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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
1章 王国幼少期編
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グランヴィル家の日常 Ⅲ

 金髪をハイポニーで纏める女性が刀を構えた。


「えいっ」


 そう言ってエリシアは鞘から一瞬で刃を抜刀、目にもとまらぬ速さで木人をすり抜けながら背後に姿を見せた。その瞬間には縦に構えた刃を納刀していた。完全な残心と共に木人はエリシアの背後で真っ二つになった。


「どうかしら、私も前線から離れてそれなり、って感じだけどまだまだ現役だと思うのよねー」


「……うっす」


 庭の一角に転がるエドワードの姿を見て、絶対にこの人だけは怒らせないようにしよう、と誓った瞬間でもあった。


 今日は先日に続き護衛術講義の日。動きやすいシャツに短パンという格好で中庭に来るとどうやら今日は何を教えるかで争った夫婦の残骸だけが残されていた。居合縮地みたいな感じの芸当が出来る辺り、夫婦喧嘩が始まっても一瞬で終るんだろうなあ……なんて真実を転がっているエドワードを見て確信してしまった。このグランヴィル家でのヒエラルキートップは間違いなくエリシアだった。絶対に逆らってはならない。


 まあ、それはそれとしてグローリア用護衛術の為に中庭に出てみれば本日は武芸の方を学ぶこととなったようだった。エドワードは魔法の才能があるといって魔法を教える事に物凄い意欲的だったが、どうやら意欲的なのはエリシアもそうだったらしい。なので刀をアンに渡す所を見ながら首を傾げる。


「旦那様、奥方様、意欲的?」


「えぇ、そうね。私達政治とか策謀とか関わるのが面倒だからねー。そういうのから離れて暮らそうとなるとこういう辺境での暮らしになってしまうのよね。お蔭で政治とかに関わる事はもうほぼないんだけど……リアが中央に一度は通う必要があるでしょ? 政治から切り離したと言ってもそれは私たちの都合で、一度はリアに中央を見て進む道を決めて欲しいのよね」


 だけどまあ、とエリシアは言葉を置く。


「リアには私やエドの様な術を持たずに済むような人生を送って欲しいけど、持っているとそれはそれで持て余すのよね。だから素質があって余さず教えられそうな子が来るのはちょっと私としてもわくわくする事なのよね。勿論、リアにも教えられる事は教えたいけど……ね?」


 頷く。


「リア、大事。傷ついて欲しくない、解る。修行、辛い。勉強よりも、辛いから。無理強い、させたくない。俺も、リア好き。だから、良く解る」


「本当に良い子ね、エデンちゃんは」


 頭を笑顔で撫でられる。


「あの子が自分から教えて欲しい、興味があるって言いだしたら教えるつもりではいるんだけど駄目ね、結局私の技は人を効率的に殺す為の物だから教えたくない部分もあるのよね」


 そこは俺にどーんと来い、と胸を叩く。俺の目標はあの龍殺し達に襲われても無傷で殴り返せるぐらいの実力を付ける事だ。今の所、その目標は遥か遠い先にあるように思えるのだ。だからどんなものであれ、素人である俺は色々と教わりたいと思う。それになんだかんだで色々と新しい事を学ぶのは楽しいのだ。という訳で人生初であり、龍生初の戦闘の授業が始まる。


 アンがエドワードを撤去する中で、エリシアが俺の背丈ほどある剣を手渡してくる。


「はい、これちょっと持ってみて。片手で持ち上げられるかしら?」


「よゆー」


 ロングソード? バスタードソード? 結構大きくて重い剣なのだろうが、幼龍スペックでは余裕で持ち上げられる範囲だ。片手で柄を握ると持ち上げられる事をアピールする。それを見たエリシアが頷いた。


「やっぱり身体能力は既に鍛えられた男性並みの物を持っているみたいね。まだ成長期に入る前の段階でこれって考えると少し重めの鍛錬を課しても直ぐに順応しそうな気もするのよねー」


「パワー、ストレングス、マッスル!」


「どこでそんな言葉を覚えたのかしら……」


 だが割と余裕で剣をぶんぶん振るう事は出来る。そして振るっていて特に疲れるという事もない……感じはする。少なくとも今片腕でこのバスタードソードを振るっていて素振り10回を超えているが、疲れというものを感じてはいない。それを見ていてエリシアがうーん、と唸る。


