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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
3章 2節 夏休みx魔王x図書館編
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サマー・バケーション Ⅳ

 めちゃ糞快適だわ。


 王都までの旅はそれに尽きた。


 まずは馬車が揺れない。多少は技術的な問題で揺れを感じる筈の場所が一切揺れる事なく、旅の間はどこを進もうが非常に快適だった。本当にホテルの一室にいるんじゃないか? なんて考えそうなぐらい凝った内装と揺れを感じさせない客室……最初に移動するホテルと表現したのに一切の間違いはなかった。その上で小型冷蔵庫には飲み物が完備、置いてある棚にはお菓子等も用意されていて小腹が空いたときの備えも完璧。


 馬車内部で暇? だったらボードゲームだって用意されている。見た事のないボードゲームだが、どうやら魔界産らしく駒がプレイヤーの指示に従って自動で動いたりと、これまた地球のボードゲームに慣れていたとしても新鮮に感じるシステムの数々が用意されていた。これに軽く熱中するだけで数時間は吹っ飛ぶ。


 その上で飯が美味い。予め調理されていたものを保存しておいたものを食べるのだが、出てくる料理の内容が明らかに馬車旅で食べられるレベル、クオリティを超えているのだ。これは旅をする人間や長距離移動する人間にとっては基本的な話なのだが……馬車旅での料理というものは、どこぞの宿に行かない限りはそこまで期待できるものではないのだ。だから馬車に数日単位で移動する時は基本的に自分の好みの食べ物や、或いは自分で料理する準備を整えて乗るもんとなっている。だがその常識を覆すレベル―――即ちフルコース料理がなんと馬車の中で味わえたのだ。


 なんというか、もう、言葉もない。魔族の技術と資本凄い。御者であるコランも極力邪魔にならない様に配慮し、常に紳士的な態度を心がけていて、まるで不快感のない旅を過ごせた。エメロードから王都までは距離で言えば数日の距離だ。それでも馬、馬車の性能込みで普通の馬車よりもやや早いペースで王都までやって来てしまった。


 本と詩の王都アルルティア。その場所はそう言われている。


 都市は天想図書館と呼ばれる雲を抜けて伸び続ける塔型の図書館を中心に広がっている。都市は拡大し続ける為に定期的に城壁解体と拡張が行われており、アルルティアにはエスデル王族の居住地である王城が存在しない。良く異世界ファンタジーや中世ファンタジーで見かける都市と王城が一体タイプの形をしておらず、王城は都市から少しだけ離れた所にある。と言っても距離にしては1時間程度でしかなく、このまま王都が拡張を続ければ何時かは届くかもしれない。


 ただ今は中央に聳える天想図書館こそがこの王都の象徴にして、最も見るべきものだろうと思う。


 窓の外に広がるそんな景色を馬車の中から眺めておぉ、と声を零す。


「流石王都、エメロードよりもやっぱり大きいんだなー」


「広さだけなら大陸有数だったはずよね。大陸最大の都市は帝国領の帝都だし」


「エメロードは古さだけならアルルティアと同等ですが、政治的な理由の数々で拡張計画が大幅に遅れている事実がありますからね。ここアルルティアがこの大陸で最も古くからある大都市だと言えます。いえ……正確に言えば一番古いのは中央の天想図書館になりますが」


 クレアの補足する様な言葉にほお、と声を零す。リアとロゼと3人でぎゅうぎゅう詰めになるように窓に喰らいついて外を眺める。初めてみる王都の景色、今見える段階でも既にわっくわっくなのは言うまでもない事実だ。なんだかんだで旅行とか探検とか、そういう要素が好きなのが我ら辺境育ちシスターズだ。俺も元々、地球生まれの地球育ちだったんだ。生まれ育った日本とは全く違う姿の都市や文化、文明を見るというのは何時までも飽きないものだと思っている。


 今は移動範囲が限られているが、いつかは自由に世界を見て回りたい気持ちもある。


 きっと、この世界には想像も出来ないような都市や秘境が存在するのだろう……そういうものも、何時かは見てみたいものだ。


 辺境から、大分遠くに来たなぁ……。


 窓から入り込んでくる風に髪が乱れる。それを片手で整える様に抑えながら馬車の中のベッドへと下がるように腰かける。これならもうそろそろ王都の門前にまで到着するだろう。そこから今度は身分の検査で多少時間は取られるだろうが、それが終われば晴れて高級ホテルへ……という所だろうか?


