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【コミカライズ】俺、勇者じゃないですから。~VR世界の頂点に君臨せし男。転生し、レベル1の無職からリスタートする~  作者: 心音ゆるり
アフターストーリー

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Aー102 性格が悪いかもしれない




 ソウビさんからの射撃を回避もせずに掴んでしまった。

 いや回避の訓練のお手本で何をやっているんだよ俺は……。後ろが不安ならせめて回避してから掴めばいいだろうに。と、いまさら思ったところで何も問題は解決しない。

 そもそも俺視点から見れば問題が発生しているように見えているだけで、周囲では特に問題らしい問題が起こっているわけじゃない。ただ、ぽかんとしている人が多いだけだ。


 というわけで、ぽかんとしているうちの一人であるソウビさんにもう一度矢を放ってもらい、俺はそれを躱した。今度は避けても問題がないことを確認して。

 それを数度繰り返して、まぐれではないことを証明したところでソウビさんが感心したようにうなづきながら声を掛けてきた。


「はー……とんでもない反射神経だな、『覇王様』は」


「その呼び方はちょっと恥ずかしいので、普通に『SR』と名前で呼んでもらえると」


「エスアールか、そういえばそんな名前だったな」


 あぁ、こちらはまだ名乗っていなかったか。これは反省。

 名乗り忘れていたことを謝罪してから、話を本題へ。


「話を戻しますけど、回避についてですね。たしかに俺は人より反射神経がいいですけど、それだけってわけではないんですよ。動きの起点というか、呼吸を読んだりする感じです。弓は剣や拳と比べるとわかりづらいですが、慣れたら感覚でわかってきますよ」


 読めなければ負け――ならば読めるようになるしかない。というアホみたいな図式だが、俺はこれでテンペストを勝ち抜いてきたのだ。

 全員に『これをできるようになれ』とは言えないし言うつもりもないけど、少しぐらいは知ってもらって、回避の楽しさを覚えてもらえたら嬉しく思う。

 別に、秘匿しているわけでもないし。


「難しい話だなぁ……ちなみに、俺が矢を放つのはどうしてわかったんだ?」


「目線と矢の方向と指と腕の力の入れ方、そして足先とかですね。タイミングはそれに呼吸が加わるような感じです」


 特に意識しているのはその辺りだけど、俺が言語化できていないだけで他にもいろいろ見ていると思う。だからかなり、全体を見ていると言っていい。


「それを戦いながら見るってのか? それはさすがに無理だろう」


 眉間にしわを寄せながら言うソウビさん。でも、実際にできているから無理ではないんだよなぁ。


「ならやってみますか? 全員でかかってきてもらっても大丈夫ですよ」


 言い終わって気づく。なぜ俺は、すぐにこうやって戦いにもっていこうとしてしまうのか。

 戦闘狂、バトルジャンキー、ダンジョン狂いと言われても仕方がないなぁと、心の中で思った。



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 十二人対一の戦い。お互いに大けがのないように――と危険性のない武器をソウビさんが提案してきたけれど、あちらには魔法職の人もいるし、ソウビさんは派生二次職の魔弓術士のレベル上げをしている最中らしいので、手加減無用ということで実践と変わらない形でお願いした。魔法の矢を手加減して打つなんてことはできないからな。


 で、こちらは武器無しの無手でお相手をすることに。

 そもそもが回避の訓練の延長なので、こちらは基本的に攻撃無し。戦いながら俺がどういう動きをしているかを観察してもらい、のちに質問タイムを設けることにした。


「普通なら『舐めるな』と怒りたい気分なんだがな」


「もしそう言われたら、こちらこそ『エスアールを舐めるな』と言い返してやろう」


 セラのその言葉に、ソウビさんは「そうかい」と笑いながら返答した。

 俺たちが多対一の模擬戦をやることに気づいたらしく、セラや彼女に指導を受けていた剣士組の人達も観戦に来ていた。魔法や矢が飛んで行ったら危ないし、当然の措置と言える。


 あちらの邪魔をしてしまったなぁと反省していたのだけど、セラが解説をしながら指導してくれるらしいので、完全な邪魔というわけではなさそうだ。ノアはニコニコと楽しそうに見ているだけだが。お前も少しは働け。


 わらわらと無秩序に集まっている十二人の探索者の前に立つ。

 職業は手加減なしの覇王。スキルを使う予定はないけど、常時発動する『武の極致』や『魔を司る者』のおかげでステータスはアゲアゲである。

 今回はいい勝負をするというよりも、テンペストランカー勢の戦いを知ってもらうという意味合いが強いから、これでよし。誰がなんといおうと、これでいいのだ。たぶん。


「決着とかはないんで……そうですね、時間を決めますか? それとも疲れるまでやります?」


「エスアールがぼこぼこにされてギブアップする――って可能性もあるんだぜ?」


 インベントリから取り出した、お遊びではない弓を携えて、ソウビさんが口の端を吊り上げる。俺も彼に合わせて、同じような表情を作った。


「その可能性が万に一つでもあるかどうか、ぜひ模擬戦後に聞かせてほしいですね」


 十人を超えた勝負の経験はまだ少ないから、実に楽しみだなぁ。



「うっそだろ? 背中に目でもつけてんのかよ!?」


「かする気配すらゼロなんですけど!?」


「未来見えてるだろこの人。絶対おかしい」


「個別にやっても絶対当たんねぇ。協力してしかけるぞ」


「これが世界一――ってこっちに矢を飛ばさないでくれる!?」


「ギルマスお前もう少しなんとかしろよ! いつもの威勢はどうした!」


「てめぇ誰に向かって言ってんだ!? ドロップ品の買い取り額下げるぞ!」


「ごめんなさい!」


 賑やかだなぁと思いながら、十二人と対決。

 もともとのレゼルの気質なのか、チームプレイというものはほとんどなく、個人技の総力戦といった感じ。途中から協力プレイをしている探索者も数人いたけど、ソウビさんを初めとしてソロプレイが基本だった。以前ヴィンゼット姉弟がそんなことを言っていたなぁと、この時になって思い出した。


 試合が始まって、だいたい三十分が経過。


 力尽きて地面に寝転がる探索者たちが立ち上がってこないことを確認してから、彼らと同様に仰向けになって荒い呼吸をしているソウビさんのもとに歩み寄り、俺はいやらしい笑みを浮かべて問いかけた。


「俺がギブアップする可能性、ありそうでしたか?」


「――はぁ、はぁ……エスアール、この結果のあとに、その質問は、性格が悪いぞ」


 はい、どうもすみませんでした。




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