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TS龍娘ダクファン世界転生  作者: てんぞー
3章 王国学園・1年生編
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デスペナルティ Ⅲ

 ワイズマンの迎えが来るまで騒いでいたのだから当然目立つし、都市中に見事俺達はヴィンセントの声を響かせる事が出来た。そしてそれが成立してしまえばもう遅い。スラムにいるマフィアが全滅したという事実は後日確実に流れるし、その証拠であるヴィンセントはワイズマンによって確保という名目で保護されている。後は彼が犠牲となった貴族の遺族に受け渡されれば、それで今回アルドとその周辺に向けられた策略を攻略する事が出来るだろう。ヴィンセントも無事に処女を失う事はなくなった事実を泣くほど喜んだ。


 ―――そして場所は再び戻って学園長室、俺達はメタクソに怒られた。


「バッカじゃないの!?」


 ロゼが両腕を組んだ状態で魔力を全身から放出しながらそう声を響かせた。そんな俺達は全員、ロゼの前で正座させられていた。唯一正座していないのは楓ぐらいで、良くやったと十歌に褒められていた。あの極東ルールで生きている生き物たちに関しては議論するだけ無駄らしいので、俺達だけで怒られる事になっている。ちゃんと正座している所が俺達の反省を表していると思う。


「なんで自分達まで巻き込まれてるんすかね……」


「止められなかったからじゃないかなぁ」


「そこ! 私語禁止ッ!」


「うす」


「はい」


 ロゼの視線がクルツとハリアに向けられている内に窓からやって来た猫からワインボトルを受け取り、それを手刀で斬ってあけたらワイングラスを結晶で生成し、中身を注いでダンに渡す。無論、ロゼに速攻でバレる。


「そこ!! 勝利を祝って飲まない!! こら! こういう時のエデンに従わない!」


「にゃー」


 二股の黒猫がロゼに怒られてそそくさと窓から逃亡する。その全てをアルドは頭を抱えて見ていた。シェリルもシェリルで呆然とした表情を浮かべ、ソフィアはリアと並んでソファで眠ってた。ティーナだけはちょっとがっかりした様な表情を浮かべている。アレは私も行きたかったですわね……って感じの表情だ。その血の気の多さはお嬢様としては致命的だと俺は思うぞ。


「解ってる!? 危険は―――いや、どうせ銃程度じゃ無傷よね貴女……」


「うん、撃たれてみたけど無傷だった」


「そう言う所だぞ」


 がー、と吠えたロゼが此方を掴んできてサブミッションに持ち込んでくる。ダメージがない事にはないが、それで平気な顔をしているのもちょっと申し訳ないので、少しだけ苦しんでいる様に吠え返すのがコツだ。ちなみにワインボトルは手放さない。サブミッションを喰らいながらワインボトルから直で飲む。


 はあ、勝利の美酒って美味しいなあ。ワインボトルを片手に味を楽しんでいるとロゼから蹴りが飛んでくる。それを当然のように正座したまま体を横にスライドして回避し、連続で放たれる蹴りをそのまま左右へと体をずらして回避する。ムキになってロゼが連続で蹴りを繰り出し続けるのを回避し続けていると、頭を抱えた状態のアルドが少し待ってくれ、と声を置く。


「つまりなんだ―――君たちは単純に全てが面倒になった結果、マフィアを殲滅して犯人に仕立て上げるのが一番手っ取り早いと思って実行した、という事だよね」


「ああ!」


「雑魚ばかりだったしな」


「皆殺しにしたで御座るよ。明日は残党狩りである。しっかり末端まで処理しておかないと遺恨が残るで御座るからなあ!」


「まあ、銃弾なんて受けても傷1つつかないしな!!」


 俺達3人の返答にそれぞれロゼからのチョップが入り、アルドは頭を抱えた。派閥からの攻撃があったと思って、それで対処に動こうとする前に勝手に従者たちが動き出して解決してくるのだから、そりゃあ頭を抱えるだろう。主としての立場から言えば叱るしかないのだが、結果としてみるとマフィアの壊滅と大幹部の確保と事件の解決で一気に問題を片付けられたのだから、文句もおいそれとは言えないのだろう。その中で、ちゃんと悪い事をしたから叱る、という事を出来ているロゼの精神性がしっかりしすぎているのだ。