「本当に謎のスペックね……本当にどの種族なのかしら? 種族としての特徴がもっとはっきりすれば体に合わせたプランも作れるんだけど。まあ、それは良いわね。とりあえずこれは返して貰って……こっちはどうかしら?」


 バスタードソードよりも大きくて長い、ハルバードを手渡しされた。確かに前よりも重く感じるが、これも片手でぎりぎり持ち上げられる範囲だ。振るう事もちょっと辛くなったが問題はない。それを見てエリシアがうーんと唸る。


「これも出来る、と。バトルアクス辺りはちょっと辛そうだから今はパスするとして……そうね、この感じなら重量級の武器を使わせるのが一番かしら?」


「……?」


「うーん、そうね、解りづらいわよね。簡単に言ってしまうと、エデンちゃんは身体能力が物凄く高いわ。そして成長する前の段階でこうなのだから、育てばもっと凄まじいスペックの身体能力を発揮出来るという話よ。それだけのフィジカルギフテッドなら、下手に細かい技を教える事よりも、戦い方の技量を叩き込んで強さを押し出す方が強いって話よ」


「成程ー」


 まあ、そういう専門分野の話をされると俺は何も言えなくなるので困る。実際プロフェッショナルの意見がそうなのならそうなのだろう。だから、とエリシアはバスタードソードを再び渡してくる。それを握らせると彼女の指導が始まった。


「剣の正しい握り方を知ってる? うん、そうそう、両手でちょっと間を空けて握るのよ。体が剣を振りやすいようにデザインされている型だけど基本中の基本なのよね。個人の体格や体質、癖に合わせてこれは調整できるし……私的にはエデンが大剣とかの重量武器を片手で振るうイメージが出来上がってるのよねー」


「かっこいい」


「そうね、かっこいいわね。そういう感想や感情は上達する上では凄く重要よ」


 大剣を片手で振るって戦う自分をイメージすると、結構興奮してくる。だって大剣だぜ? 日本でそんなもん使う機会全くないじゃん! いや、存在していたら逆に怖いんだけど。秋葉原にある武器屋を学生時代に覗いてきゃーきゃーわーわー言ってたのが滅茶苦茶懐かしい。でも今、自分の手の中にあるのは本物の武器で、これで他の生き物を殺傷出来ると思うと随分と凄いもんを握ってるんだな、と思わせられる。


「それじゃ軽く素振りを始めるわよー。まず全ての鍛錬は素振りから始まるしね。動きをそこから少しずつ修正して、エデンちゃんの体に合った動きを構築するの。まあ、最初は難しい事を抜きにして素振りだけを始めましょうか」


「うっす」


 難しい話は座学の時に、と話を切り上げてバスタードソードを振るう。ずしり、と来る重みはまだ体力的にも余裕を感じさせるものがある。本当にこの体は凄いなあ、と思いながら剣を振るう。






 それから数時間後、俺は庭に倒れていた。素振りで疲れた。ずっと素振りを続けていると流石に疲れてくるが、休みもなくノンストップでやらされると腕から段々と感覚がなくなり、最後は余裕もなくなる。終わりを言い渡されると流石にもう無理だ、と庭に転がるしか俺に出来る事はなかった。そして勉強を終わらせたグローリアも合流し、庭に転がる俺を椅子の代わりにして座っている。このお嬢様、もう完全に俺に慣れ切って容赦がなくなっている。


「エデンちゃんお疲れ様。これから毎日素振りをしてもらうからその気でいてね?」


「待って! 僕の講義も挟みたいんだけど!?」


「え、後回し」


「え」


「私もエデンと遊びたいからお父様は後回しね」


「僕の講義……」


 エドワード、相変わらず家の中での立場が弱い。とはいえ、こうやってグランヴィル一家が揃っているのを見るとちょっとほっこりしてしまう。少しだけ体力が回復してきたのを感じて乗っかっているグローリアを持ち上げる感覚で立ち上がると、そのまま我がお嬢様を肩車してしまう。頭上できゃー、と楽しそうな悲鳴を上げるグローリアが足を引っ掻けないように注意しつつ、両手で角を掴む。そこ、ちょっと敏感だからあんまり強く握らないで欲しいの。


 敏感という言い方は語弊があるかも。


 それ、頭蓋骨の一部なんやで? 強い衝撃を受けると脳にまで響いて目が回るからマジで気を付けて。この前、壁に角をぶつけたらマジで目が回って何も出来なくなってしまったから。角をドラゴンの武器と思うのマジで止めような。弱点だからな、これ! 頭蓋骨の一部だって事の意味をよく考えろよな!


