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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
3章 2節 夏休みx魔王x図書館編
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王都遊覧 Ⅴ

 ドレス用の下着選びって実は結構面倒なんだよね。


 特にオフショルダー系や背中が大きく見えるタイプのドレス。これに合う様な下着を選ぶとき、当然だがブラ紐が見える様なタイプの下着は選べない。だって下着が見えるなんてとてもはしたないし、恰好悪いだろう? まあ、それ以上に下着の見える女って凄いどうかと思うって案件なのだが。少なくとも公的な場所で下着を晒しながら歩く女って完全にアレな話になる。だからドレスに合わせた下着選びってのは割と重要なのだが、バストサイズが増えればそれだけ選べる下着の種類やバリエーションが減って行くのは胸が大きな者が持つ共有の苦しみでもある。


 だから、背中や肩を開けたタイプのドレスで胸の大きな人は常に下着をどうするか、どうすれば綺麗に見えるのかという問題を抱えていたりするのだが……実はこれ、結構簡単に解決する問題だったりする。半端なブラジャーだったりすると胸が垂れたり踊ったりで胸へのダメージが大きいもんだが、この世界の人間はこの世界らしい方法でこの問題に解決する手段を持ち込んだ。



 そう、魔法だ。


 ブラジャーなんて使わず、直接ドレスに胸を支える為の魔法を編み込めば良いのだ。賢いなぁ? いやノーブラってマジかよ! 異世界すげぇな! 正気か? って言いたくなるぐらいには俺も女としての感性が馴染んできている。正直な話、ノーブラってのは凄い胸が揺れるし動くし、服の中で胸が擦れるから痛いのだ。それが気持ちがいいとか言ってる奴はえっちな本の読み過ぎだ。女性としては割と深刻な問題になるのだ。その上でブラを付けていないと胸の形崩れがあるとか……シャレにならないダメージがある話だ。


 だから細かい問題を魔法で解決した。他人にダメージを与える様な大規模な魔法であればそれこそバインダーで纏めないといけない魔導書クラスになるだろう。だが小さくまとめられた魔法用の紋様や文章であれば裏地に書き込めばどうとでもなる。マイスター級の職人であればそれこそ糸一本一本に書き込む事で服などに魔法効果を与える事が出来るらしい。なんともまあ、凄い技術を編み出したものだ。


 そういう事で俺の着ているドレスも魔法込みの品だったりする。身内にその手の魔法が詳しい奴がいるのなら頼んで刻んでもらえば良いという話なのだ。だからドレスの下はブラなしだが、胸が垂れず、揺れず、見えないエアバッグでブラジャーの様に保護されていると思えば良い。それでいて見えない様にしっかりとガードされている。この世界の女性の美とファッションに対する意識が良く見える魔法や機能だと思う。ちら見えとかそういうのは気にしなくても良いのだから、便利なものだ。


「―――驚いたわ……本当に傷跡も残っていないのね」


「まあ、頑丈さがウリの体なんで」


 そんな俺はドレスの肩紐を降ろして、上半身を露出した状態で椅子に座っていた。場所はアルルティアに駐留している騎士団の本部。そこで騎士団の女性騎士の護衛の下、街の医師の診察を受けていた。当然ながら剣が心臓を貫通してぶっ刺していて、それが街中で起きているのだ。騎士団としちゃ治安に関わる問題だろうし、死人が出たら当然大事件にもなる。町民を、国民を守る義務がある騎士団としては街中で堂々と発生した事件を解決しなくてはならない。


 俺がチェックを受けるのは当然の事と言えるだろう。


 上半身を露出した状態で女医は俺の肌や心臓の辺りに触れる事で傷がふさがっているのを確認し、そこに見えないダメージが残っていないかどうかを触診と魔法を使った探知で確認して行く。風邪をひかなければ滅多な事では怪我すらしない俺からすれば医者の世話になるというのは中々ない事だ。そもそもからして医者という職業そのものがちゃんと成立している事実も面白いのだが。