「クルツッ! 何故私もあの時誘わなかったんですの!? それでも私の従者ですの!?」


「無茶を言わんで欲しいっすわ。いや、マジで。アレ、お嬢がいてもいなくてもどっちにしろ何も変わらんかったと思うっすわ」


「ふんっ」


「あぁん」


 ドリルビンタでクルツがひっぱたかれた。いや、違う。一瞬だけ伸ばす事でハリセンモードとなってクルツへの衝撃を和らげたのだ。もしかしてあのドリル、形態変更に対して複数のバリエーションを用意している? まだ複数の形態を残しているのか? 胡乱な神の胡乱な加護でも受けて生きてるのかこいつ? というかなんで態々髪でビンタした? もしかしてそういうプレイ?


 俺はティーナとクルツの関係を静かに応援する事にした。


「ダン、貴方がそこまで軽率だったとは思わなかったのだけれど」


「お嬢様、議論は永久に尽きません。納得できる解決法等この世には存在せず、時間は限りなく無限に有限なのです。故に、こういう事態では常に即断即決が求められます。失礼ながら、アルド様には決断力が欠けています。あの場でまず最初に話を聞き、そして何をするか決断を下すべきでした」


「……それが出来なかったから、勝手に行動したと?」


「私はエデンの閃きを妙手だと思いました。そして事実、そうでした。私は常に、最善の選択を取れるとは思っていません。ですが納得できる判断に対しては常に迅速に、そして確実な成果を出せる様に行動する事を心がけています―――あのまま議論が続いたとしても、全員が納得するには相当な時間が必要だったでしょう。違いますか?」


 おー、ダンが真面目な口調でシェリルとアルドを押している。従者の立場なのに言動がちょっと強いなあ、とは思うもののアルドとシェリルは何も言い返せず口を閉ざしてしまった。実際のところ、俺達が成果を出してしまった以上彼らが向ける怒りは無視された事以上の何ものでもないのだ。まあ、時代的にこれだけでも死刑へと持っていけるのがこの時代や世界がダークファンタジーの部類に入る所以なのだが。


 そして視線が此方へと向けられるので反射的に中指を突き立てる。両手で浮かべた中指をそのまま挑発するように躍らせていると、ロゼが神速で中指を掴んで全体重をかけてへし折りに来る。それに俺も対抗して中指でロゼを持ち上げて遊ぶ。割とキレてるのか持ち上げてる状態で顔面に蹴りを入れてくる辺り、ロゼも相当普通じゃないよな、って思う。十歌は別として、他のお貴族様方は割と引いてらっしゃる。


 まあ、辺境で生きるにはこれぐらいのバイタリティがいる。


 と、ぱんぱん、と手を叩く音が響いた。


「さて、そこまでだ。尽くすべき議論があるのは明白だが、時間も遅くなってきた。君たちはそろそろ一旦家に帰り、頭を冷やすべき頃だろう。私も今回の件、ギュスターヴ商会から殴られない様にする為、裏から色々と手を回す必要がある。君たちも今日は色々とあって疲れただろう? 一旦帰り、頭を冷やして考えてみると良い……幸いな事に時間が生まれたからね」


 その言葉に一瞬室内に沈黙が満ちてから同意の声がアルドから上がった。


「そうだね……今日は色々あって疲れたし、この話の続きはまた今度にしようか」


 それに同意するように一組、また一組と部屋を去って行く。そして残されるのはロゼと、俺と、リアと、そして一緒に眠っているソフィアだ。ソフィアだけ従者が存在しない為、俺が学生寮まで連れ帰る事になった。






