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王宮にて

「エレナ殿下、アイシャから手紙です」

「どれどれ」


 家臣から手紙を受け取ったエレナは中の文面を読む。そこにはアルスに接触したが、彼は酷く怒っており、賢者の石を直すことと引き換えに一か月あたり金貨百枚の報酬と、彼を大臣にすることを要求してきたがどうしよう、というアイシャからの報告が書かれていた。


「この身の程知らずが。再び王国の国境を跨げるだけでもありがたいと思わないのかしら」


 手紙を読んだエレナは眉をぴくりと動かす。

 それを見て傍らで政務をしていた大臣のムムーシュが口を開く。


「エレナ様、わたくしには分かります。彼は本当に怒っているのではなく、報酬を釣り上げるためにそのような演技をしているのです」

「なぜそんなことが分かるの?」

「本当に怒っているなら金銭の要求などせずアイシャを斬り殺すか追い返すでしょう。それにエレナ殿下には縁のないことでしょうが、報酬を釣り上げるために怒っている振りをするのは下々の常套手段なのでわたくしにはお見通しです」


 ムムーシュはこれまで金に汚い者としか接したことがなかったため、そのような駆け引きが常識になっていた。そして彼自身も自分の利益を得るためならそういうことをすることも厭わない人物であった。だから周りの人物が皆そう見えるのだろう。

 ムムーシュの言葉にエレナは再び眉をひそめたが、溜め息をつく。


「なるほど、彼も結局金に汚い人物ということね」

「その通りでございます。また月金貨百枚、大臣への就任というのは交渉をする際に自分の本音より高い条件を最初に提示して妥協した振りをして本当に欲しい条件を達成すると言う手段でございます」


 実はそう思わせてエレナを油断させることがアルスの作戦なのだが、ムムーシュは本心からアルスが金と地位欲しさにこの条件を出したと思っていた。


「ということは実際のところはどの辺かしら」

「月に金貨五十枚、宮廷錬金術師への復帰というあたりでは? もっとも、賢者の石が直った暁にはどうせ処分する以上関係ないことですが」

「何を言っているの。こんな滅茶苦茶な条件をそのままこっちが飲んだら私たちが殺すつもりであることがばれるでしょう」


 石だけ直させ、アルスは処分する。エレナは密かにそう決意していた。

 一度追放した相手に頭を下げて呼び戻し、その後何食わぬ顔で一緒にいるなどということはプライドの高い彼女には出来そうになかった。


「確かにそうですな。一度追放された末に大臣にしてやるから戻ってこいと言われたら普通は疑うでしょう」

「まあ、精いっぱい譲歩してその条件でなら、ということで手紙を返しておこうかしら」


 こうしてお互い本気ではない条件のやり取りが行われるのであった。



数日後

「エレナ様、再びアイシャからの手紙です」

「どれどれ?」


 手紙によるとアイシャはなおもしぶっていたアルスをどうにかその条件で納得させたと書いていた。そのため、アルスと一緒に王都に向かうので赦免状が欲しいと書かれている。

 アルスは永久追放されているため、誰かの赦しがなければ王国に入ることが出来ない。


「まあ仕方ないわね」


 それからアルスは追放先で身の回りを世話させるためにメイドを雇ったため、その二人も通行させて欲しいと書かれている。アイシャによると、どうもこの二人はアルスの愛人的な存在らしい。


 実際のところそうではなかったが、アルスとアイシャは相談してエレナが油断するような書き方をしていた。それを見てエレナはすっかりあきれ果てる。すでにアルスの印象操作により、エレナの中でアルスは金と女に目がない欲深い男ということになっていた。


「全く、追放先で女を作るなど許せないけど、まあ今はそんなことどうでもいいわ」


 実際のところ賢者の石の暴走はさらに酷くなり、今では兵士を動員して民間から魔力のある者を連れ去って片っ端から監禁しているという状況であった。


 今のところ反発はエレナの権力で抑えこんでいるが、いずれ石の暴走が抑えきれなくなるか、有力貴族から反発があるのは明白であった。


 が、石さえどうにかすればエレナはこの状況を全てクルトのせいにして乗り切る自信があった。


「いいわ。彼の赦免状と三人分の通行証を出してあげる」


 こうして必要な書類を用意したエレナはアルスを殺す準備を固めるのであった。


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