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【コミカライズ】俺、勇者じゃないですから。~VR世界の頂点に君臨せし男。転生し、レベル1の無職からリスタートする~  作者: 心音ゆるり
第一章 始まりのエリクサー

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18 負けず嫌いな男



「正直、そのレベルの3人パーティでありながら、3階層周辺で燻くすぶっているようでは、ステータスボーナスが1つ付いたところで、踏破は難しいでしょう。セラさんが加わったとしても、犠牲が出る危険性がかなり高いです」



 俺の発言をうけて、案の定シンさんは眉間にシワを寄せた。


「この国トップの探索者に向かって、随分と上からな物言いだな」


 軽く睨むような視線を向けつつ、彼は言う。スズさんやライカさんも口では何も言わないが、不服そうな表情をしていた。

 それに反論したのはセラさんだ。


「事実、彼は強いぞ」


 俺の隣に座る彼女は、いつになく真剣な表情をしていた。この世界で俺と戦闘した経験があるのはセラさんのみ。彼女が一番俺の強さについては詳しいだろう。それでも、お遊び程度の感覚だったが。


「なんだ? 随分とエスアールに肩入れするじゃねぇか。もしかしてあの噂は本当だったのか? お前さんが模擬戦で負けたってのは」


 観戦者は沢山いたからなぁ。彼が模擬戦のことを知っていても不思議はない。セラさん、有名みたいだったし。


「あぁ、本当だ。私はエスアールに手も足も出ず負けている」


 ふふん――と、やや胸を反らしながらセラさんが答える。

 いやセラさん。なに堂々と言ってるの。それ、胸張って言うようなことじゃないからな。


「……少しはやるみたいだが、さっき聞いたステータスボーナスとやらのことを考えれば、お前さんとエスアールの能力は大差ないんじゃないか? それだけで、俺たちを見下した発言をしたのなら――こいつには少し痛い目を見てもらわないといけないが」


 腕組みをしながら、シンさんが顎で俺を指す。


 俺としてはそんなことを言われても、苦笑いを浮かべる他ない。だってシンさん勘違いしてるし。俺、その時プレイヤーボーナスは1つもなかったぞ。

 俺が彼の間違いをどう訂正するか考えているうちに、セラさんが先に口を開いた。


「シン。私が負けたのは10日ほど前のことだ。今のエスアールとは違う」


「――はっ。たかだか10日で何ができるって言うんだ」


 10日あれば、色々できると思う。わざわざ言わないけどさ。


「信じられないと思うがな……彼、エスアールは、私と模擬戦をする前日まで、職業未選択の状態だったんだぞ。私と模擬戦をしたのは、単純に下級職レベル5の時だった」


 セラさんがそう言うと、彼の視線は俺を疑うような眼差しに変わる。


「ありえねぇ。お前さん、騙されてるんじゃねぇか?」


「騙されてなどいない」

 

 バチバチと睨み合うシンさんとセラさん。あんたたちが喧嘩してどうすんだよ。いまそれどころじゃないだろ。


 というか話が逸れすぎだ……ここら辺りで軌道修正をしておくか。


「言い方が悪くてすみませんでした。ですが、踏破が難しいことはわかってくれますよね?」


 軽く頭を下げてから、迅雷の軌跡へ問う。彼らは俺の言い分が正しいと思ったのか、一様に口を噤む。


 彼らのステータスで、Bランクダンジョンに挑むことはそもそも無謀だ。だが、彼らはそれを技量で補い、ダンジョンへアタックしている。王国ナンバーワンの肩書きは伊達じゃないということだ。

 彼らもステータスを順調に上げていけば、俺の足元ぐらいには届くようになるかもしれない。


「だったらどうしろって言うんだ。できるって言ったりできねぇって言ったり、話が見えねぇ」


 スズさんやライカさんも、彼の発言に頷いた。

 彼らの言う通りだ。さすがに回りくどかったか。


「役割分担ですよ」


「……役割分担?」


 シンさんは、俺の言葉を不思議そうにしながら復唱した。


「はい。迅雷の軌跡とセラさんには、Bランクダンジョンの1層から5層を踏破していただきたい。全て踏破は難しくとも、それならば可能なはずです」


「……ボスはどうするんだ?」


「俺がやります」


「1人で?」


「はい。俺、パーティ戦闘って苦手なんですよ。1人のほうが戦いやすいですから」


 俺が1層から5層を攻略して、万全の迅雷の軌跡とセラさんにボスを任せてもいいが、その場合俺は役立たずの状態になっているだろうから、彼らに万が一のことがあった場合、対処できない。それはあまり分のいい賭けとは言えないだろう。


 シンさんは、ジッと俺の瞳を見ている。スズさんやライカさんも同様だ。

 やがて、シンさんは深いため息を吐いた。


「……もういい、考えるのに疲れた」


 シンさんそう言って、頭をガシガシと掻く。

 彼はこの髪をぐしゃぐしゃにする動作が多いな、癖なんだろうか?


