A-86 王女様を救いたい一心で
探索者ギルドにて話し合いを終えて、受付のあるホールまでやってくると、テーブル席でエールをあおる探索者の他、周りの雰囲気にそぐわない少女が混ざっていた。まぁノアである。
「お帰りお兄ちゃん。話し合いは終わった?」
「あぁ終わったよ。――で、お前は何をしに来たんだ?」
「パーティハウスに居てもすることないから暇つぶしだね! 迅雷の軌跡はダンジョンだし、フェノンとシリーは王城に行っちゃったし」
「ん? セラさんはどうしたんスか?」
クレセントがそう問いかけると、ノアの代わりにひげ面の探索者が回答する。
「剣姫の姉御は訓練場に行ったぜ――ところで嬢ちゃんは見ねえ顔だが、ASRの仲間かい?」
「まぁそんなところッスねぇ」
そんな感じで、クレセントは初対面の探索者に物怖じすることなく会話を始める。まぁテンペストでもあんな容姿のキャラはたくさんいたから、それで慣れているのかもしれない。もっとわけのわからんスキンのやつもいたからな。
しかしあれだな……クレセントをパーティメンバーに加えるとはいっても、彼女に関してはこの世界でダンジョンに潜る目的はもう金稼ぎ以外にないんだよなぁ。全てのジョブをレベルマックスまで上げ切っているわけだし、本当にセラ達のサポートするぐらいしかやることがない。
ASRのメンバーや迅雷の軌跡は、現在二次職のステータスボーナスを全取得して、三次職のレベル30のボーナスをとったりとってなかったりといった感じ。俺は魔王と剣聖に加え、霊弓術士をレベル100まで上げている。残すは聖者のみだが、これはのんびりダンジョン攻略していれば、勝手にカンストしてしまうだろう。
まぁどうせ既存のメンバー五人にひとり加わるのだから、誰かは不参加に――いや、クレセントがいるのだし、二パーティに分けて行動してもいいのか。
「別にこの世界に来たからといって、探索者として生きる必要もないけどね」
「んー……まぁそれもそうだけどな。クレセントが別にダンジョンに興味がないと言うなら、身を置く場所として利用してもらってもいいけど」
「うんうん、そうだね。まぁこうやっていろいろな人と関わるのは、大事だと思うよ。家に引きこもってばかりいると、出会いがないからね」
前世の俺に向かって言ってんのかこのクソガキぃ……なんも言い返せないけど。
「ニートだけにはならないようにするよ」
俺がそう言うと、ノアは楽しそうに笑うのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
訓練場にて、探索者たちをボコボコにしてスッキリした様子のセラと合流し、四人でパーティハウスに帰宅した。すでにシリーやフェノンは帰ってきており、なんなら迅雷の軌跡たちもリビングでくつろいでいた。
「あれ? シンたちも来てたんだ。ダンジョンはもういいのか?」
「おう、おかえり。ここのところダンジョン潜ってばかりだったからなぁ、あまり気張りすぎてもミスが怖いから、今日は撤退してきた」
「ですです。ちょっとシンが張り切りすぎてたので、無理やり帰させたです」
「シンったらクレセントちゃんに対抗心燃やしてるのよ。けちょんけちょんにされたのが悔しかったのね」
俺の問いかけに、迅雷の軌跡の面々がそれぞれ返事をする。
彼らのソファの対面に座るフェノンとシリーは苦笑していた。ちなみにシンは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。やーいバラされてやんの~。
「まぁクレセントは年季が違うから気にすんな。焦って死んだりしたら元も子もないからな」
「おまえさんと同じことを二人にも言われたよ……まぁまずはクレセントよりも、個人でセラ相手に勝率八割ぐらいとれるようにならないとなぁ」
「いま戦績どれぐらい?」
「ちょうど五分五分ぐらいだったはず」
「おぉ……本当にいい勝負だなお前ら」
二人は、現在同じようなペースでステータスボーナスを取得している状況だが、戦績は六対四になったり四対六になったりと均衡している。クレセントより良いライバルがいるじゃないか。まぁ今のシンは、手も足も出なかったからこそやる気に満ち溢れているのだろうけど。
「まぁあれッスよ。負けず嫌いって、こういう戦いにおいてはものすごく重要ッスよ。もちろん、行き過ぎた行動を諫めてくれる仲間も同じぐらい重要だと思うッス」
クレセントはそう言うと、同意を求めるようにセラに顔を向けた。
彼女はコクリと頷き、俺に目を向ける。
「エスアールはフェノンを助ける時も、根本の理由は『負けたくない』とか言っていたからな」
「ふふっ、エスアールさんらしくていいじゃないですか」
セラの言葉に、フェノンはニコニコと笑みを浮かべる。それでいいのかよフェノン。
「えぇ……SRさん、そこは『王女様を救いたい一心で』とか言っておいたほうが良いッスよ……」
その時も、たしかセラに同じこと言われたんだよな……すんません。




