表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
2章 青年期学費金策編
52/127

硬貨の重み Ⅵ

 赤いバジリスクを背後に、足を青へと向かって一歩進めた。大剣を肩に担ぎ前に進めば青が後ろへと一歩下がる。その表情にあるのは明確な恐怖だ。捕食者と被捕食者の関係は明白だ。既に青いバジリスクは絶対に敵わない存在の前にいるという事を自覚させられている。ならどうだ? お前はどうなんだ? 相方は死んだぞ? ワータイガーは家族の為に死ぬまで戦う事を選んだぞ? あのタイタンバジリスクはお前が助けようとしたんだぞ? お前は―――どうするんだ?


 大剣を担いだまま青を睨み、そして視界を固定する。


「それがお前の選択か?」


 青は俺をしばし見てから背を向け、全力で逃げ出そうとした。だがその行動をとるには遅すぎる。既に最初の突進で魔力をたっぷりと顔面に叩き込んだ。だから追いかける必要もない。担いでいた大剣を持ち上げ、頭上に掲げたら振り降ろす。


「お前は悪夢に見る事はなさそうだなぁ」


 その動作だけでバジリスクの顔面が結晶に割れた。それ以上の追撃は必要ない。


 即死だ。大剣を振り抜いてから一度横に振るい、それから消し去る。そのままバジリスクの死骸に近づき、椅子代わりに座る。見るのは当然タイタンバジリスクと放狼の団の戦いの続きであり、集団戦の肝とでも言うべきものを見せて貰うつもりだったが、戦場の全体は静寂に満ちていた。視線が俺に集中し、瀕死だったタイタンバジリスクに関してはもはや生きる事を諦めたような気配さえある。圧倒しすぎたかもしれないとは感じる。だが結局のところ、ここで圧倒して殺さなければ死ぬのは他の連中だ。


 俺に選択肢はない。


 見捨てて、見過ごして、死ぬのを待つなんてのは絶対に出来ない。


 だからその結果、こうやって畏怖の視線を送られようとも仕方がない。


 ……まあ、ちょっとこういう視線を向けられるのは辛い所があるが。やはり強すぎるというのは結果として周りから人を遠ざけるものなのだろうと思う。そう考えながらタイタンバジリスクを眺めているが、件の巨体のバジリスクはもう、生きる事を完全に諦めてぐったりとしていた。抵抗する気配もなく、大人しくなったバジリスクを放狼の団が狩り始める。バジリスクが無抵抗で殺される姿はなんか可哀そうだけど見ていて面白い。


「まな板の鯉……だっけ? そんな感じのシチュだな」


 もう語る様な事はない。動かないバジリスクを一方的に殺害して戦闘は終了する。戦闘が終了した所で戦隊が休息に入り、所々力を抜いて座る様な姿を見せている。ただ俺が殺したバジリスクをどうするべきかを困った様子で遠目に眺めているのと、俺に対してどう声をかければ良いのか解らず右往左往している姿が見られる。その中で、クロムがロック鳥の足を掴みながら上から降下してきた。


「よ、流石上位種族だな。スペックが違いすぎて嫉妬すら起きないわ」


「まあ、経験が浅いから達人みたいのにぶつかるとまだまだなんだけどな。この程度なら鱗1つ傷つかないよ」


「これで、この程度かあ……というか、やっぱ石化とか通じないんだなエデンちゃん」


「はっはっは―――ボス耐性だからな!」


「お前の様なボスがいてたまるか」


 致死性デバフ持ちの防御無視必中攻撃全門耐性持ちボスはお嫌いですか? 俺ならコントローラ窓から投げ捨てる自信がある。デバフも状態異常も通じない上に即死攻撃を連打してくる超高速突進型要塞ボスとか絶対に戦いたくない生物の筆頭じゃん。これが種族単位でこの惑星に住み着いていたんだからまあ、そりゃあ人類からしたら絶滅させてやりたくもなるわな……。明らかに生物のスペックバランス調整出来てないんだわ。


 それとも神側の存在に近いからそれで良かったのか? どっちにしろ、事の真相は俺がソフィーヤにオラクルをしない限りは聞き出す事も出来ないが、俺はソフィーヤに問いただすつもりはない。だから真相は闇の中だし、そしてそのままでも良いだろう。真実というものは穏やかに暮らすつもりであれば別段、知る必要もない情報なのだから。