「これが上位種族の体ね……体の構造は同じだけど、目に見えない所で構造がまるで別というか……説明し辛いわね、これ。構造は人と変わらない筈なのに別の物を見ているような気がするわ」


 女医は手で軽く胸の付近を触りながら体の中身を見透かす様な視線を向け、溜息を吐く。それを受けて女騎士はそれでは、と言葉を呟く。


「先生、それでは彼女は?」


「えぇ、健康体よ。骨密度も筋繊維も信じられない密度だけど。今見ている間にも体の中にあった傷が塞がって行くのよ? 私じゃどうしようもないわ。さぞや医者に迷惑をかけない人生を送って来たでしょうね。傷口はともかく、内臓まで治療もなく再生するのは完全に医者いらずよ。ここで私が出来る仕事はなにもないわ」


「そうか、診察ありがとう先生。それで……」


「え? あぁ、危惧してる事は大丈夫よ。竜血は検出されなかったから。まあ、見た目が近いだけの魔族よね」


「そうか、助かった」


「こっちも仕事だからね。それじゃあ安静……にする必要があるかどうかは解らないけど、失った分の血肉をちゃんと食べて補填してね」


「うっす、あざっした」


 女医に軽く頭を下げてから部屋から出て行くのを見送り、それで視線を女騎士へと向ける。


「えーと、それで俺はどうしたら」


「今、貴女の保護者への連絡を送っている。迎えが来るそうだからそれまでは此方で安静にして欲しい。事件の直後また襲われないとも限らないしな。貴女の連れが今連絡を取っているそうだ」


 となるとこれはベリアル氏に話が届くのかなあ、なんて事を考える。とんだ王都観光になってしまった。もっと平和的なものになるかと思ったが、まさかこんな襲撃を受けるとは。俺が一体どんな悪い事を……と思ったが、ギャンブルしたり人を殺したり、自分が悪い事をやっている自覚は少しだけあるので文句を言うのはお門違いだろうか。何にせよ、ベリアル氏が俺を態々招いたのにこんな事になったのだ、氏は気が気ではないだろう。


 ドレスの肩ひもを引っ張り上げて着直しつつ髪に手を通して再び後ろへと流れる様に押し戻す。軽く位置を指で弄って満足しながら自分の体の中へと感覚を巡らせる。最初は異物感や違和感もあったが、恐らくは毒か何かの類だったのだろう。残念ながら免疫機能が人類を超越している上に、強力な毒だろうと浄化能力で解毒出来てしまう俺にその手のもんは通じない。もう既に浄化による抹消が行われている為に心臓の傷も再生済みだ。


 俺の肌にはもう傷跡さえ残っていない―――龍殺し超先生の付けた傷は未だに残ってるが。


 ただそれでも、警戒していなかったとはいえ俺に気づかれずに接近して心臓に一撃を叩き込んできた暗殺者というのは相当な手練れだ。一体何が目的だったのだろうか、と首を傾げる部分はある。その疑問を解消する為にも、静かに警護に回る女騎士へと質問する事にした。


「あー、質問良いか?」


「無論、貴女にはその権利がある。答えられる範囲であれば答えよう」


「じゃあ質問。この手の殺人事件、殺人未遂は王都では珍しくないのか?」


 その質問に女騎士は少し、複雑な表情を浮かべた。


「少し難しい話だが……殺人はなくても、未遂というのは偶に見る」


「マジか」


「異種族間の衝突というのは最近……具体的に言うとこの5年近くはそこまで珍しくないものになって来た。この国に魔族が増えて来た、というのは理由にはならない。あまり大声では言えない話だが、王家の求心力が下がってきたことに伴う治安の低下だろうな……」


「それ、言っても大丈夫なのか?」


「普通は駄目だ。だが貴女は被害者だ。ならばちゃんと知る権利がある。特に命を狙われた、と付くならな」


 女騎士の言葉になるほど、と頷く。こんな所で王子様の話の続きを聞く事になるとは思わなかった。確か第1王子から第3王子までが乱心していて玉座レースによる暗殺とかが横行している状況だったか? そんなことしてれば治安が低下するのも必然……思ってたよりもこの国、状況的にやばかったのかもしれない。俺には全く関係のない事だと思ってたのに。


