97 ローマ字表記『S. R.』
閑話を含めて全100話となりました!
読んでくれてありがとう!!
ノアに聞きたいことはまだ山ほどあるが、俺はひとまずレベル上げを開始することにした。
聞き始めたら話が長くなってしまいそうだし、時間の無駄だ。どうせ長話をするのならば、体力的に疲れた時でいいだろう。
「VITのことなら気にしなくてもいいよ。僕が順次補給するから。君は精神的に疲れた時に休んでくれ」
「……そうかよ」
どうやら俺は疲れないらしい。
身体にガタが来てくれたらわかりやすかったが、精神的な疲労は自分では判断が難しそうだ。その辺はノアが勝手に見極めてくれることを信じよう。
あいつにとっても俺が壊れてしまったらどうしようもないだろうし、丁重に扱ってくれるに違いない。
「剣聖からやるか」
最初に俺が選んだ三次職は、プレイヤーボーナスでSTR、AGI、VITが上昇する剣聖だ。
魔法職だろうがなんだろうが結局のところ俺は接近戦しかしないから、この職業のプレイヤーボーナスは早急に獲得しておきたい。
ステータスにきちんと剣士、拳闘士、剣豪、豪傑、武闘剣士のスキルが表示されていることを確認すると、俺はノアから受け取った黒の棺を身に纏い、家の外に出た。
相変わらず、気味の悪い景色が広がっている。廃墟のほうがまだ生活感があると思えるぐらいに何も無い。
家を壊されるとノアに無駄な力を使わせてしまうだろうから、俺はスタスタと適度に距離をとることにした。足を進めながら、ふわふわと俺の後ろで浮かんでいるノアに問う。
「お前はテンペストに出てくる魔物を全て出せるのか?」
「そうだよ。それ以外の魔物も作れるけど、今回は戦い慣れた魔物にしてくれるかい? 万が一があってはいけないし、それが原因でペースを落とされても困るからね」
前半部分を聞いて多少わくわくしてしまったが、ダメらしい。
この状況で楽しもうとするのは確かに不謹慎だし、ミスでもしたら笑えないもんな。ここはノアの言う通りにすべきだろう。
「わかった。じゃあとりあえず、わたあめ――フリージングスパイダー2匹と、九尾を2匹出してくれ」
九尾は別のSランクダンジョンに出現するボスだ。わたあめとは対照的に炎を操る魔物で、体格は3メートル強とSランクダンジョンのボスの中では一番小さいが、動きが素早く、強力な魔法を頻繁に使用してくる。
とはいっても、Sランクダンジョンのボス程度ならば、テンペストのプレイヤーは単独で倒せる奴も多かった。
「……君、正気かい? さっき僕が言ったことの意味、わかってるよね?」
引きつったような表情でノアが言う。
これでも危なくないように少なめに頼んだんだがな。
「お前こそ、正気かよ。俺がテンペストをプレイしていたのを知ってるんだろ? パーティ戦に単独で乗り込んでたんだし、多対一の戦闘は慣れっこだっての。体力の心配がなくて、しかもプレイヤーよりも数が少なくて弱いのなら俺は負けん」
この程度で負けてしまうような技術しかないのなら、ベノムに勝つことなど到底できやしない。だからこれは慢心じゃなく、事実だ。
「……わかったよ。だけど、最初は2体だけにしてくれるかい? 君が無傷で危うげなく倒すことができたのなら、数を増やそう」
「別にいいが、神様ってのは心配性なのか?」
仮にも神という立場にいるのだから、全知全能ではないとしても、俺が問題なく倒せることぐらいわかっているだろうに。
「SR君はもっと世界の行く末を左右する立場にいることを自覚するべきだよ……」
肩を落とし、大きなため息を一つ。
ノアはしぶしぶといった様子で両の手の平を前に突き出した。
家が出現した時とは違い、黒い胞子のような物が一点に収束し――拡大。十数メートル先に、フリージングスパイダーと九尾が出現した。
俺は敵の動向に注意しつつインベントリから赤刀を取り出し、その場で屈伸運動をする。
「さて、やるかな」
