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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
3章 王国学園・1年生編
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学園へ Ⅲ

 数日かけて役所での手続きを終わらせれば、次に待っているのは学園での入学受付だ。既に手紙を通しての入学の確認は行われているが、それとは別に本人のサインなども必要だ―――ここら辺の面倒さはどうしても日本を思い出してしまう。とはいえ折角ここまで来たのに蹴り出されたくないのは事実だ。その為役所での仕事を終わらせた所で、俺とリアとロゼで学園へと向かう事になった。


 我らの邸宅の前、門まで見送りに来たクレアの横に並んでいるのは数匹の犬だ。


「そんじゃお前ら、クレアの事ちゃんと手伝うんだぞ? ちゃんと帰った時にちゃんと手伝ってたのが分かれば後で遊んでやるからな」


「わふっ!」


「知らないうちになんか飼いならしたわね、エデン」


 ロゼの言葉にサムズアップを送る。そこら辺で暇そうな犬を見つけたら軽く話しかけて仲良くなっただけだ。辺境の自然界では猛威を振るったこの動物に好かれる体質、どうやら都会でも一切の問題なく効力を発揮するらしい。そのせいで散歩しているだけで犬やら猫やらが街中に出てくるのだ。お蔭でこのように動物の労働力を我が家は手にする事が出来た。クレアはやる気満々の犬共を見て、


「本当に大丈夫ですか? ちゃんと働きますか……?」


「大丈夫、大丈夫。基本的に野生もそうでない動物も全部俺のいう事を聞いてくれるしな。クレアは気にせず働いたり指示を出すと良いよ。こいつら働かせる分には金はあまりかからないし。今度、鳥を見つけたらガーデニング仕込んでやろうかな……」


「あまり都会の中に魔境を作らないでね? 異次元ルール展開するのはグランヴィル家だけにしておいて」


 失礼な。ロック鳥が裏庭で繁殖していて熊がガーデニングしているだけの普通の貴族だぞ。やっぱ普通って言うのはちょっと無理だわこれ。俺も便利だから調子に乗って色々と仕込んでやったけど他所では絶対にやってなさそうだなこんな事……まあ、便利だし別に良いか! そんな気持ちで邸宅を出る。ふんわりとしたリアのコーデに対してシャープな印象を受けるロゼのコーデ、対照的な2人に対して俺はどっちかと言うと男性的な格好をする。


 そんな三人で住宅街から商業区へと歩道を歩いて進んで行く。


 学校のシーズン開始が近い影響もあって、人通りはそこそこ多い。昔は良く見た日本の歩道程ではないが、それでも今も馬車などが通りを進んでいき、忙しそうに走る姿や、制服姿の学生が学園へと向かっている姿を見ると、辺境からまた別の異世界に迷い込んだような気分になる。


「しかし本当に人通りが多いわね」


「ま、都会と田舎の違いだな。人の集まる理由のある環境と、人の集まる理由の薄い地域の差かな。サンクデル様も結構頑張っている方だけど、やっぱり目玉となる要素がないと人は集まりづらいというか」


「やっぱりそこなのよね……将来的にはウチの領地にもウチでしかできない事業や目玉が欲しいのよね。発展させるなら間違いなく何らかの産業に手を出す必要があるんだろうけどねぇ……」


「ロゼは難しい事を考えるなあ。私は未来の事とかあんまり考えられないかなあ」


「ま、リアはそうだろうな」


「リアは恵まれてるからねえ」


「かなあ? お父様も、お母様も、好きな事やって良いんだよって言ってくれるんだけどねー。そう言われるとじゃあ何がしたいんだろってなってくるんだよね」


 良くある話だと思う。特に普通の学生とか、エスカレーター式に学校に通う子とかにはある話だと思う。半端に才能があってやれることが多いとなるもんでもある。やれることがあるけど本気になる訳でもない。選択肢が多いだけに目的を絞る事が出来ない。貴族には色々と義務が付属しているが、リアはそのほとんどを排除されている。必要なのは将来的にお金を稼ぐ事ぐらいだろうか? まあ、俺が養っても全然問題ないけど、それはそれでリア本人の為にもならない。結局のところ、何が出来て何がしたいかはリア本人が決めなくちゃならないのだ。


「学園生活で見つかると良いな?」


「うん」


 はにかみながら微笑むリアの様子を見て、俺も軽く微笑み返す。街も治安が良いからそこまで警戒しながら歩く必要もない。一部、貴族が従者や護衛を連れて歩く姿を見るが連中もそこまで周囲を警戒しているような様子は見せず、全体的に雰囲気は和やかだ。それだけに、やはり都市の外に広がっているスラム街の姿に違和感を覚える。やはり、今度自由な時間に外を調べてくる必要があるんじゃないかなあ、と思う。