「あまり表ざたにできない話だが、人理教会は力を強める事でこの国に増え始めた魔族勢力を排斥したがっている。お蔭で近年は人理教会の関係者が国内に増えている」


「……俺の殺人未遂もそういう連中がやった、と」


「竜血と口にしたのだろう? そういう事を口にして殺しに来る連中は大半が人理教会の狂信者かドラゴンハンターの連中だ。無論、それが人理教会へと罪を擦り付けるカモフラージュという線もあるがな。言っておけば実に“らしい”という話になる。実際のところ、ある程度は現実味のある話になってくる。お蔭で犯人の特定が難しくなっている」


 ふむ、と呟きながら次の疑問が頭に浮かぶ。


「えーと、竜血ってのを良く知らないんだけど」


 俺の言葉に女騎士は頷く。


「まあ、そこまで有名でもないからな。竜血はそのまま、亜竜の血の事を示す。人や多くの生物よりも遥かに優れた生物である亜竜はその血でさえ劇物だ。毒にも薬にもなる竜の血は高値で取引されるが、中にはそれを人体へと投与する事で自らを竜へと近づけようとする者達がいる。無論、これは違法に当たる行為だ。何せ、人体に対する安全性が一切保証されない上に竜の血なんかを体に投与するんだからな、自ら人の道から外れようとする行いだ」


「だけどそれを行う連中がいる、と」


 女騎士は頷いた。


「竜信者の連中だな」


「竜信者」


 女騎士は頷き、説明してくれる。


「そうだな、関わらないのであれば一生関わる事もない連中だが……竜を信仰して生きる者達の事だ。あぁ、なんでも亜竜や真竜たちこそが世界側の、自然的な存在であり敬うべきだと、そんな考えの持ち主だ」


 微妙に正解を掠っている辺りたちが悪いな……。


「言ってしまえば自然派テロリスト集団だ、それも竜や龍を崇めるな。連中が言うには今在る世界に対して、人類は増えすぎたからもっとその数を減らすべきだ……という主張らしいな。尤も何を言おうがテロリストである事実に変わりはないから見つけ次第殺すのが基本的な対応だ」


「まあ、テロリストだしね。というか俺、そんなもんに間違えられたのか……」


「かもしれないし、そうではないかもしれない。犯人が捕まらない以上判断は難しい。その角と鱗を見て竜信者を殺しに来たとも見えるし、或いは魔族だからと殺しに来たのかもしれない。詳しい事はこれからの調査でしか解らない。だが確かなのは……」


「確かなのは?」


「外を歩くなら、しっかりと護衛を付けて欲しいという事だ」


「肝に命じておきます」


 女騎士の言葉に頷く。今回の件、グレゴールがいてくれたから即死ルートへとコンボが繋げられなかっただけだ。いや、或いは首への一撃は経験した事がないだけで、斬撃半ばで刃を止めるか、それとも即死しなかったかもしれない。ただ、今の王都は俺が1人歩きするには少々危険かもしれないというのは事実だった。悔しいけど、ベリアル氏に護衛を派遣して貰った方が良いのかもしれない。


 ……頭を悩ませるのがリアとロゼの護衛ではなく俺の護衛というのもまたおかしな話だ。


 これ以降はもう少し警戒心を上げて外を歩く事を考えた方が良いのかもしれない。


 しかし、竜信者とはまたおかしな連中もいたもんだ。


「連中、都市部にしかでないんですか?」


「いや、こっちの大陸だと帝国が主な活動域になっている。エスデルは自然が多く、人口密集度もそう高くはないからターゲットにされていないらしい。進んだ科学力のある国や、人口の厚い所、後は人理教会の影響力が強い所がターゲットになっているそうだ」