 これ絶対生物のコンセプトとして間違えてるでしょ。


 まあ、それはともかくグローリアを肩車すると疲労感も良い感じなのでちょっとグラつくが、そこまで倒れそうな程ではない。そのスリルを楽しんでいる様にさえウチのお嬢様は感じられる。


「んっ」


 と、結構運動をして体が温まったのか、或いは運動でちょっと感覚が敏感になっているのか胸の擦れる感覚があった。それが思っていたよりもちょっと、痛いかもしれない。体を軽くよじって服に胸が当たらないようにするが、不快感がちょっと残るので、眉をひそめてしまう。それを見ていたエリシアがエドワードとの話し合いから離れ、首を傾げた。


「あら、エデンちゃん……大丈夫?」


「ちょっと、擦れ? 痛いかも」


「あー……そういう時期なのね。リアの方はまだ大丈夫だったから油断してたけどそうね、エデンちゃんの方が年上っぽいものね……」


「うーん、そっか。エデンもそういう歳なのか。リアのも含めて購入した方が良いんじゃないかな? 流石に作る事は出来ないし」


「それはそうだけど……男が口にするのはちょっとデリカシーがないわよ?」


「あー……」


 それもそうだなあ、と呟きながらエドワードが背を向けて頭を掻く。エドワードがくるりと背を向けて離れたところでエリシアがしゃがんでそのね、と言葉を置く。


「えーと……エデンちゃんの体も成長していてね、胸の所が大きくなっている所なの」


 ゆっさゆっさとエリシアが胸を揺らした。それを見て首を傾げた。


「胸が成長する時期って結構敏感になって痛くなる事があるの。だからブラを付けるんだけど……リアのがまだ先だと思ってて用意してなかったのよね」


「ブラ」


「そう、ブラジャー」


 脳裏に衝撃、走る。ブラジャー! この時代に実在したのか!?


 いや、服飾関係がかなり充実していたから存在する事自体はそうおかしくはないだろう。おかしくないのか?? いや、この際それはどうでもいいとしよう。問題はブラジャーという存在を俺が着用するという事だ。今まではまだ下着だけだから感覚的にはセーフだ。パンツを履くのは男と何も変わりはないだろう。だがブラジャーは違う。確実に女性だけが着用するものだ。それを俺が付ける必要がある?


 胸が成長するから? というか胸が成長すると胸が擦れて痛くなるのだって初耳だぞ。


 完全なる未知との遭遇に脳内は宇宙ネコ状態だった。いや、宇宙(スペース)ドラゴン状態だというべきだろう。俺のおっぱいが……成長する……?


 再び宇宙ドラゴン状態に突入する。


 いや、だって胸が成長するなんて経験流石に皆無だ。今はまだ平坦な子供の胸だ。男にも女にも違いはない。だけどこの胸が成長するの? マジで? 本当に女の子の身体になっていくんだな、という妙な実感と恐怖と期待感がごちゃ混ぜになって宇宙ドラゴン状態を継続してしまう。ただそれを見て違う事を思ったのか、エリシアはふふ、と笑った。


「大丈夫よ、これは誰もが通る道だから。リアもエデンちゃんも、きっと素敵な女性になれるわ」


「うぅぅ……」


 そういう問題じゃないんですよ、奥方様……。


 どうしようもない問題に唸ってしまう。これは女性という体に生まれてしまった以上、絶対に回避できない問題だ。ブラジャーの装着、そして体が女として成長するという事。このままだともしかして、生理だって俺に来るのかもしれない。既に風呂とトイレだけでもかなり四苦八苦しているのに、ここでそんなものが来てみろ、絶対脳味噌がパンクするに決まっているだろう。


「でもそうね、エデンちゃんの服も欲しいし……街の方に買い物に行こうかしら?」


「え! 行きたい行きたい!」


「ふふ、勿論皆で、よ。何時までもリアのお古を直して着せる訳にも行かないしねえ」


「あの、それは、とても申し訳なく……」


「良いのよ……私達が拾ってしまった以上、健やかに育てるのが私たちの義務よ。たとえ貴女をリアの従者として育てても、実の娘の様に私もエドも、愛情を込めるから」


「ぎゅー」


「ぎゅー!」


 エリシアとグローリアからぎゅーっとされて嬉しいのは嬉しいんだが、


 そうじゃない。


 そうじゃねぇんだよ。


 そう思う宇宙ドラゴンであった。

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