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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
1章 王国幼少期編
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命の値段 Ⅳ

「おーい、大丈夫かー」


「ローゼリアさん大丈夫?」


「……なんとか無事ですわ」


 そう言って中庭の大地に髪の毛を広げたまま転がっているのはビームに飲まれたローゼリアだった。放心しているのかローゼリアは倒れたまま、起き上がらない。その様子を見ていた使用人が走って近づいてくるが、


「大丈夫、大丈夫よ……ただ単純にちょっとショックを受けてるだけだから」


 ローゼリアは無事を証明するように倒れたまま手を上げて使用人を下がらせた。どうやら木人が良い感じに盾になったのと、ローゼリア自身の魔力で凌いだらしい。その結果このざまだが。


「対戦相手を木人諸共消し飛ばすルールがあっただなんて……?」


「そんなルールないわよ! というか真面目に死を覚悟したわよ!」


 炭化して屑となった木人を確認しながらグローリアが視線をあげた。


「あれ、木人消えちゃった……この場合もう1回かな?」


「もしや、私を殺すまでやるつもりで??」


 怒涛のツッコミと反応にどうしても才能を感じてしまう。この娘、ウチに欲しいと素直に思う。ボケ続けでも間違いなく突っ込み続けてくれる逸材だ。ウチに来てツッコミ役に就職してくれねぇかなぁ……と思うが、ローゼリアは領主の娘なので無理だろう。もっと高い地位のツッコミ役に就職するだろうから。


 ともあれ、慌てふためく使用人をローゼリアは追い払いつつ立ち上がった。髪の毛がちょっと乱れているので持ち歩いている櫛を使って軽く髪を整える―――ここら辺の技能はみっちりとアンに仕込まれて合格を貰っているので、割と自信がある。


「すまないわね」


「いや、9割がたウチのお嬢が原因なので……まあ……」


 そう言ってから数秒程ローゼリアは黙るが、


「何時もあんな感じなの?」


 どう返答したもんか……と考えるが、まあ、隠す必要もないだろうと正直に答える。


「まぁ、最近は特に」


「……そう。苦労してるのね」


 心の底から同情される様な声にどうしたもんか、と苦笑してしまう。俺個人はこのパワフルさが嫌いじゃないんだけど、人から見たら相当苦労しているようにも見えるか。まあ、グローリアのこの暴君っぷりも徐々にギアが上がってきた結果というか、俺が来たばかりの頃はもうちょっと控えめだったのは確かだ。俺が起爆剤になって今のグローリアに育ちつつあるのは間違いないので、改めてエリシアやアンとはこの小さな怪物の将来に関して相談しなければならないだろう。もうちょっと淑女らしくなってくれないだろうか。


「勝敗つかなかったしやり直さない?」


「そこまでして私を消し炭にしたいのかしらこの子は? それとも単純に人に向けて撃ちたいだけ?」


「そんな危ない事する訳ないでしょ。ローゼリアさんは酷い事を言うなあ」


 何を言ってるんだこいつ? と言わんばかりの表情で溜息を吐きながらローゼリアに言い放つグローリアはナチュラルな煽りスキルを磨いていた。


「んんんんんんんッ……!」


 形容しがたい表情を浮かべてローゼリアは唸っているが、すんでの所で発狂を抑える。そこで乱れた髪の毛を整え終わったので櫛をしまって離れつつぱんぱん、と手を叩く。


「まあまあ、第三者から見た感じ立ち上がりから放出までは圧倒的にローゼリア様で、良く基本技能を練習、復習している感じはしました。とはいえ、最終的な勝利はリアが力技で全部消し飛ばしたって感じでしたが」


「アレは反則よ、反則。これ、質量で勝利する様なゲームじゃないから」


「じゃあやり直す?」


「どれだけビームを放ちたいの、この子……? グランヴィル家の家訓には“汝隣人にビームを放ちたまえ”とでもあるの?」


 ピースピースとブイサインを浮かべるグローリアに戦慄しているローゼリアの姿は肩の力が抜けているのが見えた。さっきまでは開いた対抗心とかいうものが抜け落ちている。別に折れた訳じゃなくて、グローリアがそういう対抗心とかを向けるだけ無駄なタイプの少女だって理解したのだろう。肩の力を抜いたローゼリアは両手を腰に置くとふぅ、と息を吐いた。


「エデンも、グローリアも。これから長い付き合いになりそうだし私相手なら好きな態度で良いわよ。なんか……肩肘張ってるのもバカバカしくなってきたわ。これからはお互いもっと気楽にやりましょ」