 そんな事を考えている間にも馬車は徐々に歩みをゆっくりとした物へと落として行く。これまでは中々早い速度で移動していたが、王都の前に来て前方で王都に入ろうと並んでいる列に合わせて此方の馬車も列に加わる―――流石王都というべきか、ちらりと窓の隙間から盗み見る限り、どの列も並んでいる状態だ。こうなると平民も貴族も関係がないだろう。昔見た高速道路でどこも詰まっている状態が異世界でも通じるというのは中々面白い景色だ。


「お嬢様方、後1時間ほどでアルルティアに入れると思われます」


「ありがとうコランさん」


「いえ、それでは残り僅かな時間ですがどうぞ楽にお過ごしください。既にホテルの部屋は手配しておりますので、降りたら直ぐに部屋に入れるようになっています」


「王都のホテル……正直期待してないと言ったら嘘よねー」


「ねー! エデンのおかげで良い体験が出来そうだね」


「お前ら本当に楽しそうだなぁ」


 俺は―――どうなんだろうか? むすり、と肘を膝に立てて顔を支えた。むんずりという擬音が出そうなポーズでふと憂鬱な自分に気づく。いいや、憂鬱というよりはややナイーブなのか? 自分の事を知ると言う相手からの呼び出しだ。これで恐れるものが何もないと言えば嘘になるだろう。とはいえ、人生最大の恐怖を生む存在である先―――。


「っと」


 考えない。


 世の中には思考した事を察知するなんて異能染みた直感と感知能力を持った連中がいる。そういいう事の対策に思考するなと言われていた事を思い出す。思考に耽るとつらつらと余計な事まで考えてしまうのが俺の悪い癖だ。自覚がある悪癖だからなんとかしたいなあ、なんて思っていると、


「―――今、エスデルは危機にあります!」


 そんな大声が響いた。


 外から聞こえてくる声に視線を窓の方へと戻すと、窓に張り付いていたロゼとリアが窓から離れるのが見えた。リアの方はちょっとだけ嫌そうな表情を浮かべている辺り、なんとなくだが俺にとっても決して愉快な存在ではない予感はした。だけど窓の外を見て確信した。


 道路の横、王都に続く門の前に並ぶ馬車の数々を前に説法をしていたのは一人の僧侶と、数人の騎士たちだった。僧侶の纏う法衣には見おぼえのある紋章が刻まれている―――人理教会を示す紋章だ。ソフィーヤの信徒を示す紋章であり、既にソフィーヤの意志から乖離して暴走している宗教でもある。この世で最も大きく広がり、そして人類繁栄に貢献している教会だ。アレが俺の同胞を殲滅した……と思ってみると、少し妙な気分になる。


「どうかそのまま、お聞きください! 現在エスデルのみならず、この大陸は危機にあります! 亜竜被害の減少は決して楽観して良い事ではありません! これまで何百年、何千年も続いた人と龍種の戦争は、何年か前に最後の龍が狩られる事によって終息したように思われました……ですが、亜竜はまだこの世にあり、今もなお人にその牙を剥いている!」


 いや、まあ、うん……生きてるんですけどね、俺……。というか亜竜被害が減ったのは俺が口添えした経緯があるからまあ……。


 まあ、真実知らなきゃ警戒するよね。


「こんな所で説法するより街中でやった方が効果がありそうだけど……」


「アルルティアでは広場や道路での勧誘が禁止されているからですよ」


 馬車の前、御者台のコランが返答を挟んだ。


「そうなの?」


「はい―――と言うよりエスデル王家が国家が宗教色に染まる事を警戒しているので、指定された曜日以外での王都内での勧誘を禁止しているんです。宗教が権威を手にした結果、国がどうなるのかは聖国が証明していますから。それをエスデルは恐れて代々宗教勢力の強まりを封じている風潮がありますね。結果、この様な形で説法を始めるのですが……」


「成程。あんがとコランさん」


「いえ、お力になれれば―――人理教会も滑稽ですし」


 ふと零した言葉に、軽い怒りが乗っているのを感じられる辺り、人理教会と魔族の間の溝は相当なものだと感じられる―――まあ、人類至上主義の連中にとって魔族は侵略者なのだからさもありなんという感じだろうか。俺もなるべく関わり合いにはなりたくない連中だ。とはいえ、嫌でも連中の声は響いて聞こえてくる。


