や犯罪の記録か……まあ、それはいいな」


 正直犯罪の記録を見たところでしょうがないだろうし、そこは俺の調査する所ではない。クスリとかの犯罪は基本的に俺が気を張っておけばどうとでもなる問題だし、最悪使ったとしてもここには便利な浄化の魔力とか言うもんがある。体に悪いもんは消し飛ばせば全て解決するのだ。だからここは良い。それよりも重要なのは誰がこのマフィアとバチバチにやり合っているのか、そして誰がここら一体の領主であるかという話だ。そこら辺の話は政治から離れている俺としては完全に考慮の外というか、意識していなかったところの話だ。


 だからマフィアの調査記録を一旦置き、今度はここエメロードの周辺の事を調べる事にする。此方も当然のように資料が作成されており、手に取りやすく置いてあった。そもそもここらの領主なんて基本知識中の基本知識だろうし、調べようと思えばそう難しい事ではないだろう。そう思って調べれば、あっさりとこの周辺地域の領主の名を発見する。


 フランヴェイユ公爵だ。


「―――ん? 聞いたことがある名前だな、これ……」


 聞いたことがあるというかモロ知っている人物というか、シェリルの家名がフランヴェイユじゃなかったか? あの第5王子と婚約を結んでいる人物、その両親がここら一帯の領主だが……この都市、エメロードだけは管理人が違っている。そしてそれも調べれば簡単に解る。別に隠されているような事でもないのだから。


 都市の管理人、管理者、市長―――その名はワイズマン。エメロード学園の学園長にして、この都市の管理者は同じ人物だった。ただ、まあ、考えてみれば学園の一番偉い人物がこの都市を開いたんだから同じように都市の計画を構築したのも彼なのだろう。そう考えたらまあ、違和感はないだろう。それはそれとして、ワイズマンとフランヴェイユの名前が出た所で頭の上にはてなが浮かんでくる。


 確かアルド第5王子はシェリル・フランヴェイユと婚約していて―――そしてアルド王子の後援者はワイズマンだった気がする。少なくともそうじゃなきゃ助けの手を出したりしないだろう。だがそうやってアルドとワイズマンの関係性を考えると、マフィアを拒んだ側とマフィアを支援している側、その支援先と子供が政略結婚を結んでいるという形なのか?


「……うわあ」


 この関係性を知っている人間がいるとしたら滅茶苦茶悲鳴を上げてそう。というか俺も今、相当めんどくさい関係に気づいてしまった。本能的というか直感的判断だったが、アルド王子の勧誘を蹴って正解だったと思う。この関係に正気のまま割り込むというのは俺にはちょっと無理だ。政治にしろ、策謀にしろ、元が一般成人男性だった俺にとっては違う世界すぎる。グランヴィル家の政治とは関わらずにやっていくぞスタイルもこれは解っちゃう。


 誘ってくる裏で何を考えてるかアイツらマジでわかんねーもん!


 こえーわ!!


 決めた! グランヴィル家の末代まで俺辺境で過ごすわ! リアとリアの子孫の面倒を見つつ滅んだら適当に庶民として暮らすわ! 絶対にこんな栄光とか名誉とか考えているめんどくさい種族と一緒になりたくねーんだわ! ロゼは頑張って! 仕事の分は頑張るから!


「……はあ、これ以上は読む気が失せたな」


 マフィアも学園の事情も、王族の事情も、貴族の事情も。どれも俺には関係のない話だとバッサリ斬り捨てる事にした。真面目な話、俺はリアとロゼの護衛に来ているからそれ以外の事は考えなくて良いのだ。単純に目の前で何かが起こっているから興味を持って突っ込んでしまっただけで、そこから下がれば関わらずに済む。


 そしてそれがたぶん、一番正しいんだろうなあ……というのを今、実感した。


 俺は特に主人公でもなければ、英雄でもないんだ。パブリック・エネミーではあるがそれがバレている訳でもない。ワイズマンが俺の正体を知っていてアクションを起こしているのであれば、既にドラゴンハンターか未だに俺の中で輝く人類最強ランキング1位の龍殺しさん辺りが来ているだろうと思う。それがないって事は俺に対する悪感情はないのか、或いはまだ疑っているのか、それとも別の考えがあるのか。


 まあ、何にせよ関わらない事が一番だ。こんなめんどくさい生き物とは永劫関わっていたくはないのだから。そうと決まればこんな埃臭い場所にいる理由ももうないだろう。読んでいた資料を丁寧に棚に戻し、先人たちの苦労に軽く感謝してから資料室を出た。階段を上がってギルドの受付前にまで戻ってくると、エミリーが軽く手を振ってくる。


「エデンさん、資料室はどうでした?」


「情報の積み重ね、ちゃんとやってきてここの支部の人たちすごい偉いなあ、って思えたよ。それはそれとして絶対にここで仕事したくないなあ、って」


「そうですよね。そうなりますよね。それでもエデンさんみたいな有能な方が来るの、待っていますから……!」


 やだよぉ。マフィアとか関わりたくないよぉ。そんな気持ちを笑顔に込めて手を振ってギルドを出る。


 良し! この問題全部忘れよう!


 多分それが一番だ。

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