 完全に砕け切った口調。その姿と品のある所作さえ抜けば年相応の娘の姿にローゼリアは変わり、それをグローリアは笑顔で受け入れた。


「グローリア・グランヴィル、改めて宜しくねロゼちゃん」


「ろ、ロゼちゃん……ぐいぐい来るわねこの子」


 手を素早く取って大きく握手してくるグローリアの様子に大分ローゼリアは押されている。


「同年代の相手が俺1人だから距離感掴みかねてるんだと思うんだけど……良いの?」


 俺、使用人だけど。直接言葉にしないが賢い彼女には意図が伝わる。


「長い付き合いになるだろうし良いわよ。公の場ではちゃんとオンオフ出来るタイプみたいだし。私だって一日中格好付けてたら疲れてしまうわ。どうせ辺境伯だから政治中枢にかかわる様な人生もないだろうし。力を抜ける所は力を抜けばいいのよ」


「なんか不貞腐れているようにも聞こえるなぁ」


「そう聞こえるならそうなんじゃないかしら」


 ファーストコンタクト、どうなるかと思ったが案外悪くない形に落ち着いたな、とは思う。ローゼリアとグローリア、このまま良い友人関係に発展してくれれば良いなあ、とは思うが相性的にはどうなんだろうな。


 この際、いい加減俺も心の中で距離感を縮めてって2人の名前も略そう―――ロゼとリア、この辺境では非常に珍しい同年代であり同じ貴族なのだ。両親からすれば仲良くなっておいて欲しいという意思があったのだろう。ロゼはややリアに押されている形だが、ロゼ自身環境的に同年代の友人は皆無なのだろう。ぐいぐい押し込んでくるリアの勢いには押されているがロゼ自身、それを悪いと思っているようには思えなかった。少なくとも今、魔法に関して談笑し始めた少女たちの間に険悪な空気はなく、俺も使用人も胸をなでおろしていた。


 俺としても辺境で生活する以上、必然的にずっと顔を合わせるであろう隣人なので仲良くしていきたいのが本音だ。


「じゃ、勝敗は決したしそろそろロゼちゃんの罰ゲームに入ろっか!」


「この子血も涙もないの? というか今のどう見ても勝者は私でしょ!?」


 ロゼは勢いよくリアに食ってかかる。


「確かに最終的に木人をじゅっ……って感じの音で消し飛ばしたのは貴女よ? でも始動から叩き込みまで早かったのはこっちよ。魔導比べの目的を考えると技術としての総合力は私の方が上だって証明されたはずよ!」


「でも最終的に勝ったのは私だよ? 私が最後はロゼちゃん諸共木人をゴールさせたし。だったらこの場合、最終的な結果を考慮して私の勝利って事にならないかな?」


「それは暴論よ!」


「いいえ、これは民意よね、エデン! 勿論私の味方してくれるよね!」


「短い時間だけどエデンは公正な人物だと思ったわ、きっと正しい判断をしてくれるわ……ね?」


「……」


 向けられる二つの視線に冷や汗をかきながらどうしたもんか、と考える。ロゼの言う事も、リアの言う事も良く解る。技能比べという点で見るなら間違いなくロゼの圧勝だっただろう。だけど結果を見るなら圧倒的な魔力でふっ飛ばしたリアの勝利だろう。だけどリアの勝利を認めるという事は結果さえよければ過程は無視できるという事であり、ロゼを認める事は結果を出しても報われないという事なのだ。


 割と根の深いタイプの問題なんだよな、こういうシチュエーションって。下手に勝敗を付けると拗れる奴。めんどくさいシチュエーションに巻き込まれたな。そう思って頭を抱える。一瞬、使用人の方へと視線をむけるが、全員目を逸らしやがった。そうかそうか、子供には付き合いたくないか。じゃあ解ったわ、俺が法って事で!


「過程はロゼの勝ち、結果はリアの勝ち。なので判定はイーブン、両者罰ゲームで」


 瞬間、運命を悟ったリアがなるべく可愛く見えるように首を傾げてしなを作る。


「そこは引き分けでなしにならない?」


「ならなぁーい!!」


 逃げ出そうとするリアを一瞬で掴んで捕獲し問答無用の、


「アルゼンチン・バックブリーカー!!」


「ぎゃっ」


 短い悲鳴を上げ、一瞬でリアがダウンする。リアだった物体を地面に転がして解放しつつ、腕をぐるんぐるん回してロゼへと視線を向け、真っすぐと怯える姿を指さす。


「次は貴様だ」


「は、犯行予告……!」


 怯えるロゼが数歩後ろへと下がり、周囲へと視線を向けた。


「……はっ! あ、貴方達! 私を助けなさい!」


「んっん―――! 良い天気だなぁ―――!」


「おっと、目に塵が入ってしまったな……」


「すやすや……」


「薄情者ォ!!!」


「敗者には罰ゲームだ!!」


「私負けてませんけど!?」


 それだけ叫んで背中を向けて逃げ出そうとするロゼを一瞬で捕獲する。暴れようとする姿を掴んでは持ち上げ、両足を地面から離すように持ち上げる。じたばたとする姿を無視してその姿を軽く空へと向けて投げ上げ、逆さまになった所を空中で掴む様にホールドする。ロゼの頭を首にかけるように、両足を逆さまの状態で掴んでロックする。


 そう―――エデンバスターである!!