 ともあれ、今は他にやる事がある。


 リアとロゼを伴い、商業区を抜けて中央道から真っすぐ、学園へと続く道を進む。都市の中心点、広大な土地に囲まれるように存在する学園はもうそれ自体が1つの街だと言いたくなるような建造物の大きさと多さを見せている。学園と言う街を、学園都市が包んでいる……ここ、エメロードとはそういう形状の都市なのだ。


 ここまで構築するのに馬鹿みたいに時間と金がかかったんだろうな、というのは歩いているだけで解ってしまう。


「うーん、ソコソコ歩くな。馬車で来た方が良かったか?」


「自分の脚を使わないと筋肉が衰えちゃうわよ」


「私、歩くの嫌いじゃないし」


「我らのお姫様方はなんとも逞しい事で」


 俺達が学園へと向かっている間にも馬や馬車が学園へと向かって走って行く姿が見える。そんな姿をゆっくりと歩きながら眺めつつも、俺達はついにそこへと到着した。


 エメロード学園へと。


 エスデル最大最高の学園、それこそ王侯貴族さえも通うほどの格式のある学園だ。よくあるコネクションを得るための場所ではなく、知識を求め、正しい成長を目指す若人の為の学園―――と、表向きには言われている。だがさて、その言葉が一体どこまで真実なのかはまだ、調べていないので判りもしない。リアとロゼの警護の事も考えるとやっぱりどっかで自由行動がいるだろう。


 近いうちに夜の酒場へと顔を出したほうがいいかもしれない。


 ウィローから紹介状も持たされているし、こっちのギルドに顔を出すのも良いかもしれない。


 何にせよ、新しい場所に来たら地理と現地のホットニュースを調べるのが基本だ。ここ数日は役所仕事で忙しかったり、或いは荷ほどきや部屋の整理。リアやロゼがベッドをあっちに、タンスはあっちにとか色々と煩いったらありゃしない。まあ、ハウジングはハマると永劫に抜け出せない沼だというのは良く解るが。


 何にせよ、どっかで色々と調べよう。その必要はある。


 そう思いながら道はやがて学園の敷地までやってくる。エントランスから続く広大な敷地、複数の学舎、それは今まで知っているこの世界のどの景色とも違う、学園と言う特殊な場所の姿だった。エントランスから三人揃ってその広大な姿を眺め、感嘆の声を漏らす。日本の学校や大学の様子は通っていたから知っている。大きな大学はそれこそ複数の校舎が存在し、その敷地を結構歩いたりして移動してたのだが……目の前に広がるエメロード学園の姿は、記憶にあるどの学園や大学よりも大きかった。


「お、おぉ……凄いわね。遠目に見て大きいわねぇ、と思ってたけど近づくとなおさら凄く感じるわね」


「うん……本当に校舎全部使ってるのかな? とか考えちゃった」


「学費は結構お高めだけどそれでも毎年入学希望は後を絶たないらしいぜ。学歴がどの国でも通じるステータスである事実に変わりはないからな。後一部校舎に見える奴は寮かなあ」


 此方へと来る前に、入学に関する書類等と一緒に届いたパンフレットを取り出して3人で囲んで確認する。上から見下ろした図が乗っているパンフレットには学園のおおざっぱな姿が描かれている。その中にどこに事務所があるのか書かれているのが割と助かる。だけどそれ以外に実験棟、運動棟、湖なんて物まで存在するんだから相当金がかかっている。しかも学園の施設はこの場に限らない。


 街を出てしばらく移動した所には実習用のモンスターを住まわせている森なんてものまである。人工的に再現された魔境の類は将来の騎士希望が腕を磨くための施設でもあるらしい他、自然環境でしか栽培出来ない素材や触媒を確保、保護する為でもあるとか。


 ふぁ、ファンタジー学園ー! って感じは滅茶苦茶してる。俺はこれに結構目を輝かせている。


 まあ、俺は護衛に来ているんであって入学はしないんだが。ちょっと残念。


 時折此方へと向けられる視線は温かみのあるもので、基本的に新入生を歓迎する様なほんわかした空気があるようだ。思ったほどガチガチの空気じゃなくてちょっと安心した。パンフレットの内容を確認するに、まず最初には受付まで行かないといけないらしい。その受付があるのが……どうやら中央正面の棟らしい。そこまでは迷う様な事もないので、真っすぐに広い敷地を跨ぐ様に中央棟へと向かう。


