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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
2章 青年期学費金策編
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エピローグ

「―――それでは今回の件、君の率直な感想を聞かせて貰おうか」


「いや、もう、静かに感動しましたわ。見ていて泣きましたね」


 薄暗さが満たす空間の中、テーブルに頬杖を突く男が、狂人に問いかけた。それに狂人は拳を握りながら力説するように答える。その胸中に満ちた感情はまさに感動の一言に尽きた、と。そのまま両手を広げ、楽しくその時の事を語り出す。


「いやいやいや、もう美しいのなんの。見ていてほんと見惚れるってああいうことを言うんすね! 見ているだけでもう見入っちゃって、見入っちゃって……あぁ、だからこそちょっと後悔したんすよ。人狼、マジで失敗作だったなあ、って……」


 はあ、と溜息を吐きながら狂人が頭を抱える。


「だってマジ失敗作っすよ。制御不能だし、勝手に変な思想を構築するし。やっぱ人間ベースって思考が変な方向へとねじれるから嫌なんですよねー。いや、でも、まあ、アレだけの強さを発揮できたのはやっぱり元の素材が良かった所為なんすよね。結局屑素材を採用した所で完成品も屑でしかないんですよ。“宝石”の資質があったからアレだけ良い感じの戦闘力が発揮できたわけで……あぁ、でもやっぱり美しくないなあ……群体型は」


「そうなのか?」


「そりゃあそうっすよ! だって考えてみてくださいよー! 群れるってつまり単一では欠陥があるからこそ、という事の証明っすよ陛下!? 完璧な生物は―――完璧なモンスターは単一で成立してるんすよ! 生殖も、繁殖も必要ない! 数を増やす必要もない! その存在が単体で完成されているから増える必要がそもそも存在しない! その完全で完璧なモンスターが俺の目指すべき理想、夢!」


 興奮した様子の狂人はテーブルを叩き、しかし拳を握りしめながら笑みを零す。


「でも彼女を―――彼女をちゃんと最初から最後まで見たら認めるしかない……」


 ゆっくりと拳を解き、両手を合わせ、祈る様な姿勢で狂人は告げた。


「《《彼女こそ理想のモンスターだ》》。あの姿は恋をするしかない。素敵だ。完璧だ。アレで未完成なんてずるいずるいずるいずるいずるい! ずる過ぎる! あぁ、美しく、感動的で、そして完成されている……!」


 狂人はエデンという存在そのものに恋をした。人狼のオーケストラに立ち向かう姿を、戦う姿を、あらゆる害と悪意を鱗で弾いて戦う姿を。彼は彼女をモンスターと表現した。だがあの戦い方を見て誰が狂人の言葉を否定出来るだろうか? 事実、エデンの生体、或いは肉体は人間よりもモンスターの方に構成が近い。故にエデンがモンスターと言えば確かにそうだと言えるだろう。


 ただしそれは神々が生み出した、至上にして至高の芸術品と言える傑作ではあるが。


 つまり、この狂人はエデンの構成を、構築を、その在り方を見て彼女が1つの芸術品である事を察した。その感性を通してその存在の全てに、恋と信仰、崇拝に近い感情を抱いていた。エデンは1つの完成品だ。しかもまだ成長を続け、未完成の大器だ。ここからまだ先がある。成長し続ける作品。その可能性、そして求めた夢と理想の形。それを変異モンスターを生み出す狂人は見てしまった。辿り着くべき場所を。それが故にエデンという存在そのものに感動していた。


 それだけに人狼のオーケストラという作品、その駄作っぷりに嫌気が差していた。エデンという存在の完成度と比べれば塵の様なものだった。創作家としての感性を刺激されながらも、エデンを生み出した存在に対するライバル心を新たにする狂人は既に溢れる様なアイデアが脳内に満ちていた。だがそれを超えるのは彼女に対する恋心だった。圧倒的なアートピース、心を揺らし、震わせる物に対して出会った芸術家のそれを今、狂人は人生で初めて抱いていた。


 そしてそれは制作者への一種の敬意にもなっていた。


「あぁ、彼女こそ俺の女神っすよ! 女神! まさしく地上の女神だ……他の連中は絶対に解らない。あの芸術的なまでの美しさを……おぉ、この世にその素晴らしさを知らしめたい……! だけど、だけど……」


