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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
2章 青年期学費金策編
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硬貨の重み Ⅱ

「金額が金額なだけに小切手で渡すね。こっちはその内容。ちゃんと確認してね」


「うす」


 ウィローからやや手を震わせつつ受け取った小切手をバッグに詰め込んで即座に保存、受け取った金額の内容をすぐにチェックする。すかさず見ようと群がってくる連中を足で蹴り遠ざけつつ確認する値段は驚きの―――28万。見たことも聞いたこともない超大金が一気に懐に入ってきた。一瞬、白目を剥いて卒倒しそうになるのを堪えつつ確認を続ける。


 ワータイガーが12万、ワータイガーの素材で13万、2万が子供とミイラ化していた番、そして1万がワータイガーの関連依頼による報酬。遺品回収とか、調査とかの報酬って実はかなり安いんじゃないかとこの内容を見て思うが、実際のところ1万も稼げれば3か月ぐらいは安定だろう。グランヴィル家が1か月1万の生活費がかかっているのは単純に人数が多いのと、俺とアンの給金が発生しているからだ。俺は別にもう、お給料もらわなくても良いと思っているのだがそうもいかないらしい。


 とはいえ、28万……驚きの値段になった訳だ。


「これ、素材の方が値段高くなってるけど?」


「死ぬ事しか価値のない相手より使い道が多いからね」


「凄い納得した」


「ぶっちゃけると皮は使い道が多数ある。観賞用にも防具にもね。爪牙骨は武器に、内臓は食性の調査に、血肉も調査にかけたり……まあ、色々と使い道があるんだよ。特にあのワータイガーは人肉を集中的に喰らって、効率的に人肉からエネルギーを摂取するように進化していた個体だったしね。どうしてそうなったのか、何が原因だったのか。それを死体から調べるのは再発を防止する意味でも重要な事なんだ。そういう意味でも今回、君が死体をかなり綺麗な状態で持ち帰った事は喜ばしい事だよ」


「綺麗な状態かあ……?」


 内臓ぼろりしたり腕を砕いた記憶があるんだが。後は体も真っ二つにもした。それであってもまだ状態は綺麗な方だとウィローは説明する。


「基本的に賞金首を狩る時は手段を選ばないケースがほとんどだからね。徹底して嬲って体力を削って、一切の勝機を奪って封殺するパターンが最も安全だ。だけどその過程で素材に使えそうな部位の多くがダメージを受けちゃうからね。君みたいに圧倒的な暴力で瞬殺できる殺し方は珍しい方だよ……そうだね、“金属”でも上位の方に行かなきゃ見れないんじゃないかな」


「ほえー」


 となると、俺の戦闘力は大体“金属”の上位だと思えば良いのだろうか? あくまでもスペックによるごり押しがメインだからまともに評価できるとは思っていないのだが……それでも自分がどれだけできるのか、その基準が把握できるのは悪くはない。じゃあ俺に未だに勝ち続けてるエリシアって一体なんなのアレ? もしかして“宝石”級あるのか、あの人……?


 ともあれ、これでまあお金の回収は出来た。かなりびっくりしたしこれで10分の1どころか5分の1以上の金額を回収する事が出来た事は予想外の幸運だった。これはちゃんと、全額リアの学費と俺の中央での滞在費の為にプールさせて貰おう。大きい金が入ったからといって少しだけ手を付けるのは悪い金の使い方だ。そういう事やってるとお金は直ぐに消えて行くんだというのは、日本にいる時に良く理解して覚えた。バイト代、何時の間にか課金に消えてくんだよな……。


「エデンみたいに特殊装備もなし、消耗品使用なしで突破して帰ってくるケースは本当に異常でしかないから、その金額が絶対に普通だとは思わないでくれよ。本当ならそこから人件費、修理費、補充、休息、生活費が入る上に装備の更新とかまで来るし、賞金首の素材の状態では全く素材報酬も入らないからね」


「あー、そっか。そういう出費もあるんだなあ」


 しかし手数料諸々差っ引かれてこれなんだから凄い。こっちの28万だから日本円で280万だ。そりゃあ夢もある訳だわ。この感じ、最初の目標の3体だけで1年目の学費は何とか稼げそうな感じはする。とはいえ、ワータイガークラスの奴がほいほい出て来た所で困るのも事実だ。あんな怪物が頻繁に出てくるようならこの辺境もおしまいだ。このレベルで稼げるのは数年に1度ぐらいだと思った方が良いのかもしれない。


「それで、今後はどうするんだい?」


「タイタンバジリスクかなぁ、次は」


 正直メンタル以外は全くの健康なので連戦したところで一切の問題がないと言えば問題がないのだ。とはいえ、ウィローは数日空けた方が良いと進めてくる。療養と準備を取って数日から数週間準備するのが冒険者の通例という奴らしい。だとしたら俺も休むべきなのかなぁと考えるが、休んだ所でやる事は特にないのだ。だったら普通にそのままタイタンバジリスクまで討伐すれば良くない? ってなる。


 やるか?