そして、躊躇いなく前に歩を進めた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~ノアSide~
SR君がレベル上げを始めてから、丸三日が経過した。
その間、彼は睡眠どころか一度も休息をとっていない。魔物を倒し終えるとすぐに「次!」と大きな声で叫び、魔物の催促をするのだ。
いくら僕が体力を回復させているとはいえ、笑顔で楽しそうに戦い続ける彼の姿は、神である僕の目からみても異常としか思えなかった。
「そういえば僕の子供たちが、彼のことを『戦闘狂』と言っていたね」
SR君は今、Sランクダンジョンのボス全てと同時に戦っている。一対六の――僕の子供たちが見れば裸足で逃げ出してしまいそうな状況だ。氷、炎、風――様々な魔法や暴力が彼に襲い掛かるが、一度として彼を捉えることができていない。
まったく負ける気配がない。危うい場面すら訪れない。
それどころか、彼の表情からは『物足りない』という想いが伝わってきているように感じるのだ。
「はたして戦闘狂なんて陳腐な言葉で済ませていいものなのかな」
僕が彼に与えた『目』。
僕はこの目のことを『起源の眼』と呼んでいる。
視力が格段に上昇するのはもちろん、視覚情報を得ると同時に物事を判断し、反応する。反射までの時間を減らすのではなく、ゼロにする特殊な目だ。
「本来ならあり得ないことなんだけどね」
SR君は拳闘士のスキルである『見切り』のことを、目で捉えてから身体を動かすまでのタイムラグを減少させるモノ――として認識しているようだが、実際は違う。
もともと『起源の眼』によってゼロになったタイムラグを、さらに減少させている――すなわち、マイナスだ。
おそらく本人は気付いていないだろうが、見切りのスキルが発動しているとき、彼はほんの少し先の未来をその目に映している。
「やっぱり、君は普通じゃないよ。ただの平凡な魂であるはずがない」
六体の魔物がSR君と戦っているこの異様な光景も、見慣れてくると魔物がSR君を襲っているのではなく、彼のほうが魔物を襲っているように見えるから不思議だ。
類まれなる戦闘のセンスを持ち、どこまでも貪欲に勝利を望む彼が、『目』の適合者となれたのは、はたしてただの偶然なのだろうか。
「――それとも必然か」
地球という星の、日本という国で君がその名を持って生を受けたのは運命か、
「――はたまた宿命か」
地球の創造神様ならば何か知っていそうだけど、きっと教えてはくれないだろうな。
そんな風に彼の戦闘を見ながらぼんやりと考え事をしていると、六体の魔物は次々に粒子となって消えていき、僕の元に大量のエネルギーが流れ込んできた。そして、彼は間髪容れずに叫ぶ。
「次だっ!」
僕は彼の言葉に黙って従い、再び六体の魔物を出現させた。すると彼はまた同じように戦闘を開始する。身体が疲れていないからか、未だに彼が休もうとする気配はない。いったいいつまで続くのやら。
僕はそんなSR君の背中を見て、あろうことか恐怖に近い感情を抱いてしまった。神である僕が、人の身である彼に対して。
「その『目』を持った君は、まさしく修羅のようだね」
この世界では寒気なんて感じないはずなのに、僕は思わず自身の身体を抱いた。
戦いに明け暮れるいまの君の姿を見ると、作られたキャラネームじゃなく、本名のほうで呼ぶべきなんじゃないかと思えてくる。
「君もそうは思わないかい?」
ねぇ、六道――修維君。
と、言うわけで、これがSRの名前の意味です!
好き嫌い別れると思いますが、
私はっ!こういうのっ!好きです!!
ちょっとでも『いいんじゃない』と思ってくれた方は!
是非ブクマとか評価で応援してくださいませ!
すでにしてるよ!って素敵な方は、感想欄で適当に「ほぁーー!!」とか叫んでくださいませ!!
※感想は極力消したくないので、ネタバレしないようにお願いします○┐ペコ
100話まで読んでいただき、本当にありがとうございます!残りの執筆も、継続して頑張ります!!




