Aー140 黒騎士
シリーがざっくりと書いてくれた地図を頼りにして、各国へつながる六つの転移の魔法陣――その中央へ俺たちは向かった。道中で運よくボスに遭遇して、そいつはクレセントと翡翠がボコっていた。住居購入のためのコインゲットである。
セラたちに関しても、俺たちがいつでも助けに向かえるような状態で魔物を倒してもらったりしたのだけど、俺の想定以上によく動けていた。
彼女たちのステータスはまだ足りていないだろうが、よほどノアのしごきがきつかったのか、このSSランクダンジョンでも二体同時ぐらいまでなら三人でなんとかなりそうな感じだった。
まぁそれはいい。本題は中心に何があるのか――だ。
「へぇ……こういうパターンか」
周辺は森。その中のひらけた場所に、俺たちの目的地はあった。
直径三メートル、高さは十五メートルぐらいだろうか? それぐらいのサイズの石柱が、円を描くように等間隔で地面に埋まっている。学校のグラウンドぐらいの広さかな。
「やっぱり何かイデア様は用意していてくれたみたいだね。お兄ちゃん相手だと、このSSランクダンジョンでも物足りない感じ立ったもんね」
「いやまぁ、それでもある程度楽しめてたぞ? 他のダンジョンと違って、いろんな種類の魔物が同じフィールド出てくるんだから、それだけ対応も変わってくるし」
「それでも危うげない戦いだったじゃん」
「そりゃベノムクラスが出てくれないとな」
いまからベノムと戦えと言われたら、まぁやってもいいかなってぐらい。だってもう勝っちゃってるし。挑戦のしがいという意味で言えば、もうゼロに等しい。
あーでも、もしベノムと戦えるっていうのなら、今度は縛りプレイでやってもいいかもしれないな。それこそ三次職禁止とか――いや、それじゃダメージ量が再生に追いつかないから無理か。
というより、ソロ討伐がそもそも縛りプレイみたいなもんだし。
「SRさん、中心に行ってみてもいいっスか?」
「おう、死なないようにな~」
「殺されるぐらいの敵が出てくればそれはそれで本望ですよ」
俺の言葉に返答して、クレセントと翡翠がテクテクと中心に向かって歩いて行く。真ん中に特別何かあるわけではない。石柱に囲われている場所は、ただ足首の高さの雑草が生い茂っているだけである。
ここにレジャーシートでも敷いてお弁当とか食べたいかも。
「もしかしたら、転移陣周辺のように魔物が近づかないエリアになっているのではないか? 森の中心だから、安全地帯は有用だろう」
「たしかに、休憩地点として使えたらいいですね」
セラとシリーがそんな会話をしている。
セーフエリアかぁ。それはありがたいっちゃありがたいけど、俺としてはまだ見ぬ敵が出てきてくれたほうがよっぽど嬉しいんだけどな。
むしろ俺たちが歯が立たないような敵が出てくれたら最高だ。このイデア様が作ってくれた新しいダンジョンは、ゲームのテンペストのように死んでも死なないのだから。
「私たちも行ってみますか?」
フェノンから声を掛けられたので、「そうだな」と返事をしてクレセントたちのあとを追う。
その時だった。
「――っ! SRさーん! なんかシャボン玉みたいな光が集まってるっスよー!」
「石柱のてっぺんから光が集まってるみたいだね」
クレセントと翡翠の言葉を聞く前に、俺もその光景を視界に入れていた。キラキラと日の光を反射して、七色に輝いている光の粒。それが中心にどんどん集まっていた。
念のためセラたちは下がらせた。どこまで安全なのかはわからないが、念のため石柱の外側まで。
というかノアは別にセラたちと一緒に下がらなくてもいいんだぞ。お前はどちらかというと俺たちよりだろう。腐っても元神様なんだから。
そして、だいたい光が集まりだしてから一分が経った頃、急激に小さくなった光の塊が、爆発するように広がった。
「おわっ!?」
「――っ!」
クレセントと翡翠は、その光に吹き飛ばされる。俺はそこそこ外側――中心よりも石柱が近いような位置にいたのだけど、彼女たちと同じように飛ばされた。
痛みはない。トラックにぶつかったというより、空気の塊に押しのけられたって感じだった。
俺たち三人はそれぞれ石柱を足場にしたり、回転しながら勢いを殺したりして、中心に目を向ける。
そこには、一人の人間?が立っていた。身長は二メートル五十ってところか?
濃い紫――ほぼ黒に近いような色の甲冑で全身を包んだ騎士である。
右手には剣、左手には盾。どちらもまがまがしい色をしており、特に剣はうねうねと蛇のように曲がっていて不気味だ。
「おー、なんか強そうなオーラを感じるっス!」
「オーラとか別にわかんないでしょ。ただそうあって欲しいって願望なんじゃない?」
「まぁ一理あるっスね! SRさん、まずは先遣隊として私たちが突っ込んでみてもいいっスか?」
「あぁ……というか、もうお前がターゲットになってるみたいだぞ」
騎士の視線(兜のせいで目はおろか肌の色すら見えないけど)はクレセントに向かっており、そして足もゆっくりと彼女に向かって動いて――いや、来るか!?
ドン――と地響きのように踏み込む音が響いて、黒騎士はクレセントの目の前にまでやってきた。腰を落とし、蛇腹の剣を居合のように構えている。
「なかなかのスピードタイプっスね!」
しかしクレセントは焦らない。すでに戦闘態勢は整っており、後ろに跳びのきながらも彼女の持つ曲剣は黒騎士の剣を受け流すべく動いていた。さらに黒騎士の背後には、翡翠がまるで暗殺者のごとく気配を消して移動しており、俺が愛用している小太刀――白蓮を振りぬかんとしている。
「――嘘っ!?」
黒騎士は、蛇腹の剣をそのまま振りぬいた。その剣の速度が、予想以上に速かった。しかも、力も強い。クレセントは弾き飛ばされて石柱に激突し、背後にいた翡翠も遠くまで吹き飛ばされた。
ほー……ふむふむ、これはちょっと期待していいかもしれないぞ。
というか、俺も混ざっていいんだろうか? それともクレセントたちが負けないとダメ?




