A-96 レゼル王国
レゼル王国の王都にやってきてから、全員で王城にやってきて国王陛下に謁見した。
別に何かを頼まれるでもなく、何か制限を付けられるでもなく、この国を自由に楽しんでいってほしいとのこと。
ただ、もしSランクダンジョンに潜るのであれば、その情報はいただけたら助かる――といった感じで、王様の威厳は保ちつつも、どこか低姿勢な雰囲気を感じた。
リンデールに対して――というわけではなく、俺たちの能力を評価してのことだと俺は感じた。どちらにせよ、高圧的にこられるよりもありがたい。
それから、カタリヤ第二王女の案内で、俺たちは宿に案内された。宿と言っても、王城内にある客間であり、俺たちリンデール王国一行は完全に賓客扱いである。
俺やクレセントたちだけならまだしも、フェノンとかがいるからしかたないか。まぁ雰囲気はわりと緩めだし、息苦しくてたまらないってことはないだろう。
帰宅場所を覚えてから、俺たちはさっそく街へ繰り出した。
フェノンとセラはカタリヤ第二王女と話すようだし、シリーはもちろんそこに加わる。
明日からはどうなるかわからないけど、フェノンは久しぶりの再会って言っていたからな。積もる話もあるのだろう。セラは、フェノンだけ仲間外れにしないようにしてくれていたのかな?
俺は逆に、クレセントと翡翠が気まずくないように城下町にやって来たわけだが、あまりリンデール王国と大差はない。
人の多さやファッション的な問題で少しの差はあるけれど、そこまで気にならない程度だ。
「とりあえずギルドに行ってみるか? それとも街を散策する?」
俺、ノア、クレセント、そして翡翠の四人で、人の賑わう場所までやって来た。貴族街は馬車で移動したが、そこからは徒歩だ。護衛も断った。
「ボクはSRさんの決定に従います」
翡翠はさも当たり前のようにそう言った。
そんな従順にならず自由に意見を言っていいのに。
「あそこのアイス屋行きたいッス!」
お前はお前で自由だな。まぁそっちの方が俺は楽なのだけど。
「お兄ちゃん僕もアイス食べたいな」
「思い出したように妹キャラになるなよ」
クレセントはともかく、ノアは小学校高学年といった感じのみなりだし、翡翠も身長百五十センチぐらいだから同年代では小さいほうだろう。なんだか子守をしている気分になるな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
お店に入ってソフトクリームを購入し、その店のテラスに四人座って休憩する。
このお店自体はカフェみたいな造りで、ドリンク系も結構な種類を販売していた。
電子機器こそないものの、それに似た魔法の道具は色々置いてある。この辺りは、どこの国も一緒だな。空中に表示されるウィンドウがある時点で、細かいことを気にするだけ無駄だと思うけど。
「Sランクダンジョンはクリアするとしても、行って帰るだけじゃあまりにも味気ないからな。ノアは嫌がるだろうけど、ヴィンゼット姉弟にも挨拶ぐらいしておきたいし」
ぶっちゃけ全てを急いで終わらせようとしたら、ヴィンゼット姉弟との交流もSランクダンジョンの踏破も一日で終わってしまう。
武器や防具を求めて軽く周回をしてもいいけれど、ここのレアドロップ、俺が持っている白蓮だからなぁ。唯一俺と同じ戦闘スタイルの翡翠もすでに所持しているし、うまみはない。
まぁ他の誰かが使う時のために、あって損はないと思うけど。
「アーノルドか……僕、アレ苦手なんだよね」
ノアがソフトクリームを片手にもったまま、テーブルに顎を付けて弱音を吐く。他国の貴族を『アレ』呼ばわりするんじゃありません。
神様と言えど、ロリコンの相手は精神にいくらかのダメージを負ってしまうようだ。
首を傾げるクレセントと翡翠に事情を説明すると、彼女たちは揃って乾いた笑いを漏らした。
「でもSRさんも似たようなもんッスよね?」
「おいこらそこ! 人聞きの悪いことを言うんじゃない! 俺はノーマルだ!」
たしかにノアのことはなんだかんだで認めつつあるけれど、こいつは精神年齢が俺たちより遥かに上だからな。合法ロリみたいな感じだ。
「でも、SRさん、元が三十代ッスよね? いまSRさんの周り、ひと回り年下の人たちが多くないッスか?」
「年下好きとロリコンは違うと思うよミカ」
翡翠がため息を吐きながら助け舟を出してくれる。ありがとう。
「ん? あー、確かにそうッスね。じゃあSRさんは年下が好きなんッスか?」
なぜか変な方向に話が逸れてしまった。なんで俺の好みの年齢の話になってるんだよ。
いやでも、たしかに言われてみれば年下が好き――なんだろうな。あまりそのあたり深く考えたことがなかった。
「ひどい! お兄ちゃんは僕だけのけ者にするんだ!」
「お前は妹なんだから俺より下だろうが」
「それ設定じゃん」
「自分で言うことじゃないだろ……」
周りに客がいないからいいものの、外でするような話じゃないな。




