Aー135 さぁ調査するぞー(棒)
ダンジョンから出て、予定通りレグルスさんに『明日から潜るのでよろしくお願いします』と伝えた。バレないだろうかとひやひやしていたのだけど、レグルスさんはまったく別の部分を俺に指摘してくる。
「お前はセラたちに一日休養を取らせるんじゃなかったのか……?」
「……そんなこと言ったような気がしなくもないですね」
「じゃあやはり明後日か?」
「いや、明日行きます」
だってネスカさんに『明日の昼頃何食わぬ顔で出てきます』って言っちゃったし。今からまた言って『やっぱり明後日になりそうです!』なんて報告しに行くのもなんだか馬鹿らしい。
新発見に浮かれて頭がパーになってしまっていたなぁ。戦闘のこと以外となると、複数のことを同時に考えるのは苦手だ。
「幸い、今日クレセントたちは家でのんびりするようですし、セラたちもSランクダンジョンですからね。明日が入場不可ってことはないですから」
クレセントたちは今朝、俺がレグルスさんと話したあとに宿に行って現状報告をしたのだけど、『いつもダンジョンばっかりでも詰まらないっスから』なんて言っていた。クレセントも翡翠もダンジョン好きであることはたしかなのだろうけど、たぶん俺ほどじゃないのだろう。
「長旅になるんだろ? 準備をしっかりしておいたほうがいいんじゃないか?」
「準備はもうできてるんで。セラたちもたぶん大丈夫でしょう」
「……俺に何か隠してないか?」
ちぃ! 余計なところで勘の良さを発揮しやがってこのスキンヘッドめ!
レグルスさんの訝しげな視線を正面から受けて、思わず俺は視線を横に逸らす。――が、慌てて元の位置に戻した。
「か、隠すことなんて何もないですけど?」
「…………まぁそういうことにしておいてやる。じゃあ明日からパルムール方面に向けてダンジョンを進むってことでいいな? あちらにもそのように伝えておくぞ?」
「はい、それでよろしくお願いします」
やや早口、そしてやや速めのお辞儀をして、俺は逃げるようにギルドを後にした。
あーやばいやばい。絶対レグルスさん俺のことを怪しんでるよ。ちょっとフライングしちゃっただけで、そこまで悪いことをしているわけじゃないんですけどね? 本当のこと言ったりしたら、げんこつ落とされるだけじゃなくて、何かしら行動制限されちゃいそうだし?
別にそれを律儀に聞かずに勝手に行動するということもできてしまうのだけど、リンデールで穏やかに過ごすためにも、きちんと規則は守らないといけないからな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
セラたちに休みを与えるということに関して――これは俺が勝手にレグルスさんに伝えていただけで、彼女たちに『明日は英気を養えよ~』と言っていたわけじゃないから、Sランクダンジョンから帰ってきたASRのメンバーに『明日から一緒に潜る』と伝えると、普通に喜んでいた。
どうやら休みではなくとも、ノアの修行が無くなるだけで彼女たち的に万々歳らしい。まぁ彼女たちも嫌々やっているわけじゃなくて、あくまで自分のための修行だからな。そう頭でわかってはいても、色々精神的には大変なんだろう。
「今日は俺たちが戦うから、セラたちは休憩がてら見学ってことにしておけよ。見るのも勉強の一つだからな」
新SSランクダンジョンに入ってから、俺はセラたちに声を掛けた。
探索のメンバーは、俺、クレセント、翡翠、セラ、フェノン、シリー、ノアの七人。ノアも修行モードではなく、俺の妹兼恋人ムーブになっているので、非常に穏やかだ。
「まぁ今日ぐらいは普通にお兄ちゃんとの休みを満喫してもいいんじゃない? ピクニック気分でさ。彼女たちはここ最近、すごく頑張ってたからね~」
「おぉ、なんか優しいなお前。めちゃくちゃスパルタなイメージだったんだけど」
「そりゃ普段は命の掛かってる戦いなんだから、厳しくしないとダメでしょ。今日はお兄ちゃんとかクレセントと翡翠がいるから、心配のしようもないし」
「まぁそりゃそうだけど」
自分で言うのもなんだが、彼女たちが勝手に突っ走ったりしない限り守る自信はある。俺だけでも問題ないのに、そこにテンペストのランキング一位パーティだったクレセントと翡翠もいるのだ。どれだけ気を抜いていても大丈夫な気がする。
しかも、このダンジョンじゃ死んでも死なないし。
「このダンジョン内ではまだ難しいだろうが、もう少し時間があれば足手まといにはならないようにできると思うぞ」
セラがまずそう言って、
「いつかエスアールさんと肩を並べられるぐらいになりたいですね」
「気付いたら私もすごく強くなってますよね……ただの待女でしたのに」
フェノンとシリーがそれに続く。いやほんとにね。セラは伯爵家の娘だし、フェノンは王女だし、シリーはメイドだし。
そのメンバーが国で指折りの探索者ってのはなかなか面白いことになっているよなぁ。
その後、セラたちのレベル上げの進捗を聞きながら、まずコインで購入した住居にやってきた。案の定というか、予想通り、部屋に入室できるのは五人までだった。
気を利かしてクレセントと翡翠が「私たちは退去して良いっスよ?」と言ってきたのだけど、これはこれで残しておくことにした。家はいっぱいあるんだし、コインもたぶんまだまだいっぱい集められそうだし。
結局家には入らず、その手前の道沿いでしばしの休憩を挟み、再びパルムールを目指して歩き始める。
「……お兄ちゃん?」
「ん? どうした?」
テクテクと歩きながら、少し先で魔物と戦うクレセントと翡翠を見ていると、ノアが俺の隣にやってきてコソコソと声を掛けてきた。
「あのね、僕、心読めるんだけど?」
「なにを今更なことを言ってるんだ? それぐらい言われなくてもわかってるぞ――というか、勝手に心を読むなとあれほど――」
いや、待って? 心を読めるってことはつまり?
「なーんか、お兄ちゃんの歩き方が明確にどこかを目指している感じだったから気になったんだけど、昨日、パルムールに繋がる出入口を見つけてたんだね」
「……お願いだからみんなには内緒でお願いします」
「セラとかフェノンとか、お泊りだってはしゃいでたよ? 野営用の道具も新調してたりしてるみたいなんだけど。シリーも、お弁当を数日分作ってたみたいだし」
「絶対バラさないように頼む」
「えー、どうしよっかな~」
「……何が望みだ」
「じゃあ向こうに着くまで手を繋いで?」
「まぁ、それぐらいならいいけど」
というか、別にお願いされなくても俺の手ぐらい勝手にとればいいだろうに。ちっこいんだから、はたからみても違和感ないだろうし。妹ムーブとか恋人ムーブをするならそれぐらい普通だろう。
ちなみに、俺の反対側の手はフェノンが握ることになった。五分毎に、セラとシリーと交代するような形で。
「いちゃいちゃばっかりしてないでこっちもちょっとは手伝ってくださいっス! 魔物三体こっちに来てるんスよ!」
「なに? クレセントも俺と手を繋ぎたいの?」
「べ、別にそんなこと言ってないっスけど!?」
ちょっとからかってみたら、顔を真っ赤にしていて面白かった。魔物はきちんとクレセントと翡翠と俺で楽しく倒させていただきました。