 やろう。


 やることにした。


「もう行くんだ……じゃあ先にやっておくかな。カード出してくれる?」


 ウィローの言葉に首を傾げ、カードと言えば冒険者カードの事だからそれを取り出すと、受け取ったウィローはそれに軽く加工を行う。返して貰ったカードを確認するとランクがリーフからウッドへとランクアップしていたのが見えた。


「おぉ……昇級してる」


「リーフからウッドへの昇級は一番簡単なもので、3種類の異なる依頼を達成する事だよ。討伐、調査、調達回収依頼の3種達成で昇級だよ。まあ、扱いとしては最底辺で変わりはないから。脱却したいなら早めに依頼件数をこなす事だね。ウッドからペーパーに上がるには最低で依頼を50件達成、ペーパーからレザーに上がるには50件を更に達成した上でギルドの指定依頼を5件達成する事だよ」


「まあ、そこら辺はゆっくりやるわ」


 返して貰ったカードもバッグに突っ込むと、ウィローが確認してくる。


「それで……本当にタイタンバジリスクの討伐に行くんだね?」


「まあ、メンタル的に疲れた事を抜けば無傷だから。服を汚す事さえできなかったしなあ。別に連戦でも体力的には問題ない感じ。石化とか毒とか呪いとか、全部効かないしなぁ」


「エデンちゃん、そこら辺軽く人類じゃねぇよな」


 サムズアップで横から飛んできた声に応えるが、良い線行ってるじゃんかお前! 人類じゃないぜ俺! 人類の姿してる半神的存在だぜ俺! 実質的にそれって忍者なのでは? と一瞬だけ考えて忍者エデンとかを想像した。そういや全く考えもしなかったが東方とか極東みたいな場所がこの世界にも存在しているらしいし、そっち方面に行けば忍者とか侍もいるのかもしれない。


「まあ、俺ばっかり稼いでも悪いし、バジリスク狩れたら3000ぐらいで皆になんか奢るよ。ここら辺がイケメンがイケメンである秘訣」


 口にした瞬間回りから歓声が上がってくる。


「楽しみにしてるわ」


「頑張ってこーい」


「今日中に終わるのに1000」


「明日帰ってくるのに1200」


「人で賭けるなお前ら」


 それでも帰ってくる事を前提に話をする辺り、誰も俺がバジリスクの餌食になるとは思っていない。そこら辺、ちゃんと戦力の計算が出来ている辺境冒険者の優秀っぷりを証明している。まあ、これだけの実力を示した上でフロックだとか言われたら俺もどう反応すればいいのか解らないのだが。どうせ装備だって大層なもんはないし、ディメンションバッグさえあればどこにでも行けるのだ。このまま馬か熊かで縄張りまで突撃してしまうかと考え、所在なさげにしているアイラの姿を見て、微笑んで手を振りつつ出口を目指した。


「夢、叶うと良いね」


「は、はい!」


「じゃ、こっちはこっちで銀行への連絡と解体業者の手配しておくかな―――あ、バジリスクの血液は貴重な素材だから全部流さない方が高く売れるよ」


 サムズアップを背後に見せながらギルドを出て行く。俺も、少しは連中のノリに慣れて来ただろうか……? そんな事を考えながらギルドを出ると、ギルドの前でエレキギターを片手に待機している金髪長髪のヴィジュアル系の兄ちゃんが出待ちしていた。普通の人間との違いと言えば21世紀にありがちなV系バンドの黒い衣装に背中から黒い翼を片翼だけ生やしている事だろう。ビジュアルも何もかもこの中世近世が入り混じったファンタジー世界では早すぎると表現できるルックスをしている兄ちゃんこそが魔界の住人、魔族。