「それはそれとして……それ、持ち帰れるのか?」


「試してみる」


 クロムが指さすのは俺の椅子代わりになっている青バジリスクの死骸だ。立ち上がって横に退きつつディメンションバッグを開き、明らかに入り切らないサイズをしまう事が出来るかどうかを確かめる為に入口を直接バジリスクに被せてみたら、なんかバジリスクをバキュームの様に圧縮しながら吸い込んで中に収めてしまった。へえ、自分のサイズを超えるもんだとそういう風に仕舞えちゃうんだ。数年間使ってて初めて知ったわ。


「お、おぉ……やたら高性能なバッグ持ちだったんだな」


「これを手に入れる為にはエデン様の大冒険第1巻を語る必要があるんだが聞く覚悟はあるか?」


「脳が破壊されそうな話の気配するから止めておくわ」


「お前……!」


 俺の語り技能がそんなにないと言いたいのか! とクロムを問い詰めつつ赤いバジリスクの方もしまってしまおうと思えば、戦闘後の指示を出し終えたイルザが駆け足で此方へと向かってきた。そして俺の前に立ち次第、直ぐに頭を下げた。


「ありがとう、貴女のお蔭で多くの仲間の命が助かった。事前情報ではタイタンバジリスクしかいない筈だったんだが……まさか、こんな変種が2体も出現するとは思いもしなかったんだ。いや、これは言い訳でしかないな……本当にありがとう。お蔭で最小限の被害で獲物を狩る事が出来た」


「それに関しては俺も謝っておく。1週間前の調査じゃ間違いなくアイツ1体しかいなかった筈なんだがなぁ……」


 そう言ってクロムは頭を申し訳なさそうに掻いていた。だがクロムの話が本当なら、たった1週間で新たな変種バジリスクが2体出現したという話になる。それは明らかにおかしい。いくらエーテルの濃度が高い辺境という環境でも、こうも密集した地形の中で複数の変異モンスターが同時出現するのは何かがおかしいとしか言いようがない。そもそも変異という現象自体、変異の条件を整えたから一瞬で体が変化するという訳ではなく、ミューテーションとでも呼べる現象で成長と共に体が既存の種とは別の方向性に成長したという方が正しいのだ。


 つまり変異には時間経過が必要であり、早急に行える事ではない。明らかに1週間という時間では無理だし、元からいたにしては人間に攻撃的だったのにこれまで未発見だったことが意味不明すぎる。この赤と青のバジリスク、恐らくは新種か変異種なのだろうが、由来が何なのかが一切解らない不気味さを持っていた。


「なんか釈然としないな……不気味というか気持ち悪いというか。まあ、倒しちゃった今はもう関係がないかもしれないけど」


 とはいえ、初動が遅れたのが原因で数人死んでしまった。俺が返事を待たずに突っ込んで出現する所をぶち殺していればその犠牲もなかっただろう事を考えれば、その部分でもちょっと後悔が残る。流石に犠牲になった人間全員の責任は取れないが、それでも俺が動けばどうにかなっていた範囲で死人が出てしまうのはちょっと気が重い。とはいえ、俺の責任ではないのだ。そこまで重くとらえる必要はない。


「今回の件はギルドへの報告が必要そうだな……エデン、貴女はどうする?」


「取り分とかで揉めると思ったけどそういう事もなさそうだし、赤青を回収して先にギルド戻って報告かなぁ。目当ての賞金が手に入れられない分、こっちの素材でどれだけ稼げるか調べないといけないしな……」


 まあ、新種か変種だったらイイ感じの学費になってくれるだろう。というかなれよ。お前と次にブラッドマントラップがいい値段すれば40万いけるかもしれないのだ。40万という事は1年分の学費だぞ? つまり400万円相当だ。かなりゲロ重い値段だよなあ、と思う。ただ俺1人でやる分にはほぼノーリスクなので美味しい。


 俺が、やる分には。


 だがイルザは違う。本来であれば人員のロスもなく討伐できる筈だったタイタンバジリスク戦に乱入が発生したのが理由で数名の犠牲者が出てしまった。俺は無傷で賞金を総取りだが、放狼の団は見たところ、20人を超えるクランだ。それが賞金を山分けして獲得するのだ。犠牲者の出た分を補填する程の価値がこの仕事にはあったのだろうか?