 ―――が、当然この夜はこれだけでは終わらない。


 ロゼとリアを送り出してソフィアを寮に叩き込んだら、迷う事無く学園長室へと戻った。


 やはり、というか当然というべきか。鍵は開けられており、扉を開けて入ればワイズマンがデスクの向こう側で待っていた。両腕を組んだ状態で待ち構える様なポーズを見て成程、と頷きつつ入室する。


「待たせた?」


「あぁ。凡そ数百年はこの時を待たされた。ずっとこの時、この瞬間を心待ちにしていたとも」


「ふーん」


 適当にワイズマンの言動を流しつつ来客用のソファに座る―――貴族用にあつらえているだけあって、硬さと柔らかさが丁度良い塩梅になっている。いや、まあ、でも、ぶっちゃけ芝生に座り込んでいる方が個人的に好きなのは、完全に種族特性なのかもしれない。それでもたっぷり余裕を見せる様にソファに座り、足を組んでリラックスする様なポーズを取る。貴族でもない身分でこれだけの態度を取ると普通は無礼打ちだ。普通は、という話だが。このエメロードは変人奇人がそれなりに多いのでそれが通じなかったりする。


 そしてそれはこのワイズマンにも当てはまるだろう。ワイズマンはワイングラスを二つ取り出すが、それを片手で制する。


「さっき飲んだからいいわ」


「そうなのか? そうか……」


 どことなく寂しそうな表情をワイズマンは浮かべると自分の為にワインを注ぎ、グラスを手にしてさて、と呟く。


「何を話したものか。私には語りたい事、語り合いたい事が多くある。だがどれもこれも酷く時間のかかる事だ。今夜という時間を無駄に過ごさない為にも、なるべく言葉と質問は圧縮せねばならないだろう」


「つまり?」


「私の講義と同じスタイルで行こう―――質問したまえ、それに私が答えよう」


「それに偽りや誘導がないという保証は」


 その言葉にワイズマンはデスクの下からスクロールを取り出し、此方へと投げて来た。それを広げて確認するのは―――それが、神器と呼ばれる神造のアーティファクトであったことだ。他の物品や人の手では再現する事の出来ない未知と神秘の領域のある品。それが神の作ったアーティファクトだ。伝説や伝承クラスとは比べ物にならない、まさに神話クラスの品。


 そこにはワイズマンのサインと、ワイズマンが一切の嘘偽り、そして思考を誘導する様な真似を契約対象に行わない事を約束する文章だった。……一応小さく、目でとらえられない程に小さく何か追加で書かれていないかを確認するが、そういう事はないらしい。そして俺の嘘センサーにもそういう発覚はない。つまりこれは本物だ。


「契約の神が作った神器だ。そこに書かれた契約内容は絶対に遵守される」


「絶対に?」


「うむ、一生喋る事が出来ないと契約すればその通り、絶対に契約は神の力によって履行されるだろう。新たな肉体、新たな声帯、代理の者を立てる、道具を使う。喋るという事に対する異なるアプローチによって再現を試みようがその全てが不可能となる―――神によって契約の履行が絶対に保証される、そういう契約書だ。それに君の名前を記入すれば、私は今後一切君に対して嘘をつく事も騙す事も出来なくなるだろう」


「……ソ様に確認……しなくても良いか。アンタの言動が本物だって感じられるぜ」


 迷う事無く契約書にサインすれば、次の瞬間には契約書が自動で折りたたまれ、虚空から現れる光る手が契約書を回収して虚空へと持ち去った。契約が履行される。契約の神の手によってそれは絶対として保障される。


「童貞捨てたの何時?」


「28の時だ、ううっ」


「これが神製の契約書の力かぁ」


 早速悪用された契約書の内容にワイズマンは片手で顔を抑えて呻いた。どことない達成感と勝利を感じてガッツポーズを取りつつ笑い、契約書のパワーを感じ取った。これならまあ、安心して質問できるかなあ、と考える。恐ろしいのはなぜ彼がここまでして俺に応えようとするか、という所なのだが。それも今から質問をすれば答えが解るだろう。