 その名前もルシファー。


 絶対ロクでもない奴だというのが名前だけで解ってしまう、今地上で最もロックな奴だ。


「るっしーじゃん」


「Yo、マイフレンドエデン……地上に残された最後の楽園よ」


 そう言うとビシ、とポーズを決めるルシファーを見て、こいつ地上生活をエンジョイしているよなあ、と思う。


「前々から思っていたんだけどエレキギターって時代先取りしすぎてない? ジャズとかブルースから音楽文化発展させないと人々があのサウンドについてこれないでしょ」


「それは滅茶苦茶ある」


「あるんだ……」


 エレキギターを膝で叩き割って粉砕すると、それをポイ捨てする―――が、それが何かに触れる前に静かに音もなく消え去る。シャキーン、という音が出そうなポーズを軽く決めてからルシファーはしばらくそのままたたずみ、


「ジャズ……流行らせてみるか……!」


「ジャズ、アレちょっと洒落たバーなんかで演奏されていると気分アガるよね」


「超解る」


 魔界、実は地球疑惑がこいつと会話する度に上がってくる問題をどうにかして欲しい。


「まあ、それはそれとしてお前今日は俺の事出待ちなんかしていて一体どうしたんだよ」


「あぁ、そうだった。これこれ」


 そう言うとルシファーが虚空から一枚の名刺を取り出した。それを受け取り確認してみれば、魔界商会“ジュデッカ”なるものの名刺であった。聞いたことのない商会だし、そもそも魔界商会とはなんぞやという話でもある。一応受け取った名刺をバッグの中に収納するが、それはそれとして扱いに困る。


「なに、これ」


「今度マイペンフレンドがこっちの世界で商会を始めるとかいう話をしていてね。取引相手を探しているんだ。魔界では手に入るけど、こっちでは中々手に入らない物とか色々あるだろう? そういう物をメインに流通させてみようって感じの動きがあってね。フレンドはこれから先が長いだろうし商売相手としては良いんじゃないかと思ってね―――ほら、人の命って短いだろう?」


「うーん……まあ、ありがとう。貰っておくよ」


 あまり、俺の寿命が長いとか……そういうのは正直、あまり考えていないし考えたくもない。まあ、なんとなく察している案件ではあるのだが。それでも今ある人達がこんなにも必死に、楽しく生きているのが別れなきゃいけないとか、そういう事を考え始めたらたぶん、俺、一生部屋から出られなくなってしまうかもしれない。ちょっと耐えられそうにない現実だし、今はまだ見ない事にする。未来の俺が何時か解決してくれる問題だと思っておこう。


「フレンド」


「うん?」


「長生きの秘訣はその時その時を全力で生きる事だぜ」


 そう言ってサムズアップしてくるV系魔族の言葉に軽く笑い声を零し、ありがとうと告げて別れる。別れ際にサックスを取り出している姿を見てアイツ、早速ロッカー止めるのか……なんて事を考えながらさっさとバジリスク狩りへと向かう為に街の出口へと向かう。


「お、もういるのか。感心感心」


 街の外を見れば滅茶苦茶警戒している衛兵と共に、乗り物として利用している動物たちの姿があった。駆け足で街の外に到着すると、凄い勢いで衛兵がこっちを睨んでくる。もしかして街の入り口塞いでた? と思って動物たちの姿を見た。


 そこには綺麗に座って待機する熊、馬、そしてロック鳥の姿があった。


「―――うん?」


 もう一度良く動物たちを見ると、そこには人よりも大きな鳥の姿があった。前、モンスター図鑑で見た事がある奴だ。確かロック鳥と呼ばれる大型の鳥モンスターで、気性が荒く人を襲う事で有名な奴だ。現に今、俺が視線を向けるとロック鳥が威嚇しようと口を大きく開き、


 横から飛んできた熊のパンチと馬のキックで一瞬で黙らされ、ヒエラルキーが証明されていた。


「えぇ……お前ら何やってんの……」


「ヒヒィン」


「グォ」


「ぴぃ……」


「鳥の声が一番弱々しい」


「危険モンスターの筈なんだけどなあ……?」


 衛兵もどう対処したらいいのか解らず武器を構えては首を傾げまくっている。いや、その気持ちは俺にも良く解る。でも馬と熊の方はドヤ顔を浮かべている。どうですかこいつ、便利ですよ!? みたいなオーラを全身から放っている。うん、言いたい事は解るが……なんというか、おかしくない?


 君ら本当に馬と熊なの??

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり寿命差の悲しみはあるのね…… ロック鳥を仲間(?)にした事で空への移動手段をゲットだぜ!
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