Aー106 Sランクダンジョン
フェノンたちと出かけた翌日。
本日はフリーということで、俺はSランクダンジョンへとやってきていた。
メンツはノアと俺の二人。翡翠たちは町の観光に繰り出し、セラ、フェノン、シリーの三人はカタリヤ王女様と一緒にいるそうだ。
というのも、目的であったSランクダンジョンの攻略は終わったので、明日にはリンデールへ帰ることにした。だからそれぞれ、思い残すことがないよう自由にしているということだ。
「ノアは職業なにで来たんだ?」
「魔王だよ~、お兄ちゃんは?」
「覇王だな。他の三次職のレベリングしようかとも思ったけど、それはリンデールに戻ってからでもいいやと思って。来る機会が少ないなら、楽しんだほうがいいだろうし」
一次職で縛りプレイでもいいかなぁとは思ったけど、今回は爽快感を優先することにした。この世界に来て初のレゼルSランクだし、スカッと行きたい。
現在俺たちがいるのは第二層。
青空を優雅に飛び回るワイバーンが、この階層で処理すべき敵だ。
気配察知にひっかかる気配を頼りに、テクテクとのんびり階層内を歩く。短い雑草を踏みしめながら、小学生高学年ぐらいの少女と二人。
クレセントたちはどんな会話をしながらこのダンジョンを歩いていたんだろうなぁ。
ヴィンゼット姉弟がヘロヘロだったことを考えると、俺たちのようにのんびりはしてなかったんだろうな……。
「呼ぶぞー」
「おっけー」
ノアに声を掛けてから、まだこちらに気付いておらず空を飛んでいるワイバーンめがけて魔道矢を放つ。移動速度と飛距離を頭で感覚的にとらえて放った矢は、ワイバーンの胴体に着弾した。
「さすがに頭は難しいか」
「この距離で当てること自体すごすぎるんだけどね……」
ダメージを負ったワイバーンは、怒りの咆哮をあげてからこちらへ真っすぐに飛んでくる。ノアが放った火の魔法は、あっさりと躱された――が、避けた先にノアがほぼ同時に放っていた弓矢が突き刺さる。
「おー、やるなノア」
相手の思考を読むとは、なかなかの上級者だ。
「これでも元神だからね……お兄ちゃんが異常なだけで、僕も結構すごいんだよ? 知識だけでいけば、僕のほうが多いはずなんだけどなぁ」
「お前は実戦経験が足りなすぎなんだよ」
あとさらっと俺を異常者扱いすんな。俺に限定せずとも、廃ゲーマーはみんなこんなもんだぞ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
というわけでやってまいりましたボス部屋。
巨大な鳥の巣のような場所で、これまた巨大な黄色と緑色の鱗を持つ竜がこちらをギロリと睨んでいる。全長は三十メートルほどだろうか。バカでかいから、他のSランクダンジョンの敵と比べるとやりづらいんだよなぁ。
「爽快感を求めていたけど、スキル縛りぐらいはやるか」
とはいっても、パッシブスキルは働いているから完全に縛っているわけではない。まぁスキルでの遠距離攻撃とかは禁止という方向でいきましょう。
そんな感じのことをノアに伝えると、彼女はげんなりとした顔付けで「えー」と不満そうな声を漏らした。
「僕、どっちかというと魔法のほうが好きなんだけど」
「たまにはこっちの訓練もしとけってこった、ほれ、いくぞ」
「はーい」
二人同時に、ドン――と地を鳴らし、砂埃を巻き上げながら狂風竜へと疾走する。
すると敵はすぐに空へ飛び立ち、口を大きく開いてウインドブレスを打ち下ろしてきた。しかし、それはあまりに遅い。
ノアは左へ、俺は右へ移動しながら、竜との距離を詰めていく。
俺はインベントリから弓を取り出しながら飛びあがり、発射。弓と矢はAランクダンジョンのドロップ品だし、ステータスマシマシなおかげでしっかりと敵の羽にダメージを負わせることができた。
「んー、貧弱!」
しかしやはり、武器が弱いし、ステータスも霊弓術士や剣聖の攻撃力と比べると若干劣る。覇王は各職業で憶えたスキルをすべて使えるということが利点なのに、今回はそれを縛ってるからな。致し方なし。
勢いをつけて滑空してきた竜は、うなり声を上げながら俺へと突撃してくる。横合いからノアが射撃をしているが、敵は無視して俺へと向かってきた。
「接近してくれて助かる」
ジャンボジェットがこちらへ飛んできているようなものなのに、恐怖はない。
何度も殺しあってきた相手だし、この攻撃も何千と見てきた。
そして現実と違い、俺のステータスじゃぶち当たっても死にはしない――と思う。当たり所がわるければ、そういうこともあるかもしれないけども。
「――ほっ」
竜の牙、爪をかいくぐり、腹に白蓮を突きさし削る。それをコンマ三秒ほどで抜いて、襲い来る尾を回避――それと同時に、攻撃もこなした。白蓮の付与効果である『白煌』――『三秒以内に同じ場所に攻撃すれば、ダメージ三倍』は今回無理そうだな……。
「ノアも好きなようにやれよーっ!」
竜が通り過ぎてから、少し離れたところにいるノアに向けて声を張り上げた。
「サボってもいいってことーっ?」
「せっかく来たんだからお前も楽しめよっ!」
竜がまた突撃してくるのを視界に入れながら、ノアに向かって叫ぶ。
彼女が遠目に肩を竦めるのが見えて、戦闘中であることを忘れて笑ってしまった。




