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【コミカライズ】俺、勇者じゃないですから。~VR世界の頂点に君臨せし男。転生し、レベル1の無職からリスタートする~  作者: 心音ゆるり
アフターストーリー

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Aー148 庭園にて




 その日、俺は珍しくリンデールの王城にやってきた。すなわち、フェノンの実家である。


 平々凡々な庶民として地球で生活していた俺には、どれだけ通っても落ち着くことのできない、非現実的な場所である。なんて言えば伝わるんだろうな……観光施設に毎日通ったって、そこが『自分が生活する空間ではない』という感覚は消えないというか。


 ともかく。


 本日はセラ、フェノン、ノア、シリーの四人とともに、王城に付属する庭園――その中央にある、いくつもの豪奢な装飾が施された柱が支える屋根の下で、ティータイムに勤しんでいた。本日は晴天、休日なり。


「もう、シリーも座って良いって言ってるのに」


 久しぶりのメイド服を身に着け、ニコニコと楽しそうに紅茶を淹れてくれているシリーに向かって、フェノンが拗ねた様子で言う。


 シリー、家でも最近じゃメイド服はあまり着ていないもんなぁ。今じゃ冒険者の装いをしているほうが馴染んできている気もするが、やはりこの姿を見ると、シリーらしいなと思ってしまう。別に使用人仕草がお似合いだ――みたいなことを言いたいんじゃなくて、自然体みたいな感じ。


「たまにはいいじゃないですか。私、こうしているの好きですから」


「確かに楽しそうにはしているけれど……あなたも将来は私たちと同じ立場になるんだからね? そこのところ、きちんと理解しておきなさいよ?」


「第一夫人と第三夫人では立場は違うと思いますけど。というか、むしろ私は側室に入れていただくだけでも……」


 シリーがちらっとこちらに視線を向けてから、照れた様子で言う。


 うん。前々からシリーとの婚姻のことも考えていたけれど、ここ最近でお互いの気持ちをきちんと二人きりで面と向かって話し合い、今後の話ではあるが、フェノンやセラと同様に結婚することになった。


 今のところ、シリーが「フェノン様やセラさんのお子様が先です」と待ったをかけている状態である。ちなみに、ノアはブーブーと「僕はいつなの~」と文句を言っていた。


 お子様は静かにしてなさい。


「そんなこと気にしなくていいの! 世間体とか色々あるのはわかるけど、私たちってある程度わがままが許される立場じゃない? それに、これからは私たちの行動が、そのまま世界の普通になるんじゃないかなって考えたりするの」


「ふむ……フェノンの言う通りかもしれない。私たちの形が見本になる――というのも十分にあり得るだろうな。何よりいまは探索者の成長によって世界が大きく変わっている最中だ。些細なことではあるが、第一王女とメイドが同じように扱われる未来があっても、悪くはないだろう」


「それが当たり前になって、差をつけるのが異端になったりしてな。俺としても、誰かひとりを特別扱いしたり、誰かひとりをないがしろにしたくはないから、フェノンたちがそう言ってくれて助かるよ」


「ふふっ、エスアールさんのことはなんでもお見通しですよ。ただ、そこを無視しても、私はシリーとこれまで通り仲良くしたいわよ? あ、これまで通りって言うのは、ダンジョンを探索していた時のように仲間としてね?」


「まったくもう……陛下に怒られたらフェノン様がなんとかしてくださいよ」


「大丈夫大丈夫! お父様はなんだかんだ言って私に甘いし、文句を言って来たらコテンパンにしてやるわ」


 そう言って、シュッシュッとシャドーボクシングのような仕草をするフェノン。なかなかの風切り音である。一般人が見たら青ざめてしまいそうな音だ。


 しかし……フェノンはすっかり武闘派王女様になってしまったなぁ。ごめんなさいゼノ陛下。娘さんの命救うだけにとどまらず、元気というか活力というか、その辺りがオーバーフローしてしまったようです。