「だけど?」


「俺、推しには自由に生きていて欲しいんすよねえ」


 狂人は作品の自主性を認めていた。ワータイガーも、バジリスクも、マントラップも全ての変異モンスターは狂人の作品でありながら完全に彼がコントロールを手放した産物でもあった。そもそもモンスターに制御なんてものは必要がないと思っているのが彼の思想だった。全ての存在はあるべき姿のままが良い。モンスター達はモンスターとして自由に生きるべきでもある、と。その結果が辺境に放逐された変異モンスター達であり、そしてそれによる被害だ。


 究極的に狂人は完成品に対して興味はなかった。


 これまでは。ここまで激しく後悔した事はなかった。せめて、あの美しい破壊者に……モンスターとぶつかると解るのであれば、もっと手の込んだ改良を施していた。もっとちゃんとした傑作として仕上げていただろう。いや、だがあの美しい怪物が人狼とぶつかったからこそ見れたものだったんだ、と狂人は無理矢理自分を納得させる事にした。それでも人狼と怪物を比べ、狂人はへこんだ。


「あーあーあーあー……ほんとしくったなあ……即興で新作なんて作るんじゃなかったぁ……テンションとその場の思い付きで新しく始めるから失敗するんだ……マジでいつもこのループなんだよなあ。はあ……あ、すいません陛下」


「気にはしていない。何よりも今の発言には納得するものがあるからな」


 狂人に対面する男は苦笑を零しながらも、狂人に聞く。


「―――それでだ、ヴァーシー」


「うっす、なんでしょか陛下」


 男は狂人の名を呼び、その注意を引いた。その上で数秒程間を開け、


「もしも、だ」


「うす」


「―――彼女を本当の女神に押し上げる事が出来るのなら、やる気はあるか?」


 男の言葉に狂人ヴァーシーはテーブルを叩いて立ち上がった。


「やります! 超やりますわ! メッチャやりますわ! 超やりたい! いくら出せば良いんすか!? ここが推しを推せる場所!? マジで!?」


 男はまあ、落ち着けと手を動かし、ヴァーシーを座らせた。それで数秒程深呼吸をしてからヴァーシーは考える様に首を捻り、男へと言葉を返した。


「もしかして彼女を次の管理者にしちゃう予定なんすか?」


「違うな、現状地上で一番その座に近く、正当な継承者は彼女のみだ。魔界はもう終わりが近い事、解っているだろう?」


 ヴァーシーは理解している、これは魔族や一部の高位の者にしか知られていない事実ではあるが、魔界はもう寿命が近い。もう数百年もすれば魔界という世界そのものが消滅する。それ故に魔族も、魔王も、全ては新天地を目指して徐々に存在を、概念を、そして世界をすり合わせて侵食している。ギャグにしか見えない魔族たちの行動も結局のところは神々が用意したフィルターに対して適応し、緩和させ、馴染むための準備だ。既に魔族とその文化の流入は世界に進んでいる。


 後は決壊の点を超えるだけ―――それを知った所で特にヴァーシーは興味を持っていなかった。彼の興味は全て、最強のモンスターを生み出す事。その一点にのみ集中していた。だが始めてここで、これまでの知識が意味を持ってくる。魔界は滅びの淵にあり、魔族の流入は実質的な侵略行為だ。この世界は現在大神が大地となっている為に管理者が不在の状態で、神々がその代理として働いている。


 だが神々でさえ黄昏時を迎える。


 魔界の神々がそうであるように。


 その時、天が完全に空白となった時、新たな管理者が必要となる。その座を魔族や魔王が握れば世界は実質的な第二の魔界となるだろう。だがこの男は、


 ―――ルシファーは、その座にエデンを就けようとヴァーシーに誘いかけていた。


「彼女を天の座に据える為の準備がいる。ギュスターヴを騙しながらやれるな?」


「勿論っすよ! あの女神を本物の女神にするんすよね!? やりますやります! 俺の手で彼女をもっと完璧な存在にしたいっすわ! あぁ、その時はきっと、本当に至高が人の手から生まれる瞬間が見れるかもしれない……!」


 ヴァーシーの言葉にルシファーは頷く。その胸中は語られず、世界は悲劇の裏で着々と進んで行く。物語に主人公が欠けていても、タイマーを止める存在が世にはいない。故に安寧と悲劇の裏で事態は進んで行く。


 まだ、世界の摩擦が見えてくる前の段階。


 各勢力が己の目的の為に世界の行く末を考えている中で、


 ここでもまた、物事は進められてゆく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女神エデンちゃん!? よさそう! [一言] 平和に世界侵略を進めてる魔族さんたち。
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