「エスアールの言うことが、全て真実だったとしよう。お前さんは俺たちの誰よりも強く、ボスも1人で倒せるとしよう。だがな――全然目的が見えねぇ。俺たちに貴重な情報まで与えて、いきなりふらっと現れたお前さんが王女様を救いたい? そうじゃねぇだろ。もっとわかりやすい、自分本位の理由があるはずだ」


 先ほどまでとは違う雰囲気で、彼は問いかけてきた。

 ここでもし、俺が答えを間違えれば、彼らは協力してくれない。直感でそう思った。

 王女様を救いたいのは事実なんだが、そう答えたら彼は納得しないだろう。別の理由を言わないと。


 ……うーん。


 俺の本心を答えたら、彼らはどう反応するだろうか。

 いっそのこと、取り繕って適当に綺麗な言葉を並べるか?

 いや無理だわ。俺、嘘つくの苦手なんだよな。


「――嫌いなんですよ」


「ん? なんだって?」


 あまり言いたくないことだったので、つい小声になってしまい、シンさんにまで言葉が伝わらなかったようだ。

 今度ははっきりとした口調で、声を大きくして言った。


「だから、負けるのが嫌いなんですよ!」


 シンさんと同じく、俺も考えるのに疲れてしまった。

 もうどうにでもなれだ。羞恥心など捨ててしまえ!


「負けるのが嫌い?」


「ええそうです。この世界で、俺が負けるとか――ふざけんなって話です。それが人であろうと、状況であろうと関係ない。王女様の命を救いたいのはもちろんですが、彼女の命を救えない自分が許せない。この程度の逆境で諦められるはず……ないだろ。逃げてのうのうと生きるぐらいなら、死んだほうがマシだ。ましてやそれがBランクダンジョンの踏破? ――はっ! ありえんだろ。俺は全てを奪われても、落ちぶれるつもりはないっ!」


 言い終えると、室内はしん――と静まりかえった。


 ……ふう。言いたいこと言ったらスッキリした。

 最後のほうはつい熱がこもって砕けた口調になってしまったが、今更だろう。それに、余計なことまで口走ってしまった気がするけど、気のせいだということにしておこうか。


 ピクリとも動かない5人を無視して、俺はカップに入っていた残りの紅茶を一気に飲み干した。味も香りも感じない。


 最初に動きがあったのは、スズさんだった。


「――ぷ」


 彼女は俯いて、身体を小刻みに震わせている。


「そこは嘘でも王女様を救う一心で――と言ってほしかったがな」


 苦笑しながらそう言ったのはセラさんだ。

 彼女はその後「まぁ救うことができればなんでもいいんだがな」と自己解決し、クッキーに手を伸ばしていた。


 テーブルに肘を突き、頭を抱えながら大きなため息を吐くレグルスさん。そして、ニヤニヤした表情でこちらを見るライカさん。シンさんはスズさんと同じく、俯き、震えていた。


「――くくっ。何を言い出すかと思えば、ただの負けず嫌いかよ」


「だから最初に言ったじゃないですか。負けるのが嫌いって」


「確かに言ってたな」


 そう言うと、彼は再び身体を震わせる。笑いを堪えているみたいだ。よく見ると、スズさんも笑ってるように見える。


 渾身の演説を笑われてしまい、居心地の悪い空気を味わっていると、シンさんが「わかったよ」と目尻を指で拭いながら言った。


「俺たちはどうせ行き詰まって、途方に暮れてたんだ。泥舟にでもなんでも乗ってやる」


「豪華客船と思ってもらって大丈夫ですから」


 タイタ〇ックじゃないからな!


 俺の発言に、シンさんは再びくくく―――と笑う。

 まったく……イケメンは笑い方までイケメンだな。俺も機会があれば真似してみよう。


「俺たちやセラを引き立て役にしようってんだ。負けは許されねぇからな」


「えぇそれはもちろん。皆さんはゆっくり俺の戦闘を観戦してください」


 丸く収まったことに安堵しつつ、俺は笑顔でシンさんにそう告げた。


 このステータスでの身体の動かし方も、ほぼ完璧に理解した。覇王ベノムと戦闘した時には及ばないが、それに近い動きをすることはできるだろう。


 彼らには頂に立つ者の戦いがどういうものか、見てもらうとしようか。


 というかレグルスさん。

 一番立場上のはずなのに、ほとんど空気だな。




 

 

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― 新着の感想 ―
雑な話をしますがこの話に存在しない国のタイタニックな物語をこの話で出されると読者は一度現実に帰ります。この話に読者を誘いのめり込ませる為ならば、現実の常識は一旦置いてきたほうがいいです
[気になる点] 最初の振り返りいりますか?連続で読むのに知ってますって。 文字数増やすための工夫? アニメの振り返りの時間稼ぎなんて、見てて必要っておもったことありますか? 「正直、そのレベルの3人…
[気になる点] 全てを奪われても落ちぶれるつもりはないってところが微妙に決まってない笑笑 他は良かった。それも多分目的意識が原因だよね。今後の展開に引き込まれる筋書きが生まれるとめっちゃいいかも。
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