 ごめんなさい――とは言ったけど、俺は今のフェノンが好きなんだけどな。フェノンの家族たちもそう思ってくれていることを祈るとしよう。


「これからは――というか、まさにこの時代だが。私たちのような探索者が強い権力を持つ――探索者一強の時代が来るだろうな。王国の騎士たちも、毎日のようにダンジョンに通わないと探索者たちにどんどん遅れを取ることになってしまう。いつものように対人訓練や演習をしているばかりでは、差が開く一方だろう」


「まぁそうだろうなぁ……権力云々は俺にはよくわからないが、たぶん探索者が徒党を組めば、国を亡ぼせるぐらい強力になってしまいそうだし」


 それに現状、国が探索者の強化を防ぐためにダンジョンへの立ち入りを制限なんかしたりしたら、それこそ暴動のきっかけになりかねない。


 そんなことを考えていると、大人しく大人っぽく優雅に紅茶を楽しんでいたノアが、「そこは心配しなくてもいいんじゃないかな」と口にする。


「いまの探索者のトップ層の人たちって、人間ができてるというか、むやみやたらに暴れるような人たちじゃないでしょ? それに、国同士も仲が悪いわけじゃない。数十年後になったら、戦争の一つや二つ起こるかもしれないけどさ。今すぐはないと思うよ」


「力を蓄える時期って感じか」


「そんな意識もないだろうけどね。でも、どの国も危機意識はあるんじゃないかな? 自分の国だけ探索者が育たなかったら、他国に抗うすべが無くなっちゃうから」


 戦争とかそんな暗いことは考えたくないなぁ。今のところそんな予兆は微塵も感じられないし、案外、今この時期が、数十年後に世界がどんな風になっているかの分岐点だったりするのかも。


「私たちの子供のためにも、平和な世の中にしていきたいですね」


「うむ。それと、我が子たちが身を守れるよう、幼少期からダンジョン探索の指導をしよう。私たちの子供ともなると、誘拐なども十分に警戒せねばなるまい。万が一の時のために、子供だけでも対抗できるようにしておいたほうがいいだろう」


「あー……それはたしかに怖いな。でも、ダンジョンって年齢制限あるだろ?」


「いちおう十二歳からではあるが……法は変わるものだ」


 ふっふっふ――とセラが悪どい表情を浮かべて笑う。自分の子供のためだったら法律ぐらい軽く破りそうな顔だ。子供が大切な気持ちは俺も同じだが、世界の秩序を乱さない範囲で過保護になってほしいものである。


「お兄ちゃんたちの子供を誘拐なんて、自殺志願以外のなにものでもないでしょ。文字通り、世界が敵に回るよ? ファンは多いんだし、味方も多いんだし、保護者たちが強力過ぎる」


 もちろん僕もね――と、肩を竦めながら、ノアが呆れたような表情で言う。そして、そこにさらに言葉を付け加えた。


「なによりさ、そんなことをイデア様が許すとは思えないんだよね。いくら下界のこととはいえ、お兄ちゃんってイデア様のお気に入りだろうからさ。セラやフェノンたちだけならともかく、お兄ちゃんが関わっているなら、黙ってないよ。そういう意味では、『保護者』の中に神様も含まれてるってことだよね」


 元創造神の言葉に、セラとフェノンが「なるほど」と明るい声で言いながら手を合わせる。どうやら安心したようだ。子供のことや将来のことについて色々考えてしまう時期だろうし、ナイスだノア。俺の好感度が3ポイントぐらい上がったぞ。


 そんな俺たちをよそに、少し離れたところで給仕らしく直立不動の姿勢を保っていたシリーが、ボソボソと「いつか、私とエスアールさんの子供も……」なんて可愛らしい独り言を口にしている。


 照れ臭いので、難聴モードに切り替えて聞かなかったことにした。




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