「あの深海魔竜、そして溶炎魔竜でさえ姿を見せなくなった! それはこれまでになかった事です! 今、あの魔竜達は失われた主の仇を取る為の大規模攻勢の準備に入っています……!」


 教団の言う魔竜―――とは即ち真竜の事だ。真竜とは龍が直接生み出した眷属の事を示す。つまり原初の時より生き続けている龍の真なる眷属たちの事だ。亜竜はそこから生まれた子世代の竜たちの事を大抵の場合で示している。つまり、今この世に溢れている大半の亜竜達は自然繁殖で増えた個体なのだ。そうではない、龍に生み出された個体はもう僅か―――人類が踏み込む事の出来ない領域に身を潜め、そして人類を攻撃する時に姿を見せる事で龍殺し達の追撃を逃れているらしい。


 まあ、実際はどうなのかは知らないが。会ってみない限りは。会おうとすれば会えるんかあれ?


 ぷにぷにと横から頬をリアに突かれている事実を軽く無視しながらそのままどぼん、とベッドに倒れ込むとリアがお腹の上に倒れ込んできた。それを横で見ているクレアが溜息を吐いて注意してくる。


「皺になるからあまりそういう風に転がらないで欲しいのですけど」


「うす」


「はーい」


 しゃーねーなあ、と起き上がってはー、と溜息を吐く。まあ、別に人理教会が完全なる悪とは言えないだろう。連中のおかげで人類が繁栄出来たのも事実なのだから。だけどそうやって狩られている側からすると……やっぱり、武力を伴った集団が命を狙っているという事に恐怖を覚える。



 とはいえ、窓の外を見て、思う。


 あれならまだ勝てるな。






 コランの言う通り1時間ほどで渋滞を抜けて王都へと入る事が出来た。王都へと入ればやはり目に入る天想図書館は何よりも高く伸びており、嫌でも視界に入ってくる。あんなに大きいと都市そのものが日時計みたいなもんだな、なんて考えてしまう。


 一番目立つのは確かに天想図書館だが、それ以外にも見るべきものがある。


 活気だ。


 エメロードも大都市だったがこっちはその上を行く活気だ。建造物、店舗、住居も2階だけではなく3階や4階のあるものが見える。遠巻きにはホテルらしきもっと大きな建築までも見える。多くの人々が街を歩き、様々な格好の人々が何時も通りの日々を過ごしている。だがその密度と規模が凄い。流石に現代と比較するのは間違っているが、いや、それでも、


 あの頃を思い出させるだけの活気と凄まじさがあった。通りも凄い数の馬車が走っている。


 それを俺達4人―――ここに至っては従者であるクレアでさえも呆然と窓の外の景色を眺めるしかなかったのだ。この姿が田舎者丸出しなのは解っていても、異次元とも言えるこの賑わいと都市の姿には抗えなかった。そこには自分が知る限り、最も近代的なファンタジー都市が広がっているのだから、そりゃあ見入るだろう。


 ここまで来ると、ファッションも偉く近代的なモデルが見えてくる。エメロードは学生服ばかりで、住人も貴族がメインだからどちらかと言うと見栄え重視の服装が多い。辺境はファッション周りにそこまで意識を回す余裕がなく、生活が厳しい事もあって機能性重視という面が大きかった。だが王都の服装は機能性と見た目を両方兼ね備えたデザインを目指している様に見えた。シンプル、しかし見た目が良い。ポケットの多い服装とか、或いはコートに付随しているマフラーの様なパーツとか。一見無駄に見えるけどどこかで機能する様な恰好をしている者が多い。それになんと、スーツ姿の人まで見られるのだ。アレはたぶん魔族かなあ、と思うが。それでも辺境ともエメロードとも違う賑わいに、目を輝かせるしかなかった。


 中央道路、真っすぐ天想図書館へと向かう道には冒険者らしき武装した人たちの流れも見える。本来であれば外へと向かう筈の冒険者の流れも、この都市では仕事が見つからないからと一か所に集中する。


 そういう所を含めて、この王都はかなり特殊な環境だと言えるのかもしれない。


 また同時に、ここはギュスターヴ商会の本拠地でもある。ワイズマン曰く、手打ちをしたしもう手を出してくる事はないから心配しなくても良い……という話だったが、不安は残る。


 そんな期待と不安を胸に、俺達はこの日初めてこの国の中央へとやって来たのだった。

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