 俺にはその判断が……ちょっと、難しい。口で言って良い事じゃないが、それだけの価値があるようには思えない。


「そうか……確かロック鳥に乗ってきたんだったな。なら帰りは送ってやろうかと思ったが助けは必要なさそうだな」


「その好意にはありがとう、だけど大丈夫って言っておくよ。それよりも忙しいのはソッチだろうしな?」


「まあ……そうだな。すまない。私は仕事に戻らせて貰う」


「ばいばーい……じゃ、俺も帰るわ」


「おー、じゃあまたな、エデン」


 クロムとイルザに手を振って見送りつつ、自分へと向けられるひときわ強い視線を感じる。視線の方へと顔を向ければ、其方には戦闘中に見た、団の副長らしき人物がいた。じっとりと、値踏みする様な視線が自分を貫くのを感じる。あまり心地の良い視線ではない為、さっさとこっちから視線を外して赤いバジリスクの回収へと向かう。それもバッグの中へと格納すれば終わる話なので、一瞬で仕事が終わってしまう。


 まあ、別段仕事が早く終わった所で問題は一切ないのだが。寧ろ早く終わらせられるだけ良い方か。ともあれ、やるべき事は終えたのだし、このままさっさとギルドへと戻って報告してしまおう。そう思ってロック鳥の首を撫でる。


「帰りも頼んだぞロッくん」


「くぇー」


 任せろと言っている様に感じる声をロック鳥は翼を広げてアピールする。その背に飛び乗り、ロック鳥へと飛び上がる許可を出す前に石切り場を眺める。それからロック鳥の首を軽くタップして指示を出した。


 もう、用はない。帰ろう。






 そしてバジリスクは処理され、石切り場に平穏が戻ってくる。放狼の団も事後処理を終えて引き上げた後石切り場、少し前まではバジリスクの縄張りとなっていた空間に黒い線が生まれる。それがぱっくりと空間を開く様に闇の扉へと変われば、その内側から黒づくめの姿が出現する。やれやれと言わんばかりの気配を醸し出しながら両手をあげ、お手上げのポーズをわざとらしく見せ、


「誰だよ辺境は広くてのびのびとしているから研究しやすい環境だって言った馬鹿はよぉ……ワータイガーもバジリスクも狩られてるじゃんかよ!? いや、クランでの討伐隊はまだ解るぜ? だけどアレは明らかにおかしいだろ! サンクデルの“宝石”は諜報タイプでこの手の任務には不向きだった筈だぜ? んもおー」


 やりきれないと言った様子を見せた黒づくめの男は露骨に溜息を吐いて肩を落とす。


「しっかし……マジでなんだ? あんな力見た事がないぜ? クッソぉ、諜報部の連中クソみたいな仕事しやがってよぉ……」


 怒りをぶつけるように何度も大地を踏みつけてから男は溜息を吐き、それからバジリスクの死体があった場所へと向かい、大地に軽く触れる。そこには僅かに砕けた結晶の破片が残されており、それを指にとって確かめている。


「マジでなんだこりゃ? 見たことのねぇ材質に性質……魔力が結晶化したもんがマジで物質化してるのか? あーん、もうわかんねーなー」


 頭を勢いよく掻いてから結晶片を握りつぶして破壊し、手を払う。それから再び空間に闇を生み出し、この場を去る為のポータルをあけた。


「まあ、良いや。まだ仕込みはあるしぃー? 他にも遊べそうな手札はあるしぃー? 趣味の範疇でやってる事だしぃー? 多少気に入ってた子達が負けた所で悔しいだけですしぃ? あー! やっぱ悔しい! もうちょっと今度は制御できない奴作ろうっかなぁー!」


 ポーズを決めるように1人、虚空に呟いてい居た男ははっとした表情で手を口に当てた。


「はわわわ―――お、俺の頭の中……どうやってあの角娘ちゃんに負けないペットを作るかでいっぱいになってる……? もしかしてこれって―――恋!? 恋なのか? 恋って事にしておくかー!」


 奇声を上げながら勢いよく飛び上がった男はそのままの勢いでポータルへと飛び込む。


「こうしちゃいられねぇ! 創作意欲とモチベーションデラアガって来たわー、超アガって来たわー。新作発表会やるか? やっちまうか? いいや駄目だな! これはとっておきの奴を丁寧に丁寧に作って旦那の祭りに出すしかないでしょ! うおー! 絶対にすっげぇのを間に合わせてやるから待ってろよマブい角娘ちゃーん―――! ラブリ―――! 絶対に暇させないぜぇー! ふっふー!」


 そして狂人が言葉だけを石切り場に残して、消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 多分エデンクラスの性能でもダクソ系プレイヤーは体力減るなら倒せるって挑むんだけどな・・・さすがにシースみたいなリジェネある無理だけど
[一言] 素晴らしいハイテンションキャラだ……… きっと良い奴に違いない……
[一言] エデンちゃんにもとうとうストーカーが?!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