「しっかし本当に広いわね……流石に迷子になりそうな感じよね、この広さは」


「うん、全部覚えるまではちょっと時間がかかりそう」


「まあ、そこはしゃーないな。移動の時間に多少の余裕を取っておく事ぐらいしか対策はないだろうしな。それでも家を離れて暮らす学生としての生活ってのは一生に一度の経験だし、精一杯楽しんでおくべきだわ」


 その言葉にリアが此方へと視線を向けて、ジト目で俺を見てくる。


「なんか、エデンって時折経験したことがあるように色々言うよね」


「実はル=モイラ様に二度目の人生を与えられた特別な人間でね。俺には前世があるんだ。そこでは雲を突き抜ける高い塔が乱立しててだな」


「はいはい、与太はそこまでよ。もうつくわよ」


 先へと進むリアとロゼの背中姿を眺め、コミカルに息を吐く。軽くネタっぽく言ってみたが、まあ、前世や転生なんてほとんど信じられるような内容じゃないよな。なんとなくでこれまで前世の事を隠してきたが、良く考えてみると特に隠しておく様な事でもないのかもしれない。少なくともソフィーヤは俺が転生している事を把握しているし、なんなら冥府の神が実在するこの世界では俺の転生に冥府の神が絡んでいる可能性すらあるのだ。


 中央棟の中に入ると直ぐ入口近くの受付へと向かい、リアたちが案内を受けている。それを少し離れて眺めながらふと、考える。


 ―――もしかして、地球も異世界として存在してる?


 ふとそんな事を考えた。転生、死の川、命と転生を管理する神。人の命と理を見守る女神。異世界からの接触、魔界という世界の壁を超える存在。本当にちょっとしたことだが、これを組み合わせて考えてみるとまあ、地球も異世界として存在出来ているのかもしれない……なんて事を考える事が出来る。


 たとえば死後の世界は異世界で共通だったり、或いは繋がってたりして。


「流石に妄想のし過ぎか」


「エデーン! 選択授業色々とあるよー。どれが良いか解らない!!」


「事前に決めておけって話はしただろ……」


「だってどれが良いか解らないんだもん」


「もん、じゃねぇよ。もん、じゃ……ロゼは既に決めてあるんだろ?」


 頭を掻きながら受付に近づくと勿論、とロゼは胸を張りながら答える。



「政治、経済は領主を志すのなら必須だからまずはそれね。それとは別に基本教養が必修ね。学問をメインに進めるなら後は歴史とか割とお勧めなんだけどね……?」


「歴史は多分寝ちゃうかなあ」


「俺が代わりに覚えるべき所全部覚えてやったからな」


「私が言うのもアレだけどそれで本当に良く特待枠取れたわね……」


 リアに必死に勉強を教えていた時期を思い出し、俺もロゼも目頭を押さえる。滅茶苦茶大変だったし、卒業までは今の教育水準をキープしなくちゃならないので別になんも楽になってないんだよな。まあ、リアは流石エドワードの血を引いているだけあってかなり頭が良い、というか覚えた事を絶対に忘れないタイプの娘なので忘れる事は心配していない。それよりも覚えさせるためのモチベーションを維持する方が難しいタイプだ。


 言ってしまえば勉強が嫌いなんじゃなくて、単純に興味がないタイプだ。


 だから俺とロゼが勉強を教える上で一番重視したのはリアのモチベーションを維持する方法であり、勉強を楽しくさせる為の工夫だった。俺自身も日本で入学のために勉強を必死に頑張った記憶があるのでまあ、リアの気持ちは良く解る。とはいえ、ここで調子落として怠けたらキレ……いや、勉強って結局は個人の未来への投資だしなあ。


 勉強にやる気がないって事は結局未来はどうでも良いって事だし……。


 まあ、そこら辺リアがやる気出す様になったから元からあるポテンシャルが発揮されて、と言うのが今回の結果だ。今ではあの苦労も懐かしいものだ。


「ま、単位さえ取れるなら結局はどの授業を選択しても良いんだ。最初の1か月は授業の見学も許可しているみたいだし。興味のある奴を選んで、替えたくなったら事務で変更手続きを取れば良いだろ」


 ここら辺のシステム、中学や高校よりは大学寄りのシステムだよなあ、なんて花を咲かす様な雰囲気であーでもないこーでもないと言い合う2人を見た。


 学園生活、俺のそれはもうずっと前に終わってしまったものだが、その記憶は一生のものだ。


 彼女達にも一生続く楽しい思い出が増えれば良い事だ。

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