 それじゃあ、


「問1、俺が何であるかを知っているか」


「ふぅ……その答えはシンプルに勿論、と応えよう。最後の龍、或いは切望されし龍姫。この世で最も尊い血、もしくは星の子―――ドラゴン。エデン・ドラゴン。それが君である事を、私は実によく知っている」


「成程……やっぱりアルドにあの本を渡したのは俺の興味を引く為か」


「然り、それを通して私にコンタクトしてくれるのを待っていた。ちなみに殿下は君が―――いや、言い直そう。貴女がそうである事を知らない。無論、他に伝えるつもりもない。私はこの秘密を貴女が許さない限りは墓の下まで持って行くつもりだ」


「成程?」


 ワイズマンの偽りのない言葉に首を傾げる。ちょっと解らなくなった。この爺さん、権力に対する欲望や、憎しみや恨みと言った感情を感じられないのだ。俺はそういう人の感情や嘘偽りに対してかなり感覚が鋭い。だからこの人物が、今、明確に興奮を覚えながら俺と接しているのが解る。その証拠に先ほど用意したワインに一度も口を付けていないのだから。つまりあの老木は今、酒を飲む事さえ忘れてこの対談に集中しているという事だ。


 そうなると、猶更なんで俺に会おうとしたのか、或いは知っていたのかが解らない。


「次の質問をどうぞ、私は貴女の質問であればなんでも答え―――いや、待て、もう童貞とかそういう話は止めて欲しい。この枯れ木の恥ずかしい過去をほじくり返すのはなるべく止してほしい。私にも一応、学園の長として残したい威厳があるからね」


「ちょっと心惹かれるけど、ここは一旦その誘惑を断っておく事にしておこう。じゃあ問2、いい?」


「どうぞ」


 ワイングラスを思い出したかのように手に取るワイズマン。その姿を見て、俺にとって重要な疑問を口にする。


「俺の事を、どこで知った」


 一番重要な事だ。この答え次第ではワイズマンも、その背後に誰かが背後にいるのであれば―――そいつも殺す必要が出てくる。残念だが俺の安全と平穏は薄氷の上にある事は認知済みでもある。そしてそれを守り続けるには敵を殺し続けるしかないのだ。俺がどれだけ苦しんで、嫌がっても、それでも敵は殺さなければならない。そうしなければ平穏は守れない。人狼との戦いで俺が覚えた一つの真理だ。躊躇してはならない、迷ってはならない、臆病になってはならない。殺す必要があればすぐに殺せ。


「あぁ、瞳をそんな物騒な形に変えないで欲しい。無論、貴女に私は偽る事は出来ない為、満足納得できる所まで話そう」


 自分の瞳が龍本来の爬虫類の様な瞳孔へと戻っていたのを瞬きをして戻しつつ、ワイズマンの言葉に耳を傾ける。


「話は数百年前に遡る、私がまだ60過ぎの頃の話だ」


 改めてそうやって老木の年齢の話を聞くと、相当昔から生きている事が解る。確かリアがこの老木は建国王と友好があったという話をしてたか? 建国そのものに関わっている事を考えると、或いは現代で生きている最古の部類なのかもしれない。


「私がまだ若く、愚かだった頃の話だ。今でさえまだ己の事を愚かだとは思うが―――まあ、話は長くすればするだけ嫌われよう。結論に至ろう」


 私は、とワイズマンは告げる。


「―――龍に会った。彼の者は貴女への遺言を残し、何時か目覚め私に会うであろう貴女の存在を予言し、その身を大地へ返した。その日、その時、あの場所で私と会う為だけに生きていたこの世で最も偉大な存在に私は触れたのだ」


 ワイズマンは告げる。


「私はメッセンジャーだよ。貴女へと同胞の言葉を伝える為の。その為にこの数百年を過ごしてきた」


 続ける。


「貴女には知らなければならない事がある。私の仕事は―――貴女に、龍としての事を伝え、教える事だ。私が貴女を知っているのはそれが理由だ」

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