第47話 眠り姫が倒れて
白音が倒れてからの記憶は曖昧だ。
人が目の前で倒れる、という経験は初めてだった。
それがクラスメイトの女の子となれば尚更だ。
狼狽しつつも、叶多は白音を抱き上げる。
……思っていた以上に軽い。
万が一にでも落としてしまったら、バラバラになってしまうんじゃないかという怖さがあった。
ガラス細工を扱うように慎重に、白音をベッドに寝かせる。
彼女の息は荒く、表情には苦悶の色が滲んでいた。
(とりあえず……何をすればいい? 水か……いや、ポカリの方が……)
叶多は、以前白音に看病してもらった日のことを思い出した。
冷蔵庫の中身を確認する。
お茶や水はあったが、ポカリは見当たらなかった。
(コンビニに……)
買いに行こうと決めて、とりあえずペットボトルに入れた水を白音の枕元に置く。
「白音、聞こえるか?」
俺の問いかけに、白音がうっすらと目を開ける。
「ちょっとコンビニでポカリを買ってくるから、ちょっとの間だけ留守番をして……」
……きゅっ、と小さな手が叶多の袖口を掴んだ。
白音がふるふると、首を振って言う。
「ポカリは、いい……ですから……」
──そばにいてください。
小さな声だった。
「……わかった。ここにいる」
叶多が言うと、白音は安心するように微笑んだ。
「すみません……ご迷惑をおかけして……」
「いや……気にしないでいい。叶多も、助けてもらったし」
思えば、あの時の白音の看病の手際は凄かったんだなと感嘆する。
ポカリも飲ませてくれて、お粥も作ってくれて……。
白音に比べたら、叶多はただそばにいることしかできない。
言いようのない無力感が身を蝕み、焦りが生じて叶多は尋ねる。
「本当に、大丈夫なのか?」
「……はい、平気です。多分、ちょっと疲れが溜まってただけなので……しっかり寝たら、無問題です」
そう言って、白音は力無く笑ってみせる。
いや、大丈夫じゃないだろうと思うのだが、こんなに弱った今の状態では先程の、添い寝のせいなんじゃないか云々の話を蒸し返す気にもなれない。
今はただ、白音が回復するのを待つしかないと思った。
「あの……叶多くん……」
「ん?」
「お願いがあるんですけど」
布団を口元まで覆った白音がおずおずと言う。
「叶多に出来ることなら……」
「……手、握って欲しいです」
……。
叶多は無言で、白音の手に自分の手を重ねた。
「ありがとう、ございます」
とても安心し切った、嬉しそうな声が鼓膜を震わせる。
「叶多くんの手……暖かくて、とても安心します」
その言葉を最後に、白音が目を閉じる。
白音が寝息を立て始まるまで、叶多は小さな手を握り続けた。
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