 完全オリジナルの殺人技、エデンバスターである!


「むんっ」


「ごっ」


 落下の衝撃を軽く手加減する為に和らげながら脊髄に叩き込み、少女らしからぬ鈍い声が口から漏れた所で解放してリアと一緒に大地に転がす。2人の美少女に見事な技をかけ終わった所で真の勝者が決まった。


 そう、この俺だ。


「勝利とは常に戦う前から決まっているもんだ……空しいなぁ……」


「こ、おごっ……このっ……!」


「……」


 転がる少女二人の前でポーズを決めた。


「格付け完了だな!」


 マジかこいつ? という視線を他の使用人連中から向けられているが俺がチャンピオンだ。






「亜竜被害、か。また面倒なときに来たもんだねぇ」


 エドワードの心底面倒がる様に言葉を吐いた。亜竜被害。それは龍の眷属とされる龍の下位種、亜竜達が何らかの被害を起こしているという事だ。


「亜竜自体そこまで珍しいものでもないが……今は時期が悪い」


 そう言って領主サンクデルは頭を掻いた。


 雪解けの季節、初春は漸く長い冬の終わりに経済と商業の活性化が始まる時期だ。その上で次の冬を越す為の準備を細々と始める時期でもある。その為、畑の面倒や生活面で苦労が色々とある。他にも旅人達はこの場を出立し、新天地を求める季節でもある。新しい流入があれば、古い別れもある。出会いと別れの季節である春は多くの人々にとって忙しい時期になる。


 それはサンクデルの抱える兵達もそうだ。サンクデルは豊かな財源と土地を抱えている。それが許されるからこそ辺境伯という立場でいられる。そしてその財源は彼の土地で産出される資源等から来ている。そしてそれを守るための戦力だって保有している。だがこの季節、初春という季節は他国が軍事行動を起こすのであればある程度の動きを見せる時期でもある。冬の前に兵站を整え、雪が溶けたら即座に奇襲をかけるという事もままある。その為、サンクデルの私兵や、国の兵士達は国境付近や冬の間の被害を確認する為に出している。


 その為、冬が明けた直後の季節は少々、動かしづらい。


 無論、それは不可能ではないのだろう。だからこそこうやって可能な手段の一つである、領内で契約している傭兵戦力を当てにしている。


 この場合、サンクデルはエドワードという元宮廷魔術師の存在を大いに当てにしていた。ローゼリアが密かに憧れ、そして尊敬するだけの実績と実力がエドワードにはある。そしてその実力を何度かサンクデルの依頼を通して達成してきている。それ故に春の始まり、亜竜の被害が出た所でサンクデルは丁度良いとエドワードに仕事を依頼するつもりであった。


 それをエドワードもしっかりと理解していた。応接室のソファでサンクデルと向かい合うように座りつつも両手を合わせ、指先を軽く遊ばせながら頷いた。


「うん、事情は解るさ。そしてそれを断るつもりもないよ。亜竜となると1体相手でも最低でシルバー級ハンターを1パーティー雇う必要になるしね。安全性を考慮するとなると2パーティーだけど」


「あぁ、ギルドへの依頼として要請するのも決して悪くはないが、亜竜被害は放置すると広がるからな……特に今回出没した場所が鉱石財源のある山でなぁ……ほんと、そういう所では出て欲しくないんだけどなぁ」


「あー」


 レアメタルやレアアースが金になるのは世界や時代が違っても一切変わりはしない。サンクデルというよりも、辺境を支える財源に亜竜が出没し、そのせいで金の流れが滞れば全体的な死が待っている。それを理解したエドワードはうん、と言葉を口にして頷いた。


「明日にはここを発つよ。僕なら余程ヤバイのが出て来ない限りは1人でも行けるし……そこまでヤバイ奴じゃないよね?」


「確認してきた特徴を合わせるとレッサー種の比較的に成長した個体だったそうだ」


「レッサー種ならまあ、そこまで強い個体もないし問題ないかな。念のためにバインダー幾つか借りてくけど良いよね?」


「ここで拒否する様な愚か者にはなりたくないなあ」


 サンクデルの言葉にエドワードが軽い笑い声を漏らすと、あ、という声が零れた。そのエドワードの反応にサンクデルが不安を覚えた。


「え、どうした? なんか問題あった? 実は下痢気味とか!?」


「いや、コンディションは問題ないんだけど……ちょっと思った事があってね」


 話をしてみて、色よい返事があれば彼女を、


 エデンを、亜竜に会わせてみるのがきっと良いのかもしれない、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 亜竜が懐いたらどうしよう……
[良い点] エデン、楽しむために周囲から引かれるような頭のネジ飛ばした行動を意図的にしてて、でも思考は真面目だったりシリアスよりなのがギャップあって大変良き 圧倒的自分を押し付けていけ! [気になる点…
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