68 建築予定地
公爵邸にて。
ああじゃないこうじゃないと4人で意見を交わしていると、ローレンツさんが招いてくれた業者さんが俺たちのいる応接室へとやってきた。
見た目50代ぐらいで、清潔感のある男性だ。名前はロベルトさんというらしい。
どうやら彼は、フェノンほど知名度のない俺やセラのことも知っていたようで、俺たちを終始よいしょするような発言をしていた。
あれだけ武闘大会で目立ってしまったのだから、顔を知られていてもおかしくないか。あまりに褒めるものだから、背中がムズムズしてしまう。
だが、それに対して俺はイヤらしさを感じなかったし、ロベルトさんは王女様を前にしているのにもかかわらず、おどおどした様子もない。公爵邸に呼ばれるぐらいの場数は踏んできているということだろうか。
数時間にわたり建物の細部を話し合ってから、俺たちはロベルトさんと共に実際に現地へと赴き、建築する場所を決定。
彼は先っぽに赤いハンカチが取り付けられた杭を数箇所に打ち込むと、さっそく準備に取り掛かるらしく、俺たちに丁寧な挨拶をしてから一足先に帰っていった。
「ここ、まじ最高だわ。見に来てよかったな」
Bランクダンジョンと、Aランクダンジョンのちょうど中間あたり。
どちらのダンジョンにも徒歩10分ほどあれば行くことのできる素晴らしい立地だ。
さらにこの場所は周りから見ると小高い丘のようになっており、一番高い場所に立つと周辺一帯を見渡すことができた。眺めも最高だな。
テンペストには新しく家を建てるなんて機能はなかったし、こんな場所に目を向けることなんてなかったからなぁ。
ゲームの中で見た、いたるところに点在している風景の一部と化していた小さな農村も無くなっているし、この地形もテンペストに存在していたのかは不明だ。
そういうわけで、俺はいまとても新鮮な気持ちを味わっている。
空を見上げるように寝転がり、自然のクッションを堪能することにした。
「確かに、ダンジョンに通い詰める私たちには理想的な場所だな。2ヶ月後が楽しみだ」
セラはそう言いながら俺のすぐ隣に腰を下ろし、同じように空を見上げた。彼女の真っ赤な髪が、風によってゆるやかに流れる。その姿はまるで一枚の絵画のようだ。
「レベル上げをしてりゃ時間なんてすぐ経つさ」
俺がそう言うと、彼女は少し離れたところで景色を眺めているフェノンとシリーを横目で見てから「エスアールはそうかもしれないな」と苦笑した。
「……私は大丈夫だが、ダンジョンの中というのは想像以上に神経を削る。いつ魔物に襲われてもおかしくない場所だからな。フェノンやシリーには少し配慮してやってくれると助かる」
彼女は申し訳なさそうにしながらそう言った。
セラがそんな表情をすることはないんだがな。
「ほぼ毎日ダンジョンだからなぁ。少し頻度を減らしたほうがいいと思うか?」
「そうだな。本人たちに聞いたわけじゃないからなんとも言えないが」
……ふむ。
別に彼女たちのレベル上げをしなければ世界が破滅するわけでもあるまいし、俺としてはどちらでもいいんだが。迅雷の軌跡と同様、俺たちはすでにこの世界の最前線を走っているわけだし。
彼女たちとダンジョンに潜るのも行楽気分で楽しい。
一人で戦いを楽しむのも有りだ。
「フェノンもシリーも、きっとエスアールが望めば休みなくダンジョンに潜るだろう。こちらから気に掛けてやらねば、気付かぬうちに疲れが溜まっているかもしれないぞ」
「あぁ……フェノンとか特にそうなりそうだわ」
「だろう?」
彼女の言う通り、休みの日を少し増やしたほうがいいかもしれないな。
ゲームと違い、この世界の人にとってダンジョンは文字通り『命がけ』の場所だ。もちろん俺も今となっては命がけで潜っているのだけど、経験の差は歴然。特に、高難度のダンジョンに関しては。
俺にとっては高難度とも言えないようなBランクダンジョンでさえ、彼女たちにとっては最高クラスに危険な場所だ。Cランクダンジョンで多少経験を積んだとはいえ、そんな場所に毎日のように潜ることになれば、確かに精神的に疲弊もするだろう。
今の俺はこのパーティのリーダーだ。
セラの言う通り、メンバーのこともしっかりと気に掛けておかないとな。ゲーム時代と違って、ソロじゃないんだし。
俺は反動をつけて勢いよく立ち上がると、フェノンとシリーに手を振りながら「おーい」と声を掛けた。彼女たちはすぐさま小走りでこちらへと駆け寄ってくる。
「どうされました?」
なになに遊んでくれるの? ――そんな子犬のような眼差しを向けながらフェノンが言う。
「セラと話をしていたんだが、少しパーティでのダンジョン探索の頻度を減らそうかと思うんだ。いままでは七日に一度の休みだったが、もう一日休日を増やさないか? 具体的には――そうだな、3日ダンジョンに行く毎に休みにしようか」
俺がそう言うと、フェノンは喜色満面の笑みを浮かべて、胸の前で手を合わせる。
「でしたら、その増えた休みの日はお出かけの日にしませんか!? もちろん、エスアールさんも一緒に!」
それはもう嬉しそうに、俺が断ることを微塵も考えていないような雰囲気で、フェノンがそんな言葉を口にする。
本当は浮いた一日も一人でAランクダンジョンに行こうかなぁと考えていたけど、彼女たちとのんびりする時間も大切か。というかこの状態のフェノンに『俺はダンジョン行くから』なんて罪悪感で押しつぶされてしまいそうな言葉は言えない。
「ははは、わかったよ。じゃあ増えた休みはみんなでのんびりしようか」
「うむ、それがいいかもな。別に無理に出かけなくとも、せっかく新しく家を建てるのだしゆっくり家で過ごすのもいいんじゃないか?」
「その時は、お料理頑張ります!」
話を聞いていたシリーも、張り切った様子で力こぶを作り、そこをペシペシともう片方の手で叩く。ぷにぷにしてそうな感じだな。その柔らかそうな二の腕触らせてください。
「……あー、コホン」
芽生えてしまった若干の下心を隠すように、俺は真面目な表情を作ってから手を二回打ち鳴らす。
「しばらくはこのレーナスのBランクダンジョンに通うことになる。フェノンやシリーは俺たちがいるからといって安心するなよ。当たりどころが悪ければ、一発であの世行きなんてことも十分ありえるからな。それと、セラは武闘大会でいい結果を残せたとはいえ、俺から見ればまだ粗い部分がある。慢心せずに一つ一つ丁寧に対処するように。いいな?」
「はい!」「わかりました」「わかった」
三人からやる気に満ちた言葉が返ってくる。
彼女たちを見ていると、パーティリーダーをやっている――という実感が湧いてくるな。
もしかするとこの先、俺たちの前には様々な試練が襲ってくるかもしれない。それはフェノンの時のような病気によるモノだったり、俺が苦戦するような強敵かもしれない。
だけど、俺は彼女たちと共に戦えば――俺を傍で支えてくれていれば、どんな困難でも乗り越えられる気がした。
そう。
彼女たちが、この世界から消えさえしなければ。
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