「成程なあ」


 じゃあ辺境にいる限りはほぼ関わらない連中って事か。何にせよ、人類にも魔族にも殴りかかっている時点で何時か滅ぶんだろうなあ……って感じが強い。とはいえ、俺が龍だとバレた時点でなんか恐ろしい事になりそうな気配もあるし是非ともバレずにやっていきたいところだ。というか俺の知らない所で滅んでいてくれ。


 だけど、まあ、今回、気になる話があった。


 竜血が俺から確認できなかったという話―――俺、龍なんだが、肉体組成は完全にこの二つの種族で別ものなんだろうか? 俺が人に変身しているとしたら、少なくとも血とかまでは変わらないとは思うのだが。


「うーん、何にせよ色々と気を付けるかぁ」


「そうしてくれ。その方が騎士団としても安心できる。ただでさえ上がごたごたしているからな……」


「あぁ、本当にお疲れ様ですわ、それは」


 俺の言葉に女騎士は神妙に頷く。どうやら気を抜くという事はしないらしい……本当に真面目な人だ。そう思っているとこんこん、と扉が叩かれた。その向こう側から聞こえてくるのは男の声で、


「迎えの方が来ました。其方は大丈夫ですか?」


「あぁ、此方は問題ない」


 扉が開かれ、その向こうから騎士が出て来た。エスデルの統一騎士礼装に身を包んだ男は此方を見て、少し目を奪われるが女騎士に脛への蹴りを喰らって表情を歪めながら背筋を正した。


「おっほん、失礼しました。迎えの馬車が表に来ています」


「解った。それでも貴女も早く帰ると良い……健やかにな」


「騎士さんもお元気で」


 軽く手を振り部屋を出る。そのまま騎士の案内を受けて外へと向かえば、言われた通りに馬車が用意されてあった。そこには連絡のために動いたグレゴールの姿と、王都へとやってくるのに使った見覚えのある馬車、そしてコランの姿があった。俺が騎士団から無事な姿で出てくるのを見ると、コランは安心したように息を吐いた。素早く寄ってくると着ているコートを脱いで、それを肩にかける様に庇ってくる。


「エデン様、よくぞご無事で。街中で襲われたと聞いて非常に心配しました」


「いやあ、おっさんがいなかったらヤバかったかも。おっさんに感謝しといて、マジで」


 コランの視線がグレゴールへと向けられ、グレゴールは止めてくれよ、と手を振った。


「おじさんは自分の仕事をしただけだからよ、マジで。通常通りの支払いがあればそれでいいんだわ。んで、おじさんのお給料はホテルからちゃんと貰っている、って訳だ。だから特別に何かとか考えないでくれよ、困っちゃうから」


「いえ、それでも改めて感謝を。もし、何か問題があるようでしたら是非、此方へ」


 そう言って懐から名刺を取り出したコランはそれをグレゴールへと渡しており、グレゴールは少し気圧されながらもそれを受け取っていた。それが終わった所でコランは俺を馬車へとエスコートしてくる。


「それではエデン様、今宵はホテルまでお送りします。明日、改めてお迎えに上がりますがどうか、それまで外出は控えて頂けると……」


「あぁ、うん流石に俺も昨日の今日で出かけるのはちょっと怖いし、大人しく従っておくよ」


 馬車の縁に足をかけ、振り返って軽くグレゴールに手を振ると、グレゴールも手を振り返してくる。


「じゃあな、お嬢さん。また賭けに出るなら連れてってくれよ」


「おっさんも今夜はありがとうな。また行くような事があったら運を分けてあげるよ」


「はは、そりゃあ良い」


 グレゴールも軽く手をふると、そのまま夜の街へと歩いて去って行く。それで俺の用もなくなり、馬車へと乗り込み、椅子を見つけてそこに座り込む。


 どっと疲れが押し寄せてくるのを感じながら息を吐いた。


 あぁ……これはこの王都で一波乱が来るんだろうな……そんな予感を確かに感じている。このまま何事もなく終わる、そんな平和的な解決はないだろう。それだけは確かだった。

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